一日の終わり
洞窟までそのまま持って帰ってきたホワットで、毛皮の剥ぎ方と精肉について教えられた。
どちらの作業もうまくできず、6匹全部の処理を終えたときにはTシャツの前も血まみれになっていた。
「脱げ、全部だ」
言われるままに着ていたものを全て渡すと、血で濡れてないところに火をつけ、組み上げた薪の下に押し込まれた。
灰になっていくTシャツとパンティーを見ていると、元の世界との関係が断ち切られたような感じがした。
焼きあがった肉から美味しそうな匂いが立ち上る。
この世界に来てから口に入れたのは、罰を受けた後のポーションを数滴たらしたお水だけ。
クゥーー
肉から滴る油が炎であぶられる匂いにお腹が鳴る。
たき火の周りに置かれた切り株そのままのような椅子にザコイ様たちが腰を下すのを見て、自分も空いている椅子の一つに腰を下ろす。
ゴッ
鈍く重い音と激しい痛み。
「も、申し訳っ!!」
謝罪の言葉を言い終わる前にお腹を蹴られた。
椅子から落ち地面に倒れる。
「っ! あぐっ」
お腹が大きな足で踏みつれられ、強制的に悲鳴が漏れる。
「何を謝っている?」
ザコイ様の声が怒りで震えている。
「判りま・・・せん。 許してく・・ぐっ!」
正直に話すとお腹を踏みつけた足に体重がかけられた。
「お前は今、俺たちを奴隷扱いしたんだ」
「し、してませんっ!」
「俺たちと同じ席に着いた。 お前が俺たちを奴隷と同列とみている証拠だ」
「し、知らなかったんです。 許して」
そんな言葉が聞き入れられることなく、そのまま3人に何度も踏みつけられ何度も蹴られた。
「許ひっ・・て。 二度としませんっ!」
生まれて初めてさらされる容赦のない暴力に必死に許しを請い続けます。
「ひゃぁ、う、う、う、うるさい」
肩や胸、かばおうとした手や腕が容赦なく踏み付けられました。
「あ、りがと、ござい・・・ます」
踏みつけや蹴りが止まり、許していただいたものとお礼を口にする。
「礼にはまだ早い」
髪の毛をつかみ洞窟の中へと引きずり込まれると小さな檻の前に座らされる。
「口を開けろ。 もっと大きく」
精一杯大きく開けた口の中にボロ布が押しこめられる。
口一杯に布が押込められた後、別の布で鼻と口を覆われる。
「ぐーーーーーっ」
唐突に胸の先をひねりつぶされて悲鳴を上げると、鼻と口を覆う布が2枚追加された。
「っー!!」
「よし、これで、夜中に騒ぐこともないだろ。 バインド」
コマンドで手足の自由を奪われたまま、小さな檻に押しこめられる。
両ひざを曲げ、ひざが胸に押し付けられるくらいに小さく身体を丸める。
それでもきつい小さな檻の入り口が閉じられ、太い金属のかんぬきに南京錠がかけられる。
「ぅぉーーぅっ!!!」
「明日まで、この中で反省しろ」
身動きのできない状態で閉じ込められる怖さで悲鳴を上げる私に、絶望的な言葉を告げザコイ様が洞窟から出ていく。
「ぅーーっ!!!」
「---っ!」
「ぅぅ」
精一杯の声で許しを請い続け、それが誰の耳にも届かないことを思い知ると涙を流しながら意識を手放した。
これが、長い長い一日の終わり。
このときは、そう信じていました。
「ん!」
再び目を覚ました時には、明かりが落とされ真っ暗になっていました。
それでも、寝息やイビキで遠くない位置にザコイ様たちが寝ているのがわかります。
「んぅ!」
目覚めてからずっと、近くに聞こえるイビキに向かって声を上げ続けています。
最初に感じたのは枷で背中にねじ上げられたまま動かせない腕の付け根からの鈍い痛み。
次に小さく丸めたままの背骨の痛み。
床に押し付けた部分の体の痛み。
檻に直接触れている部分の焼けるような痛み。
少しでも痛みを和らげようと身体をよじらせると、蹴られたり踏まれたりした箇所が、ズキリと鋭く痛む。
「ぅっー!」
悲鳴を上げても誰にも気づいてもらえない。
真っ暗な世界で時刻も判らない。
ほとんど身動きできない檻の中で、少しでも痛みの和らぐ姿勢を探して、一晩中もがき続けた。
(助けて)
ここにいる3人以外から助けの手が差し伸べられることは無い。
(助けてっ)
ここは異世界。 ここにいる3人以外、私のことを誰も知らない。
(誰か・・助けてっ!)
それでも、助けてくれる誰かが現れることを祈り続けた。