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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

オッサン専用店

泣き虫で母親想いなオッサン

見たことも無い獣を見る以外に何も起こらない日々を過ごし、地球と異世界のお店を行ったり来たり。地球と異世界での二足の草鞋。を始めてから1週間後。

ついに、当店初のお客さんを迎える事になる。


その日は森でもなく、街はずれでもなく、ダンジョンの方のお店を開けることにした。

そう、あのミノタウロスさんが巡回しているダンジョンのお店である。

なんとなく胸騒ぎがしたのだ。


そして、いつもの様に恥ずかしいデザインの扉を開けると

お店の外に見えたのは

血の気の多そうなイケメンを先頭に、お店に攻撃を仕掛けてる20人程度の団体様。

おいおいおい。

魔法攻撃っぽいのまで、かましてきやがりますぜ、あいつら。

まあ、全て見えないバリアーの様な物で弾かれてて、マジウケる状態だけど。

何人もの人間が透明なガラスを隔てて、こちらに向かって攻撃をしている光景は胃が痛いなーあ、と。

しかも、その周りを更に何人もの人間が囲んでるっていうね。

心臓に悪いよーお、と。

あ、呑気に心の中で心境を棒読みしてたら見つかってしまったらしい。


「おい!!見ろ!!中に魔族の女がいるぞ!!年増だ!!気をつけろ!!年食ってる奴ほど強いからな!!」

と、先頭のイケメン野郎が叫んだ。

お前は絶対に許さん。

私の年齢でそのネタはタブーだ馬鹿者。

暫くしたら、あのミノタウロスさんが来るだろうから

思う存分、相手してもらえば良いさ!

その時に私は地球に戻ればいい。

そう考えている間も、

【出てこい!】

【俺がぶっ殺してやる!】

【来いよオラァ!】

【滅べ魔族!!】

なんて色々と罵声が飛んでくるけど気にしない気にしない。


私は慌てず、騒がず。

店内を歩く。

本日、店頭に並べたばかりの新作のカップ麺があるのだ。

それを目当てに、今日の私は間食を控え、運動もばっちりして来た。

店内で腹筋マシーンを使ってても許されるのって、私のお店ならではだよね。

他の人はマネしないように。

そして私は更に、脂肪の吸収を抑える飲料を片手に取る。

今の私に死角なし。

一応、何かあった時の為に鎌も片手に用意し、ポットや割りばしが用意されている飲食スペース、一段上がりの和室へ移動。

勿論、外の様子は見れるように障子は開けておく。

そこでカップ麺を開け、お湯を注ぐ。

その間も私の一挙一動にビビる奴らが面白い。

そしてあいつらの存在を無視しつつ待つこと3分。

熱々、いい香りが漂うラーメンの出来上がり。

私はそれを食す。

おお!これは久々のヒット商品だ!

モチモチの麺もたまらんね!

やっぱり、ラーメンは味噌が一番好きでござる!

そう思いながら麺をすすっていると、目の前の団体さんが

【おい、こいつ飯食ってんぞ。】

【さっきから反応もねぇし。】

【あっちからこっちは見えねぇんじゃねえのか?】

【こっちから見えるだけか、幻か。】

【だって可笑しいだろ。こいつ。】

なんて会議を始め、見通しが良いだの、もう魔力や体力が残ってないだのなんだと言って、店の前で野営を始めやがった。


いやいやいや。

良く考えろよ、お前ら。

いくら相手から見えてないかもしれないからって、目の前で飯食ってるからって、敵かもしれない奴の目の前でくつろぎ始めるなよ。

アホか。

と、思いつつ、スープを飲み干す私。

ああ、やっぱりこの商品は私専用に箱買い決定だな。

追加注文をせねば。


大満足の食事を終え、お茶を飲みながら外を観察してみると、団体さんは何種類かのチームがまとまって出来ているらしい。

ほぼ、若くて血気盛んな剣士やらが多いみたいだけど。

イケメンはハーレムパーティーと言うのだろうか?

