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明るい奴隷生活  作者: ブラど
9/19

運命の日

私がここに捕えられ、奴隷になってから10日くらい経った日。

ボスと呼ばれていた人が布袋を担いで帰ってきた。


「おかえりなさい、ボス、その荷物は?」

「ああ、約束を守らせるための人質ってやつだ」


そう言って降ろした袋の中には女の子が入っていた。

中学生ぐらいのショートカットで活発そうな子だけれど、何かされたのかぐったりとしていて動く様子がない。


「まあ、これで、こっちの言うとおりに荷物を城まで運ぶだろう。 檻に放り込んどけ」


そして、私が毎晩押しこめられるのとは別の檻に放り込まれ、入り口にカギがかけられた。

身体が小さい上に手足も自由なので、私ほど苦しまないですむ・・・と思う。

人質だって言ってたから私みたいな扱いはされない・・・だろう。


「で、こいつはなんだ」


ボスが地面に正座したままの私を顎で指して問う。


「森で拾った逃亡奴隷です」

「ほう」

「色々仕込みましたが、初物はちゃんととっておきました」

「そうか」


舌なめずりをして向けられる視線に鳥肌が立つ。

割と普通の村人っぽいザコイ様と違って、ボスはとても山賊っぽい。

好色そうな目、脂ぎった顔、口とかも変な臭いがするに違いない。

できれば近づきたくないし触られたくもない。

こんな人が新しい主人。そして、初めてを捧げる相手。


「では、お渡しします。 キャンセル コントラクト」


ザコイ様の呪文で、首輪の喉元についている石が淡い光を放つ。


・・・それだけだった。

一瞬だけでも首輪や枷から解放されることを期待していたのに。

奴隷契約がなくなっても外せないなら、最初に教えられたとおり本当に一生外せないものだろう。


「俺は、アダマだ」

「はい、アダマ様。 わたくしレスカはアダマ様に全てをささげ、アダマ様の奴隷となることを誓います」 

「我アダマはこの者を奴隷とする」


喉元の石に脂ぎった太い指が押し当てられ宣言されると、再び首輪の喉元についている石が淡い光を放つ。

これで、私の主人が新しくアダマ様になった。


契約が結ばれれば変わるかもと思っていたのにアダマ様に対する印象はそのまんま。

これからあの太い指に触れられ、耳障りな声で命令される。

そんなことを考えているとアダマ様が布切れの様なものを床に落とした。


「アダマ様、何か落とされました」


そう言ってアダマ様の落としたものに手を伸ばすといきなり頬を打たれた。


「えっ!?」


「奴隷が勝手に主人の持ち物に触れるのかっ!」


「ち、違いますっ・・・「ストラグル」・・・っ!」


言葉の途中で首輪が締まった。


「今、主人の持ち物に勝手に手を触れたな?」

「触れ・・まし・・た」

「そのまま盗むつもりだったな?」

「ち・・違い・・・「ストラグル」」


更に強く首輪が締まる。

完全に息が止まり声も出せない。

苦しさに地面に倒れ、のた打ちまわる。


「主人の持ち物を盗むつもりだったな?」


首を左右に振る。


「素直に認めれば首輪を緩めてやるぞ。 盗むつもりだったな?」


必死に首を左右に振る。


「そうか。 なら、ゆっくり考えろ。 幸いお前は頑丈にできているらしからな」


苦しさで固く閉じていた目をこじ開けると、アダマ様がステータスプレートを手にしてにやついていた。




「盗むつもりだったな?」


・・・・私は苦しさ以外の涙を流しながら、その問いに頷いて罪を認めた。




「まだ、奴隷契約をしたばかりだ。 二度と主人に逆らわないよう罰はきっちり与えないとな」

そう言って私の体を撫でまわす。


ギシッ


私は、洞窟の天井に取り付けられた金具に通された紐に両手の枷をつながれて吊るされていた。


「ガキを叩き起こせ。 罰を与えるところを見せてやれ」

「おう」


首輪を絞め付けられ、地面をのた打ち回るほどの苦しみ以上の罰。

さらってきた子供への見せしめにされるほどの罰。

何をされるか判らない怖さから、助けを求めて視線を彷徨わせ、見つけたザコイ様にすがるような視線を向ける。


「ボス、罰もいいですけど、早く初物を散らして俺らにも回してくださいよ」

「ああ、それも楽しみだが、俺に指図か?」

「い、いえ、そんなつもりは」

「初めて奴隷を飼って情でも移ったか? こいつも檻に放り込んどけ」

「おう」

「ひゃ、わ、悪いな、おとなしく、してろよ」


そして唯一助けてくれそうなザコイ様が、私以上に窮屈に折り曲げられ檻に押し込められた。




「さて、これが何かわかるか?」

黒い指揮棒のようなものが目の前で空気を切り裂く。


「判りません」

「これは、お前にバツを与えるための鞭だ。 そこのガキも、俺に逆らったらどうなるかよく見ておけよ」




