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第二話 母の試練Ⅱ

 まだ、朝日が昇ってもいない頃にエイルは必要な荷物だけを揃えてニース近くの森に来ていた。

 そこは昨日、母との修行で訪れた森であった。


「……はあ」


 本日、何度目かのため息を漏らした。

 昨晩からやる気というのが出てこないまま、白銀の賢王と思しき魔獣を討伐ではなく飼い慣らすという難題に立ち向かわねばならなかった。


 装備品とて大した役には立たないというのは理解しており無いよりはマシ程度の気休めのものしか持って来ていない。

 そもそも相手は魔獣。どれほどの実力なのかはわかっていないが間違いなく、自分よりは強いという認識があったエイルは今日で死ぬのではないかと思わずにはいられなかった。


――この剣で魔獣を斬れるものだろうか


 腰につけている剣を見て戦うことがどれほど無茶なことだというのが否応なしにわかってしまう。


――飼い慣らすとかもう無理だろ


 諦めている心になにができるのかという思いが過る。

 母の無理難題を受けている自分も大概無茶苦茶だなと嘆息していたのだった。


 エイルは空を仰ぎ見ようと視線を頭上に向けるが濃い緑色の葉っぱが遮って太陽さえ見えなかった。

 木々の合間から木漏れ日はあるが足元を照らすにはとても足りない光量だった。


 森の中に入ってどれほどの時が過ぎたのかと思ったものの薄暗い森の中では判別のしようがなく、かなり経過したと感じることしかできなかった。

 だからからかため息交じりの言葉を紡ぐ。


「母上みたいに法術とか使えれば、勝算の一つでもありそうなんだけどな」


 薄暗い森の中で独り呟いても誰かが答えることはない。

 独り言でもついていないとやっていられないほどの状況にいるエイルは昔に似たような経験をしたというのをふと思い出した。

 けれどもそれは記憶として思い出したというよりは感覚的に思い出したという感じだった。


 不意に足を止めて周囲の木々を見渡す。

 罠を仕掛けるには最適とも言える立派な木があるのを見つけた。

 その木に近づき、触れてみて改めて立派な木であることを確認した。


「罠とか仕掛けようかな? 掛かるとは思わないけど」


 自嘲気味に口にして罠を仕掛けることを断念したのだった。

 相手は白銀の賢王と言われる魔獣であることも考えての判断でもあった。


――剣で戦うにしてもどこまで通用するのかわからないしな。どうしたものか


 エイルはまたしてもため息を漏らして薄暗い森の中を歩き出した。


「探す方法ないわけではないが、ものすごく気が進まないな」


 ため息交じりの独り言をまたしてもしてしまう。



 白銀の賢王なる魔獣を探し始めてから時間だけが経過していて、気付けば夜を迎えていた。

 昼は魚やら木の実やらで空腹を満たしたがこれからもそれだけだと思うと気が滅入るエイルは言の葉を漏らす。


「これだけ探し回っても見つからないな」


 そう簡単に見つけられるものではないと思っていたエイルはこのまま五日目が来ないものかと思っていた。

 母には見付からなかったと言えばいいだろうと思っていた矢先に真っ暗な森の中であるものを見つけた。

 エイルはそれに歩み寄った。


「足跡? それもまだ真新しい」


 暗がりの中でそれを判別するのは難しいそれの輪郭が足跡のように見えた。

 大きなもので人を乗せられるほどの巨躯を誇ると思われる魔獣の足跡だった。

 形からして狼のようだった。


「まさかとは思うけど、白銀の賢王の…か?」


 足跡の大きさは人の両足など簡単に入ってしまうほど大きいものだった。

 体躯は想像することしかできないが大体、人を背に乗せられるほど大きいものだった。


「………………………大きいな」