ボンキュッボンのパツパツ服がドエロい僧侶から、

気の弱そうな磨けば光る原石系ロリな魔法使い、

防御力ゼロだろうビキニアーマーな女剣士さん、

気の強そうな貧乳ドリルヘアー。

を侍らせて作戦会議中。

【少しはあんたも休みなさいよ!】

なんて言われて

【俺が頑張らないでどうするんだ!】

とか返して

【貴女がいないと私達は終わりなんですよ!】

【もっと自分を大事にしてください!】

なんて、目の前で安物の劇が繰り広げられてて、色々拗らせてる感がある。


すると、そんな空気をぶった切り、現れました。

ミノタウロスさん。

いつも同じ時間の巡回、ご苦労様です。

私は最近、このミノタウロスさんとコミュニケーションが取れないか真剣に考えている。

この世界で一番多く会ってる存在だからね。

出来れば勝ってほしい。

無傷の方向で。

ミノタウロスさんはお店の前を通る時、此方を見る&私と目が合うのに、一度も攻撃してきたことないんだよね。

建物に勝てないと思っているのか、私が攻撃の対象外なのかは分からないので要検証だけども。

ドックフードかなんかで手なずけられないかなぁ。

と思案中。

キャットフードもありだよね。

うちでは冷凍のお肉だって売ってるし、賞味期限が近くなってるのをお裾分けしても良いんだし。

と、今後のミノタウロスさんとのご近所付き合いについて考えていると、あちこちから叫び声が聞こえてきた。


【くっそ!!強い!この階のボスだ!気をつけろ!】

【魔族への攻撃で魔力が残ってない!】

【俺も剣が折れてる!】

【おい!こっちだ!こっちから攻撃しろ!】

と、ブッフゥ~!私に攻撃したせいで負けそうとかウケる!

流石のミノタウロスさん、敵をちぎっては投げー。ちぎっては投げー。

をどんどこ繰り返して・・・・

あ、今、飛んでったのって私を年増呼ばわりしたイケメン君じゃね?

ミノタウロスさん、片手で投げてたけど。

にしてもグロいなー。

田舎だから牛の解体やら豚の解体には慣れてるけど、流石に人間はね・・・。

吐きはしないけど、デザートは食えそうにないわ。

なんて場違いな事を考えていると


「うううぅぅっぅ~。帰りてぇよぉ~。母ちゃ~ん・・・。か~ちゃん・・・。グスッ 親不孝な息子でごめんなざーい!!こんな歳で冒険者なんて、かーちゃん、病気なのに、薬代も稼げなくで、、、ごめんなざーい!!オレ、オレ、次もかーちゃんの子に生まれてぇよぉ~。ズビズビ~」


・・・・・・・・・。


折れた剣と汚い鎧と服を纏い、身体も泥にまみれ、はっきり言って凄く汚いオッサン。

オッサンならぬ汚っさんが身体を丸めて、母親を求めて泣いている。


ちょ、キュンとするんですけど!!

母性が鷲掴みにされたんですけど!!

冒険者なら戦えよ!死ぬのは承知の上だろ!

とも思うけど、相手はオッサンだし!

情けなくて可愛いよ!

無類のオッサン好きな私からしたら大好物!大好物!

特別枠!特別枠!


私は惨状から目を逸らし、ルンルンとした気持ちで、目の前のオッサンの入店を許可した。

勿論、片手には鎌を所持。

何かあったら大変だからね、一応、念の為よ。

すると、オッサンは店内の入り口、足拭きマットの上に瞬間移動した。

外では阿鼻叫喚。

店内に移動したオッサンは未だに泣きながら、母親への感謝、懺悔を繰り返している。

外の惨事は見せたくないので、視界を遮る方のシャッターを下ろさせてもらう。


「あの~。オッサン?大丈夫ですか?突然ですが、お一人ですか?お仲間は?」

これ大事。

このオッサンに仲間がいるなら、その人も助けなきゃかもだし。


「んえ?ズズズっ ここ、どこだ?・・・・あんた!!魔族!!うわぁぁぁぁ!!!オレ、もう、もう、・・・・ごめん、かーちゃん・・・・・・。」

と、我を忘れたかのように自動ドアを叩き、泣き崩れたオッサン。


「ねぇ、一人なの?仲間はいるの?どうなの?」

再度聞いてみる。


「・・・・ひと、り・・・。ひとりで、、、さん、、か、した・・・。」

と、すごく小さい声で呟きながら泣くオッサン。


おお!

お一人様ですか!

ならば、お茶にでもお誘いしましょう。

深夜のお茶デートでござるよ!

