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おどろうカルチャー

チ◯ンクリスプうまうま。

□おはようカルチャー





哀川真琴は、窓の外の、黄色いアルファベットの看板がぐるぐると回るまわりを小鳥が2匹飛び交っているを、細いフライドポテトをつまみながら、アンニュイ風な表情で頬杖をついて眺めていた。

今日は土曜日。

バンドメンバーである蒼井ハナと金崎泰人と真琴の3人で、バンドミーティングをするため、近所のファーストフード店で待ち合わせ。集合予定時刻は13時。休日、とくにすることもなかったので、2時間早く店に入り、小説を読んでいたのだが、読みかけだったために12時45分という中途半端な時間に読み終る。

紙カップのコーヒーを一口すすり、文庫本のブックカバーを何の気なしに撫でる。そしてまた窓の外をぼんやりと眺める。ブックカバーを撫でる腕についた腕時計を見る。只今の時刻は12時54分。集合時間は13時。ということは、13時にはみんな集まらないということだ。

「だよなぁ」

と、小さく呟く。

皆時間にはだらしないのは承知していた。

何もすることが無くただ待ちぼうける時間というのは、なかなかどうして秒針が進むのが遅く感じる。

ので、何かひまつぶしでもしたらば、時間も潰せるだろう。そう、外を眺めながらぼんやりと考え、小鳥の行方を目で追っていた。

(曲でも作るかな。これからバンドのミーティングだし)

そして、昼寝でもするかなあ、みたいなノリで思い立ち、ノートパソコンとヘッドホン、ルーズリーフとボールペンをリュックから取りだし、机に広げた。

カチカチッ、カチカチッ、とクリックの音が、昼過ぎの賑やかなファーストフード店の中に小さく響いている。

(たーしーかーつーくーりーかーけーのーがー)

と、頭のなかで間延びした言葉に雑なメロディをつける。

そのメロディに合わせ、デスクトップ上の白の矢印のカーソルがぐるぐると縦横無尽に動き回る。

カチカチッ。

「おお、あったあった」

目当てのアイコンが見つかり、ファイルを開くと画面にはいくつかのトラックが表示された。無料で使える簡易版のアプリケーションで、簡単な音の打ち込み等が出来るようになっている。

生音に比べて音がピコピコしていたり、音の種類自体少ないこともあって使い勝手はよろしくないのだが、曲の大まかな流れや作り、メロディなんかを「デモ版」として残す分には、まるで不便しない。

真琴はトラックの再生ボタンをクリックする。

ヘッドホンからは、少しうっすらと音が漏れている。真琴の指がトントントンと机を叩きビートを刻んでいる。

4分弱の曲を流してはリピート、流してはリピート、それを何度か繰り返し、ボールペンを手に取り言葉を書き出して行く。時折再生を止め、数十秒程遡り、また同じところを流し、地道な作業を繰り返していく。まっさらだったルーズリーフがあっという間に書きなぐった文字でいっぱいになった。

ノートパソコンに向かいメモを取る姿はさながら昼下がりのオフィスのOLのようでもあったが、彼女は華の女子高生である。俗語で言えばJKだ。

言葉を書きなぐっては、塗りつぶし、新しい言葉を上から書いていき、歌詞を紡いで行く。

(うーん、ここは「聴いてくれ」よりも「聴いておくれよ」の方がハマるな)

(サビの頭はもう少しインパクトがある方がいいかな・・・歌い出しは子音にも気をつかって・・・ここはKかBだな)

(ここは語尾をメロディに乗せて伸ばしたいから、えー、えー・・・・「遠くへ」だな)

(この歌は最終的に何が言いたいんだろう。テーマをしっかりさせなきゃな)

(起承転結、ストーリーをしっかりさせて・・・)

彼女の周りだけ、空気がほんのりピリッとしていた。本気で集中している人間の周囲は、自然と空気感が変わるものだ。

アインシュタインの相対性理論を分かりやすく諭されたあのお話のように、時間はあっという間に過ぎていった。





□踊ろうマチルダ


ただいまの時刻は14時30分。

結局予定していた13時には案の定全員揃わず、14時にハナ、14時10分に泰人が到着、二人とも昼食がまだだったため、フードを注文し、たいらげ、今に至る。机には折り畳まれたノートパソコンと、まとめて束ねられたルーズリーフとボールペン、バーガーやフライドポテトの包装紙が散らかっていた。

ハナは口の端にバンズの食べかすを引っ付けたまま、「もしかして、結構待っとった?」と恐る恐る真琴に聞いてみた。

ハナが店についたとき、真琴の目の前には文庫本と、ノートパソコンと、殴り書きの文字がびっしりつまったルーズリーフの束と、その横に文字が綺麗に書き出された書きかけのルーズリーフがあった。恐らく作詞作業中だったのだろう。ヘッドフォンをしていたのもあってか、遠くから手を振ってもまったく気付かず、近くに寄っても気付かず、肩を叩いてやっと気付いた。

ハナに気付いた真琴は第一声に「おお、来るの早いね」と皮肉たっぷりに言った。

「結構待ってた、てか、まあ、暇だったから勝手に早い時間からいて楽しんでたから、正確には一時間待っとったかな。13時から」

「ううう・・・ごめんんんん・・・」

あまり気にしていなさそうな素振りの真琴と涙目で謝るハナを横目に、泰人は物足りなかったのか追加のバーガーを注文しにいっていた。

「くそ泰人は反省の素振りすら見せないからな、変わりにハナは許す」

「変わりにの意味がちょっと分からんけどありがとう」

「どいたま。あ、ハナ、ここ、食べっかすついとる」

「あ、ほんと」

と、女子同士特有のキャッキャしたやり取りをしていると、

「うぃー、おまたー、何?俺の話?」

2個のバーガーとフライドポテトをトレイに乗せて、泰人が席に戻ってきた。最初のオーダーでバーガー4個とフライドポテトを平らげているはずなのに、彼の胃袋はバグっているのかもしれない。

「泰人には全く反省の色が見られないからここの代金全オゴリって話だよ」と真琴。

「嘘だろ、やめてよ!ってかだったらハナも同罪だろ!遅刻したんだから!」

「ハナはちゃんと反省してっから」

「私はちゃんと反省してるから!」

「じゃあじゃんけん!じゃんけんで決めよ!」

ここで、逆ギレしないあたりが泰人の人懐っこいところで、愛される所以なのかな、とハナと真琴はなんとなくおもいつつ、各々「いいよ」「オッケ」と、拳をつきだした。


せーの、「「「さいしょはグー」」」


先程まではあまり騒がしくなかった店内が、彼女たちの席だけ騒がしくなる。

騒がしい彼等の席とは裏腹に、窓の外の黄色いアルファベットの看板は相も変わらずのどかにゆったりと回っている。小鳥達は近くの街路樹に居場所を見つけたようだ。いつのまにか1匹増えた群れは3匹になり、仲良く枝の上に並んで羽を休めている。

じゃんけんに誰が負けたかは、次話のお楽しみ。

バンドミーティングの本題も、次話のお楽しみ。


マチルダにするかおはようにするか迷った挙げ句に混ぜました(サブタイ)


今度こそ、次話は今年中に更新するのが目標です。

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