 予想以上の大きさに使役できる気がまるでわかないエイルは会うことだけでもとてつもなく嫌になってしまった。


「いくら試練とはいえ、これは………無理じゃないか?」


 想像してしまったためか寒気が背筋を迸った。

 命の危険さえも感じてしまうほどの差を思い知ったためか母の思惑がうまく行きそうにないと考えが巡った。


「剣では勝てない相手とは覚悟していたけどな」


 母の試練を乗り切ることは出来そうにないと思うだけでため息を零すのだった。

 白銀の賢王を捜し歩いていたら槍のようなものを見つけた。


「これって……」


 エイルはそれを手に取って見ると柄の部分が半分ほど持って行かれていて役を果たしていなかった。


「昼に作った槍だな」


 砥石で研いだ石は鋭利なもので如何にも獲物を突くことができる槍だが柄が半分ないのは熊に出くわしてしまったためだった。

 エイルは眉を曲げて思い出したのがいけなかったのか背筋に悪寒が迸る。


「あれは生きた心地がしなかった」


 エイルはここにいるのが不吉に感じてきたので長居をするは危険と判断して立ち去ろうとする。

 ふと彼は思い返し、振り返ると先程発見した足跡を見る。


 それは賢王と思われるもので自分が昼食を取った場所の近くに来ていたということにゾッとした悪寒が背筋を抜けていくような感覚に襲われた。


 近くに賢王らしき魔獣がこの辺りを縄張りにしているという証。それを思えばゾッとする一歩間違えば、自分はここで魔獣のエサと化していたという現実に……。


「やっぱ、俺には賢王を使役することなんて無理なんじゃないか?」


 呟くようについた言葉で生きた心地がしなかった。

 逃げるようにその場を立ち去る。賢王に会わなければ、母の試練は達成することはできないが、暗い夜の中で賢王に会えば間違いなく自分は死んでいるということに思いたった瞬間、本能的に逃げ出していたのだった。


 昼食を取っていた場所から逃げ出し、たどり着いた場所は見晴らしのいいところだった。


「いや、ここはまずいだろう」


 自分の足では賢王に負けるという思いが駆ける。

 会ったことのない相手の走力は知らないに等しいが、初夏頃までパン屋の店員に過ぎなかったエイルには剣術など素人の猿真似のようなものだった。


 母との修行でいくらか戦えるようになったと言ってもいきなり魔獣の……ましてや白銀の賢王と評される魔獣に勝てないことはわかっていたのだった。


 どこからか獣の咆哮が響き渡ってくる。

 エイルは咄嗟に剣を抜き放った。どこから聞こえたのかは分からなかったが、今のが狼であろうことは推測がついたのだった。


 先程、逃げ出してしまったのは危険を感じて本能が咄嗟に取ってしまった行動だった。前世での戦闘経験があると言っても現在の身体には意味をなさない。

 本能が叫ぶのも無理はないとエイルは感じた。

 エイルはここで戦うのは分が悪いと察し森の中へと戻ったのだった。


 翌日の朝もエイルは気乗りしない白銀の賢王の探索をしていた。


「……」


 二日目になったからかエイルは疲れたような顔をしている。

 昨夜はあまり寝れなかったことが主な原因だということはエイル自身自覚していた。


 朝食も先程終わらたところで焼き魚や木の実などの簡素なものしか口にしていなかった。もちろん、味付けなどもなく素材の味しかしない。


 探索を再開してから薄暗い森の中を歩いていた。

 しばらく歩き回っていると母との修行では来ることもなかった岩肌が剥き出しになっている断崖絶壁のあるところへと出てしまった。


 岩肌には大小様々な洞窟が開いていて、その中には大人が通ることさえままならない大きさの洞窟から大人一人を背に乗られるぐらいの獣が入れるような大きさの洞窟まであった。そんな岩肌にはあちこち古い切り傷が付けられていた。


