レベルアップ
「やぁーーーーー」
気合の乗った声とともに振るったナイフが、勢い良く宙を薙ぐ。
「当たってない」
「こ、腰が、ひけてるぞぉ」
「はい、申し訳ありませんっ」
あの後、私は森の中で魔物と戦うことを命令された。
「こんなHPじゃ、激しい罰に耐えられないからな」
「ひゃ、ほ、他にも、体力は必要だからなぁ」
理由は嬉しくないものだったけれど、私に選択の権利はない。
装備は貸し与えられた短剣だけ。
他は異世界に来た時の大きめのTシャツにパンティーのまま。
奴隷は裸足で歩くものと教えられ、素足のまま森を歩かされた。
狩りのターゲットはホワット。
ビーチボール大のモコモコした白い毛玉に長い耳を生やしたレベル2のウサギの魔物だ。
ホワット
LV 2
HP 5
MP 11
STR 3
VIT 1
INT 3
DEF 1
MDEF 1
DEX 3
LUK 2
vs
レスカ=ユリナーノ
LV 1
JOB None
JOB LV None
HP 5
MP 5
STR 1(+2)
VIT 1
INT 1
DEF 1
MDEF 1
DEX 1
LUK 1
FREE 5
互いに相手に与えられるダメージはSTR-DEFで2。
先に3回攻撃当てられれば勝ち。
逆に3回攻撃を受ければ・・・死だ。
でも、ホワットはこちらが攻撃するまで襲ってこない。
必ず先制攻撃できるから圧倒的に私のほうが有利。
戦いに向かう途中でそう教えられ、理解はできた。
自分が有利という情報より、ホワットに3回攻撃されれば死んでしまうという情報を・・・
「やぁぁぁーーーっ」
引けた腰のまま、更に一歩後ろに下がってナイフを振り回す。
「ナイフを貸せ」
後ろからその様子を眺めていたザコイ様が私の手からナイフを取り上げる。
「バインド」
「えっ!?」
一瞬で両手足の枷に自由を奪われ、地面に倒される。
「も、申し訳ありませんっ!」
罰が与えられるのかと反射的に謝る私をうつ伏せに寝かせると、枷につながれた両手にナイフを握らせる。
「しっかり握ってろ。 絶対放すなよ」
「何を?」
「ん? ナイフを握って寝てるだけの簡単なお仕事だ。 子供でもできる」
そう言って近くのホワットの耳を掴み持ち上げる。
キュィーッ
ホワットの悲鳴、後ろ手で握らされたナイフに伝わる感触、ナイフから手に流れ落ちてくる生暖かい液体。
背中の上で何が起きているのかは見えない。
見えないから余計に命が失われる瞬間が感じ取れた。
ナイフに突き立てられたまま激しく暴れていたものが徐々に力を失い、ドサリと重い肉の塊になる。
魔物とはいえ生き物の命を奪った。
「うっ」
嫌悪と罪悪の感情に悲鳴を上げそうになるのを必死にこらえた。
私が戦いから逃げなければ、こんな酷い最期を迎えることは無かったはずなんだ。
圧倒的な力で押さえつけられ、抵抗もできずになぶり殺される。
まるで、奴隷にされた私のようなみじめな最期を・・・
「あと5匹捕まえてきてくれ」
「おうよ」
更に5回、私の背中の上でホワットが殺され、レベルが2になった。
レスカ=ユリナーノ
LV 2
JOB None
JOB LV None
HP 11
MP 11
STR 2(+2)
VIT 3
INT 3
DEF 1
MDEF 3
DEX 1
LUK 2
FREE 9