ふっふふ~ん♪


私はオッサンを横目で見張りつつ、温かーいお茶を入れてあげる。

ついでに商品棚から御茶菓子も調達。

お煎餅とどら焼きを確保。

店内を歩かせるのは面倒なので、和室の方から座布団を2枚持ってきて、再度オッサンに声をかける。


「オッサン、オッサン。これ、飲んで落ち着いて。私は別に敵じゃないし。オッサンに危害は加えないからさ、お茶しよ。ね?私、一人で寂しかったんだよー。一緒にお茶しよう。」


熱すぎない、温かいお茶をオススメする。

この時、目線を同じ高さにして、出来るだけ微笑みながら、優しい声で、肩を優しくポンポンと叩きながら声をかけるのがポイント。

これ、泣いてる子にはそこそこ効くからね。

すると、オッサンも落ち着いてきたのか、グスグス、ズビズビと鼻水をたらし、小汚い顔をしながらも顔を上げた。

なので、直ぐそこにあった商品の箱ティッシュを開封し、鼻水を拭いてあげる。

オッサンはこちらをぽかーんと見詰めたまま。

私は菩薩の様な微笑みで鼻水を拭いてあげる。

3回も。

オッサン、出過ぎだよ、鼻水。

近所の鼻炎持ちの6歳の陽太くんより出てるよ。

そう思いつつ、笑顔で座布団の方へ腕を引いて座らせてあげると


「・・・・かーちゃん?化けて出た?」


いやいやいやいやいや。

待て待て待て待て待て。

お母さん、まだ死んでないんじゃないの?

さっき病気だって言ってたよね?

まだ生きてるよね?

勝手に殺さないであげて。

しかも、私は25歳だから。

オッサンより若いし。

化けて出たって言うくらいだから、まだ相当混乱してるみたいだし、

まずは、オッサンの母親説をきちんと否定した後で、会話を試みてみましょう。


「残念だけど、私はオッサンのお母さんではないよ。オッサンのお母さんは、オッサンの帰りを待ってるんでしょう?だったら元気出して。取り敢えず、お茶でも飲んで一息ついて。こっちの御茶菓子も食べていいからね。ほらほら。おあがんなさい。」


目をパチパチと瞬かせながら、未だに泣きそうな顔をしているオッサンを見ると、

なんだかもう、手のかかる少年を相手してる気になってきた。

オッサンは現状は理解できてないみたいだけど、私が鼻水を拭いてあげたからか、大人しくなった。

信用したのか、恐怖で何も考えられなくなったのか、どちらかは分からないけどね。

オッサンは、私がお茶を飲んだのを見て、恐る恐る、自分のお茶を一口飲んだ後、一気に飲み干した。

さっきまで戦っていたんだし、喉が渇いていたのかもしれない。

どら焼きやお煎餅のパッケージを開けて勧めつつ、お茶のおかわりを入れてあげる。

オッサンは大分落ち着いてきたらしい。

大人しく、どら焼きをモソモソと食している。


「で、落ち着いたと思うから聞きたいんだけど、お母さんのお薬代を稼ぐ為に冒険者になったの?オッサンは強いの?」

と、分かってる情報を元に、小出しに質問してみる。


「・・・んや。かーちゃんが病気になって、金を稼がねぇと薬が買えねぇから、こんな歳だが冒険者になったんだ。元は農民、田畑を耕すだけで、強くもなんともねぇ。」

とションボリしながら語るオッサン。


「今回のダンジョン攻略だってよ、ギルドが募集してる時に、一人足りねぇってんで、ソロ活動の俺に話がきたんだ。じゃなきゃ、こんなところ来れねぇよ・・・。」

と、私の勧めに従って二個目のどら焼きをモグモグ食すオッサン。


んー。

お金が必要なのね。

私はお薬関係の知識は無いからなぁ・・・。

この店に置いてあるものも市販薬ばかりだし。

栄養のあるものを持たせてあげる事くらいしか考えられないぞ?