ヒュンッ


風を切り裂く音がして、脇腹を切り裂かれたような痛みが走る。


「あぁぁぁぁぁーっ!」


2回、3回と繰り返し鞭が振るわれ、その度に悲鳴があふれる。


「ゆ、許してくださいっ! もう、二度としません」

鞭の手が止まった合間に必死に許しを請います。

「そっちのガキはどうだ? おとなしくしてないとどうなるか判ったか」

そう問われても怯えきった子供は檻の中で震えるだけで言葉を返さない。


「残念だったな。 ガキのほうはもっとお前の罰を見たいそうだ」

「いやぁーっ、助けて、判ったって言ってっ!」

そう言って鞭を持ったまま背中のほうに回ると、さらに鞭が振るわれます。

「ぎあぁぁぁぁぁーーーーっ」


「もうやめてっ! おとなしくします。 もう泣きませんからっ」

そして、檻の中の子供が叫んだ言葉でようやく鞭が止まりました。



吊られた身体が降ろされ、毛皮の上に横たえられる。

脚が広げられ、アダマ様の手でがっしりと掴まれた腰が私から見えるように持ち上げられる。

「言うことは無いのか?」

「ご、ご主人様に、は、初めてを・・・ぃゃっ」


教えられた言葉を最後まで口にすることはできなかった。

突きつけられた恐怖に必死に身体をもがかせる。

でも、首輪と鞭の罰を受けた身体は弱々しくしか動いてくれなくて、がっしり掴まれた腰も外れることはなくて・・・

「初物は生きが良くないとな」

満足げな声とともにアダマ様の腰が引かれ・・・

「いやぁぁぁ!」

最後の抵抗で上げた拒絶の声も無視して腰が動かされ・・・



ゴトリッ



次の瞬間、突き入れられようとしていた物を潰すように黒い塊が落ちてきた。

何が起きたか判らず黒い塊を見つめ、黒い塊と目が合ったような気がしたときに私の頭に布がかぶせられた。


「助けてやるから動くなっ! あとマントも取るな。 ・・・・見ない方がいい」

近くから聞こえてきた聞いたことのない男性の声にコクコクと頷く。


「ひゃ、ボ、ボスがっ! お前ら、なにもんだ」

「冒険者だ。 近くの村で救出の依頼を受けたっ!」

「ひゃ、い、生きて帰れると、思うな」

「おうよ」

「無駄にゃ」


被せられたマントで何も見えなくても、短いやり取りと、その後に上がったヒステ様とウドノ様の断末魔の声で何が起きたかが判った。


「俺はこの子を連れて出る。 ケニャは女の子ともう一人を頼む」

「了解にゃ」


抱きかかえられて洞窟の外に出ると、頭から被せられたマントが外され、同じもので身体を覆われる。


「あいつらに買われたのか?」

言葉に首を左右に振る。

「さらわれてきました。 後は無理矢理・・・奴隷に」

そう伝えると、こちらを見つめる黒い瞳が辛そうに揺れた。


「さらわれたときに身に着けてたものとかあるか?」

「ありません。 全部燃やされました」

「・・・そうか」

その声もどこか辛そうなものだった。

「・・・どうかしましたか?」

「いや、今は気にしないでくれ」


「ケニャ、とりあえず3人を連れて村に帰るぞ」

「2人にゃ。 男の方は、一人で帰れるって行っちゃったにゃ」

「それって、怪しくないか?」

「にゃ?」

「追いかけるぞっ!」

そういって男性が身体を急に動かしたとき、私はマントの下で指を動かし、鞭の痕を強く撫でつけました。



(ザコイ様、逃げてください)


酷いことをされた。

でも、ザコイ様が居なければ、もっと酷かった。

そう思うと他の3人のように殺されて欲しくなかった。



「ぐぅっ!」

「どうした?」

「な、なんでも・・・ない・・です」

考えていた以上の痛みに汗を浮かべながら答えると、身体を覆うマントがめくられる。


「大丈夫・・・です」

息をのむ二人に答え、自分の体を抱きしめて痛みが過ぎ去るのをじっと待つ。

「ひどいことを」

「ポーションにゃ。 飲めるかにゃ?」

三角耳を付けた女性から差し出された赤い液体の入った小瓶を見て、手で受け取っていいものか迷っていると口に瓶があてられた。

そのままゆっくりと飲ませて貰うと、焼けるような鞭痕の熱と痛みがゆっくりと遠ざかっていく。


「ありがとうございました」

「これから、あの子の親が待っている村に向かう。 えっと・・・・」

「レスカです」

「レスカさんの事はその後になるけどいいか?」

「はい」

そう応えると鞭の痕がまだ痛そうだからと子供のように背中に背負われる。

「結構速度が出るからしっかりしがみついて、怖かったら目をつぶってて」

「はい」


そして人の脚とは思えない速度で流れていく景色に顔を伏せ、男性の黒髪に顔を埋めると微かにいい匂いがした。


(・・・私の身体凄い臭いなんだろうな)


男性に背の上で、異世界に来てから初めてそんなことを考えていた。

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