 昔、誰かが剣術の修行をしていたらしいことは伝わってくる場所だった。


「母上が使ってたのかな」


 感想を口についてから「ないな」と否定した。

 エイルには母がそのような性格にはどうしても思えなかったのである。


 大人を乗せられるほどの獣が入れる洞窟に視線をやる。

 これが白銀の賢王が住処にしていると思われる洞窟であるということは一目瞭然だった。

 洞窟内には奥の方は暗がりで何も見えなず、手前の方には木の実の芯の部分だけが散乱していた。


 洞窟の壁には白銀の体毛がくっついたり引っかかっていたりしているのでここが白銀の賢王の住処ではないと言えるとは思えなかった。


 エイルは体毛を見ていたら白銀の魔獣が賢王と呼ばれるに至った理由を思い浮かべた。

 人語が理解できるから来たのか、それとも魔法が扱えるから来たのかは彼には分からないが少なくとも賢王と呼ばれるようになったのだから賢いことは想像がついたのだった。


 自分が白銀の賢王と出会ってしまったら今まで以上の警戒心が必要だろうと考え、奴と会い見えたら早めに決着をつけるべきと意志を固める。


「出来ることなら会いたくはないんだけどな」


 賢王の巣穴を見たせいかため息混じりの声を吐く。

 この試練がどれほど厳しいのかを痛感して諦めたような声が彼の言葉には含まれていた。


 洞窟の中にエイルの声が入って少しばかり響き渡った時、彼の耳に動物の足音がかなり遠くから聞こえてきた。

 その音は常人では聞くことすら出来ないほど小さな足音に過ぎないのだが彼にはハッキリと届いていたのだ。どれほど遠くからのかエイルにはわからない。

 足音は次第に大きくなってくるのを感じ取ったエイルは真っ直ぐ自分のところに向かって来ているというのが分かったのだった。


 この場から離れようとして後ろを振り返った時、エイルの蒼い瞳に鋭い何かが映り彼はそれから逃れるように左に飛んで転がり回ったがすぐに立ち直り剣を抜き放った。

 気休め程度の威嚇にしか役に立たないがないよりかは精神上ずっとマシだった。


『ほう』


 人のものとは到底思えぬ声がエイルの耳朶を打ち、その声は何かに感心したような色味があった。

 頬には切っ先の鋭い何かで切ったような切り傷が一つできていて、先程の攻撃を躱し切れなかったのかもしくは転がっている最中に切ったのかはわからなかった。


『わっちの攻撃を躱すとは見事でありんす』


 眉を曲げた。


――ありんす?


 彼は変わった言葉を使われたから不思議に思ったとでも言うべきなんだろうか。白銀の賢王らしき魔獣はまだ姿を見せることはしてこない。

 エイルは警戒でもしているのかと思ったもののどこからともなく届いてくる声はそんなものではないと思わずには言われない一言を口にしてきた。


『先の見事な身のこなしに免じて見逃すでありんすがどうするのでありんしょう?』

「先程から姿を隠しているのは自信がないのか? それとも、俺に負けるから見せないのか?」


 エイルはあえて強気に出たが彼はそれが虚勢であることは承知の上だった。

 そもそも、こんなことをしているのは母に言われたかで今からそんなことも口にできないほどの命がけの戦いが始まろうとしている。

 額に冷や汗を浮かべながら姿を見せぬ魔獣に警戒しつつ様子を見る。


『勇敢でありんす。 ではわっちの瞠目に免じて畏怖するでありんす!』


 魔獣は怒りの感情が籠ったような声で告げた後、木々の間から姿を現した。

 エイルが見た魔獣の体躯は美しい白銀の体毛に包まれていて予想した通り人を背に乗せられるほど巨大な狼だった。


『ヌシは好かん』


 白銀の賢王は理由も分からずにいきなり拗ねり出した。

 エイルはいきなりそんな事を言われたので頭がついていかなかった。


『あまり驚かないでありんすね。ヌシは好かぬ』

「……」


 そんな理由で好かないと言われてもエイルとしては困ってしまってどうしたらいいのか分からなくなり、もう黙ることしかできなかった。

 そもそもエイルが驚かなかったのは大体推測した通りの姿形だったためであり、そのような態度を取られると彼とて黙るしかなくなる。


 白銀の賢王はやる気を無くしたようで森の方へと歩き出そうとしてエイルから視線を外した。

 彼はこれから先絶対にない好機と悟り、すぐにでも行動を起こしたかった気持ちを抑えて相手に悟られないように慎重になった。


 一度、悟られてしまえばせっかくの好機も無に帰してしまうことになる。

 白銀の賢王は木々の中へと姿を消そうとしていた時、エイルは素早く手にしていた剣をしまい。素早い動作で木々の太い枝に軽やかな身のこなしで飛び乗り白銀の賢王の背中が見える位置までやって来た。