ん~。

お金になる物、お金になる物・・・・。

取りあえず、お母さんの病状と共に少しお話を聞いてあげましょう。


・・・・・・・。

うん。

はっきりとは分からないけど、風邪の症状に似ている様な、栄養なんかも足りてなさそうな話だった。

基本的に食べるものが足りてなさそうな感じ。

細身の体で食も細く、子供たちにあげちゃってて、自分は二の次。

女手一つでオッサン達兄弟を育ててきたらしい。

なので、効くかどうかは分からないけど、栄養剤を用意してあげる事に。

オッサンの持っている紙を切り取り、3錠ごとに包む。

一日一袋。

それ以上はダメよー。

それから、糖質が全然足りてなさそう。

氷砂糖も持たせてあげよう。

これは、この世界にもあるらしい陶器に入れて、上を革で閉じてあげる。

早めに食べる事を勧めておく。

ついでに、オッサン所有の革袋にも氷砂糖を一袋分入れてあげる。

あと、一番安い包丁も2本、革に包んで持たせる。

これらはギルドでも商人にでも売って、金に換えさせるため。

多少は薬の足しになるでしょう。

んで、あとは、麻袋に入れたジャガイモと紙袋に入った小麦粉を持たせてあげる。

ジャガイモはどこにでも売ってるらしいし、小麦粉も頑張れば買える品らしい。

食べるものが少ないのなら、コレで量増(かさま)ししとけ。

と手持ちになる品も含めて、色々なものをオッサンに持たせる。

恐らく、冒険者でもない、このオッサンがもう一度このダンジョンに入る事は無いだろうから。

もう二度と会う事は無いだろうから、今、出来る限りの事はしてやりたい。


「こんなもんかなぁ~。この革袋に入れた《氷砂糖》とか《包丁》はダンジョンで拾ったとか何とか言ってごまかしてね。あ、あと、オッサンは今、お腹空いてる?」


オッサンが物を鞄に仕舞うのがあまりにも下手だったため、代わりに色々と詰め直してあげながら問う。

洋服は畳まないと軽くても場所を取るんだよ、オッサン。

まったく、手のかかるオッサンだこと。

すっかり母親気分だよ。

久しぶりに実家に帰ってきた、大きくなった息子に色々と持たせてあげる田舎のお母さんみたいな。

私、まだまだ若いし!!そんな歳じゃないけどね!


「ん?腹は減ってる。が、さっき貰った甘ぇの食ったから。」


うん。

えっと、それはどういう意味だい?

さっきのどら焼きでお腹いっぱいなの?

それとも、お腹は減ってるけど、どら焼き貰ったから遠慮する。

なの?

