スキル習得
真っ暗な洞窟の中にうっすらと外の明かりがさしこんでくる。
一晩中もがき続け、体力の尽きた私は誰かが起きてくるのを祈りながらその光景を見つめていた。
周りから聞こえる寝息が止まる度に起きてくれるのかと期待を込めて目を動かす。
「反省したか?」
ようやく起きてくれたザコイ様が檻の前にしゃがみ、かけてくれた声にコクリと頷く。
「朝飯の準備はできるか?」
続けてかけられた声に首を振ると、もう少しそのままでいろと言い残し洞窟の外へと消えていた。
「---っ!」
届かない悲鳴を上げ、ザコイ様を目で追いかける。
朝になればここから出して貰えると思っていた分、このまま残されるのはショックだった。
「ひゃっ、な、なに騒いでるんだよ」
外からかけられる別の声に反射的に身体を硬くする。
ヒステ様は私に厳しい。
檻から出してくれる望みはなく、檻の外から蹴りを入れられるイメージしか浮かばない。
目を閉じ、静かに立ち去ってくれるのを待つ。
「ちっ」
少しすると面白くなさそうに離れて行く気配がしたので、うっすらと目を開ける。
すると、テーブルの上の何かを覗き込んでいたヒステ様が引き返してきた。
「い、いいもの、見せてやるよ」
出したまま机の上に置かれていたらしい私のステータスプレートが見える場所に置かれる。
レベル2になった私のステータス表示に指を置き、右に動かすと画面が新しいものに切り替わる。
スマホのような機能に驚きながら新しい画面を見るとこんなことが書かれていた。
ナイトバインド(2)
スキル解除無効、スキルLv*5のVIT上昇、DEF、MDEF1固定、苦痛耐性無効
アンチエスケープ(2)
スキル解除無効、バインド状態からの脱出成功確率-100%、気絶無効
「い、一日寝てただけで、ふ、二つもスキル覚えるとは、優秀だな」
スキルの中身はよくわからない。
でも、白い文字の中に混じる『スキル解除無効』の赤い文字に良くないものを感じ、身体がブルリと震えた。
「ひゃ、ゆ、優秀だった褒美に、出してやるよ。 おい、外に運ぶぞ!」
「おうよ」
檻から出してもらい、そのままウドノ様に担がれて洞窟の外に出る。
「どうした?」
「ひゃ、す、スキルを覚えた祝いに、す、少し、食わしてやろうと思ってな」
「珍しいな? もしかして、レアスキルか?」
「あ、ああ、レアスキル2つ。 り、両方ともレベル2まで育ってる」
「そいつは優秀だ。 まあ、レアスキルって言っても取得条件が知られてないだけどな」
「し、知ってても、覚えようと、思わねぇよ」
「まあな」
話の横で、地面に降ろされ、椅子の斜め後ろの位置で正座させられる。
「奴隷は、食事の間、主人の目を汚さない位置で正座して待つ。 主人の食事が終わり、食べ残しがあれば、主人の許可を得てそれを食べる。これが奴隷の食事だ」
「はい」
食事の作法を教えていただき、正座のままザコイ様達の食事が終わるのを待っているとパンの欠片が地面に転がった。
「地面に落としたものは、捨てるものだ。 勝手に食え」
そう言われても、私の手足は隷属の枷で一まとめにされたままだ。
「あ、あの、手が」
「奴隷が、主人と同じように手を使って食事ができると思うか?」
「は、はい」
身体を前に倒し、落とされたパンに口を近づける。
地面にキスをするようにして落ちたパンのかけらを口に入れる。
ジャリジャリとした土の歯触りと土の匂い。
「美味いか?」
「・・・はい」
落ちたものを食べさせられたことよりも、こんなものを美味しいと感じられる自分に涙が出た。
あのあと、地面に落ちたパンをもう二欠片口にして朝ごはんは終了した。
食べ残しを頂くことも許されず、再び洞窟の中に担ぎ込まれる。
「今は俺が仮の主人をしているが、お前はボスの奴隷だ」
「・・・はい」
「初物を奪うことはできないが、手や口でも奉仕はできる」
「・・・はい」
枷の拘束が外され、あとは延々と奉仕のやり方を教えられた。
言われるままに口や舌、手を動かす。
言われた通りできなかったら、容赦なく罰が当たられた。
少し気がそれたり、力を抜いたら殴られた。
疲れて動けなくなってもHPが残ってるかぎり休ませてもらえず、HPが少なくなると、小瓶に入った赤い液体が口の中に流し込まれた。
「許して・・・ください」
そんな言葉が聞き入れられることもなく、HPの回復と共に奉仕を再開するように命じられた。
「よし、少し休め」
ようやく許しを頂き、私は地面に倒れこんだ。
正座して次のご命令を待つ。そんな基本さえ守れないほどに疲れ切っていた。
「時間がかかったが、スキルを覚えたようだ」
私の目の前でステータスプレートが操作される。
ナイトテクニック(1)
奉仕技術上昇。 スキルLv×1のVIT、DEX上昇
「フリーポイントつぎ込むぞ」
「ひゃ、い、いいぜ」
「おうよ」
FREEが8ポイントつぎ込まれ、ナイトテクニックのレベルが5に上がった。
「残りポイント1か。 レベル6まで後7ポイント。 明日から、また狩りに行くぞ」
そう言いながら身体を起こされる。
そして再開された奉仕。
「!?」
教えられるままだった口や手の動かし方が、なんとなくだけれど理解できた。
どう動かせば喜ばせられるのかぼんやりとイメージできる。
「いい、スキルだろ」
さっきまでとは違う満足げな声を聴きながら別のことを考えていた。
(おかしい)
(身体の使い方がわかるのは理解できる)
(でも、なぜ、嫌悪感まで薄れているの?)
(嫌悪感を感じないほど慣れた?・・・ありえない!)
(もしかしたら・・・・スキルを覚えたら・・・心まで・・・)
その後、再び倒れて動けなくなるまで奉仕を続けさせられ、抵抗することもできないまま昨日と同じように檻へと押しこめられた。
「せっかくのレアスキル、ちゃんと育てないとな」
「ぅっーっ!!」
そして、狩り、奉仕、檻の生活がボスが帰ってくるまでの10日ほど毎日続けられました。