 彼の行動に気づかぬ賢王ではなかった。

 歩みを止めエイルが乗っている木を見上げたが薄暗い森の中では視界が悪くなる上に木々の枝葉が彼の姿を隠してしまうがそこにいるは見抜いていた。


『おヌシではわっちの相手になりんせん』


 賢王は自身の力が絶対であると信じて疑わなかった。

 自らを絶対的強者だと思っている故にエイルのことなど歯牙にもかけていなかった。


 エイルは完全に賢王から見下され甘く見られていた。

 絶対的な自信は傲りを生み自らの隙を作ることを誰よりも知っていた。

 彼は枝の上から賢王の背に飛び乗ろうとして太い枝を蹴り賢王に迫る。


 賢王は興味無さ気にエイルを見た後、自らの尻尾を使って彼を地面に叩きつけようとした。

 この時、彼はよくわからない直感が過ぎり自らに迫る賢王の尾を掴み取ろうとした。

 しかし、僅か差で手が届かず賢王の尻尾で地面にたたきつけられた。


「……かはっ!!」


 苦悶の声が零れる。

 そこに白銀の賢王は右前足で容赦なく追撃を加えてくる。エイルは転がるように賢王の攻撃を躱した。

 賢王と充分過ぎるくらいに距離が離れたところで立ち上がり剣を抜き放ち、剣先を相手の眼に向けて構えた。東方の国では中段構えとも言われる構えだった。


『勝とうと思っていんすか?』


 エイルは答えない。彼自身勝てるとは到底思ってなどいなかったし、そもそも勝機さえ見えないのだ。

 無謀な戦いをしているのは分かっている彼はどうすれば勝てるかなど考えられなかった。


 前へと踏み出す。止まっていては先はないことをエイルはすでに知っていた。だからこそ、彼は前へと歩み出す。


 彼の動きに白銀の賢王は警戒したような雰囲気を纏って振り下ろしに来た剣を避ける。

 間を置かずに左からの連撃を繰り出す。

 左から右に一直線に薙ぎ払いを行った。続けて右から剣を斜め下に振り下ろしたものの全て躱されてしまい意味をなさなかった。


 魔獣が後退しないのを不信がりながらもエイルは剣を届かせるために剣を振るう。

 回避されて攻撃は当たることはなかった。


「はぁ……はぁ……」


 エイルは息が上がって来ていて限界は近かった。

 次でなにかを決めなくては自分がやられてしまうという予感を彼は感じ取っていた。


『ヌシの顔、見とうありんせん』


 賢王が放った言葉にゾクッとした悪寒が背中を駆け抜けていくのをエイルは感じ取り、後退をしようとした瞬間エイルの左から賢王の爪が迫って来ていた。

 躱せる間合いではなく一撃で絶命間違いなしの攻撃が来るのを見ながら咄嗟に身体を捻り、賢王の脚を両腕で掴み取ってしまった。


『ヌシ、何するでありんす!! 離しなんし!!』


 これには賢王も予想外だったのか驚いたような声を上げていた。

 エイルに掴まれた左腕を乱暴に振るいながら暴れ回り、周囲の木々にぶつかりながらも森の中を駆けり出した。

 突如、自らに迫り来る未知の感覚に襲われ彼の意思の強さとでもいうべきものが賢王の中の奥深くへと入り込んできたのだった。


『なんでありんす!!? これは……………!?』


 未知の感覚でエイルに服従しそうになる賢王はなんとかその感覚に堪え、それでも襲い掛かる感覚は賢王の四肢を震えさるのには充分な力を振るった。

 同時に自らの腕にしがみ付いていたエイルがいつの間にか背中にいたのを感じて、身を振るい振り落とそうと必死に身を暴れさせるが彼は粘り強く耐えていて、彼から押し寄る感覚が次第に賢王にとって甘美なものへと変貌を遂げる。