オッサン、もう少し会話を頑張りましょう。


「う~ん。オッサンさ、お腹空いてるんなら軽く食べていく?直ぐに出来る温かい食べ物があるんだけど。オッサンの舌に合うかは保証しないけど。」

と、一応、声をかけてみる。


「っえ!?食いもん!?温かい食いもんまでくれるのか?」

と、興奮し始めたオッサン。


「うん。汁物だからこの場で食べてもらわないといけないけどね。持って帰れないからね。ここで食べてね?」

と、説明してみると、ブンブンと首を上下に激しく動かすオッサン。


「ちょっと待っててね~。」


私は再び、オッサンを横目で見張りながら、カップ麺コーナーへ移動する。

んで、色々考えた結果、シーフード系のカップ麺を食べさせる事にした。

醤油も味噌も初めての人は気に入るか分かんないし。

焼きそばとかパスタも気に入るかは分からん。

なので、シーフード系のラーメンにしてみた。

まあ、コレが駄目なら他のを探そう。

そう思いつつ、他にもチンするだけのパックご飯、塩、ラップ、笹の葉を一緒に持ち、オッサンの元へ戻る。


「お待たせ~。」


ソワソワしてるオッサンに声をかけて、一段上がりの和室に案内してあげる。

もう落ち着いているのと、流石に机無しでラーメンを食べるのは難しいから。

電子レンジもポットも和室にあるし。

という事で、荷物を持ってついてくるように指示し、和室へ案内する。


「なんだこれ??なんで階段になってんだ?一つの階段がこんなに広くて意味あんのか?」

と、一段上がりの和室に興味津々のオッサン。

そのオッサンを大人しく座らせて、カップ麺を開けてお湯を注いで、オッサンの目の前に置く。


「少し待たないと食べれないから、声かけるまでそのままで待ってね。」


そう声をかけて、次は電子レンジでパックご飯をチンする。

その様子を不思議そうに見つつも、鼻を動かしてスンスンと匂いを嗅いで、涎を飲み込んでいるオッサン超可愛い。

で、3分経ったので、フォークとスプーンと共に食べることを許可する。


「もういいよ。よく混ぜて食べてね。どうしても食べられない味なら言ってね。」

多少嫌いな味でも頑張って食べてくれ。

捨てるのはもったいないから。

と思っていたんだが、問題なかったらしい。

最初は恐る恐る口を付けていたのだが、今はフー!フー!と勢いよく息を吹きかけて冷ましつつ頑張って食べていた。

そんなオッサンの隣で、私は塩むすびを作っていく。

ラップで握って、笹の葉の上に並べて結ぶ。

これを繰り返し、4セット作ってあげる。

母親を含めたオッサンの家族の夕飯のつもりである。


汁までキッチリと完食したオッサンに【今晩のご飯のおにぎり】も渡し、そろそろお別れの時間です。


「オッサンが帰る場所は私が選んであげられるんだけど、どこが良い?ダンジョンの一階?入口?ギルド?街の入り口?・・・・お母さんの所?どこが良い?」

聞いてみると、オッサンは


「かーちゃんの所。このダンジョンは入り口にギルドもねぇし、勝手に入れるところだから、ここの入り口に出ても帰りが大変なんだ。」

と言うオッサン。


そうだったのか。

勝手に入れるタイプのダンジョンなんてあるのね。

そう思っていると、


「こんなにいっぱいの食いもん貰ったのに、俺は何も返せねぇ。金目のもんは全部売っちまったし、持ってんのなんて折れた剣と俺の服くれぇだ。それに、俺、弱ぇから。一人じゃここまで来れねぇ。恩返し、出来ねぇ。それでも、これ、貰ってっても良いのか?今更だとは思うがよ、貰ってっていいのか?」

と、泣きそうな、苦しそうな表情で聞いてくるオッサン。


お母さんの為に、お金になりそうなものや、栄養になるもの、ご飯だって本当は持って帰りたいんだろう。

でも、自分はもうここには来れないし、本当に何も返せない。

一方的に貰うだけになってしまう。

それが心苦しい、良心の呵責に悩まされているのだろう。

が、

私はそんなのどうでも良い。

というか、正直、これらは押し付けたに近いしね。

自分で言うのも何だが、完全なる自己満足である。

現に、オッサンは恐怖のあまりに忘却したのか現実逃避してるのか分からないが、

私は目の前でミノタウロスさんに襲われた人々の事は無視している。

オッサンをこの店の直ぐ外に出さないのは、

ミノタウロスさんがいる可能性があるからじゃない。

外の惨状を私が見過ごした事をオッサンに理解させない為である。

最初から最後までイイ女だったと思われたいだけである。

既に私の脳内では【深夜のお茶デート】をした上で、母親想いの可愛いオッサンにお土産を持たせた。

と、変換済みである。

なんの問題も無い。

オッサンに持たせたものも、あちらに戻ればこちらで減った分は戻るんだから。

ただ単に、気に入ったオッサンを贔屓した。

それだけである。


「全然いいよ。渡した物が本当にオッサンの助けになるかどうかは私には分からないし。ただ、もうここには来ないでね。次は助けられるか分からないから。オッサンが死ぬのは悲しいからね。ああ、でも、もし、同じようなお店を他の場所で見つけたら。そのお店のある場所が危険な場所じゃなかったら、暇な時にでも来てみて。縁があれば、また会えるかも。」

と、他の場所のお店なら安全に会えるかもしれないという事を伝えておく。


「分かった。ありがとう。」

オッサンはそれだけ言うと、頭を下げた。

そんなオッサンから、鼻を啜る音が聞こえるのは気のせいじゃないだろう。

私はその姿を見つつ、オッサンを母親の元へ帰すように願う。

すると、オッサンは私の目の前からいなくなった。


そうして、私の異世界でのお店、第一号のお客様は帰路に着いた。

私は少し寂しいような、悲しいような気持ちになりながらも、ごみを片づけ、お店のシャッターを開けることなく、二階にある自宅へ戻った。






そして、数カ月という時が過ぎ、

何人ものオッサンを入店させ、異世界を満喫している私の元に、

泣き虫で母親想いのオッサンが、様々なオッサンに話を聞き、自分で行けそうな安全なお店を見つけ、再びお店に来店した。

元気になった母親が私の為に祈りを込めて編んだというリボンを持ち、涙ながらにお礼を言う、可愛いオッサンの姿が見れたのは、また、後日の話。


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