 賢王はその感覚にしばらく耐え続けたがついに耐えきれなくって四肢の力を抜いてしまいついには地面に伏してしまった。


「はぁ……はぁ……、これはどんな勝ち方だ。俺……」


 彼は賢王の背中にしがみ付いた状態で独り言のような感じで言葉を溢した。



 エイルはボロボロになった服のまま賢王の背に乗ってアルセイロの都市ニースに戻り、屋敷の道筋を歩かせていると人々の賞賛の声が聞こえてきたのだ。

 彼はそのほとんどが人間であることに気づいたものの気にしないことを決めこんだ。


「あの賢王を従えてしまうとは……さすがはフォーア様のご子息だ」

「あの賢王が随分と大人しいな」

「そうだな」

「賢王を従えてしまうエイル様はただ者ではない。そういうところは母似だな」


 民衆の声にどこがと思うが口には出さなかった。


「ねぇねぇ、エイル様っていい男じゃない?」

「確かにそうだけど、アタシたちじゃ住む世界が違うって……」

「それがいいんじゃないの!!」

「あんたも好きものねぇ~」


 民たちからの賞賛がエイルには正直辛かった。



 都市の住人たちの賞賛の聞いていた賢王はどこか不機嫌な雰囲気を漂わせている。


『人気でありんすな?』


 エイルは賢王からの一言に返事すらする気が起きないほど疲れてしまっていたので賢王の発言を聞き流した。


『に・ん・き・でありんすな?』


 賢王は同じ言葉をエイルにかけて皮肉を言っているらしい。


「休ませろ」

『好かんねえ』


 エイルは賢王が発した言葉の意味が大体だが分かってくるようになっていて、今のどうやら「イヤ」と言ったらしい。

 彼は賢王の態度にもうため息ぐらいしかできなかった。


 屋敷に戻ってくるとフォーアの身の周りの世話している青い髪の二十歳前後の侍女が出迎えた。

 ローレスという名のこの侍女が見た目通り身の周りの世話だけをしているものではないということもエイルは知っている。


 彼女はこんななりをしているがエイルでは手も足もでないほどの凄腕の剣士である。

 どれほどの腕前かは彼の知るところではないがそんな侍女から頭を下げられる。


「お帰りなさいませ、エイル様」

「……」


 エイルは調子が狂ってしまう。

 なんせ、彼女の実力がどれほどのものかは未だ知らないが手合わせしたことが幾度かあるために彼女が相当強いということだけは身に染みて分かっている。


 彼女の強さを知っているが故に仰々しく頭を下げられるとエイルは萎縮してしまうのだ。

 エイルが自身にそのようなことを思っているとは彼女は露も知らない。


「エイル様、お帰りなさいませ」


 唐突に声が聞こえたのでそちらに振り返ると赤髪をマーガレットと言われる髪形に近い結い形をしたエイルと同い年ぐらいの少女がローレスと同じように頭を下げていた。

 エイルは彼女の事をこの都市に住む誰よりも知っていた。


 アルティと名乗っている彼女は現在の彼にとっては心強い味方だ。

 黒い侍女服の上からでもわかるほど大きな双丘、その大きさに合わないほど華奢な体躯をした少女がアルティだ。

 それでもって目鼻立ちの整った美少女。


――実際には美女なのだが………


 彼は彼女の正体を知っていて本来の名はアルベルティーネという。

 彼女は実におよそ六千年ぐらいは生きている人物だ。

 なんの目的でここにいるのか想像できなくもないことだがそれについてはあとになって聞こうと思っていた。


「エイル様、賢王のことはあたしに任せてもらえますか?」

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