奴隷契約
目の前に並べられた五本の黒い帯。
それぞれの帯の真ん中には、頑丈そうな四角い銀色の金具が埋め込まれている。
さらに、一番長い帯には、爬虫類の目のような模様の石が金具と重なる位置に取り付けられていた。
「使い方はわかるか?」
「つ、つ、つけて、や、やろうぜぇ」
「おうよっ」
「今はおとなしいが、こいつは意外と凶暴だったからな」
そう言って私の右手をつかみ、手の甲が見えるように前に伸ばさせる。
その手首に短い革の帯を巻きつけると両端を合わせ輪を作る。
「えっ!?」
押し当てていただけの革帯から溝が消え、手首に吸い付くようにサイズが変わる。
「・・・・こ、これ?」
嫌な予感がする。
声に出してしまうのが怖くて飲み込んだ言葉が相手の口から放たれる。
「二度と外せない隷属の枷だ」
「私、逃げたりしませんっ!だから・・・」
「残りは自分でつけろ」
自分で着けるか、無理やり着けられるか
着ける以外の選択が無いのは判っていても、こんなものを自分で身に着けるのは嫌。
それでも、力で抑え込まれ無理やり着けられるよりは・・・と革帯を手に取る。
硬く厚い革帯
隙間なく肌に貼りつかれたら刃物で切ることもできない
もしかしたら、この革帯は壊れてるかも?
そんな都合のいい希望はあっさり裏切られ、左手も枷に囚われる。
両足首にも同じように枷を着け、最後に残すのは金具と爬虫類の目のような模様の石がついた長い革帯のみ。
「着けなきゃ・・・だめですか?」
無言で頷かれ、震える手で首に革帯を巻きつける。
私の運命を決める最後の枷が、音もなく首に貼りついた。
追い打ちをかけるような三人の笑い声に、涙がこぼれる。
「ひゃっ、だ、だれが飼うよ?」
「連れてきたんだから、俺だろ?」
「おうよっ」
「ひゃっ、じゃあ、は、早くやっちまえよ」
交わされる言葉に喉が引きつる。
「俺の名前は、ザコイ。 ボスが帰ってくるまでだが今からお前は俺の奴隷だ」
「はい」
喉元の石にザコイの指が押し当てられる。
「名前は?」
「レスカです」
「じゃあ、続けて宣言しろ」
「わたくしレスカは」
「・・・わたくしレスカは」
「ザコイ様に全てをささげ」
「・・・ザコイ様に全てをささげ」
「ザコイ様の奴隷となることを誓います」
「・・・ザコイ様の奴隷となることを誓います」
「我ザコイはこの者を奴隷とする」
双方の宣言と共に喉元の石が淡い光を放つ。
「契約完了だ」
「はい、ザコイ様」
「ひゃっ、お、俺も、名前を呼んでくれよ。 俺はヒステだ」
「おれ、ウドノ」
「ヒステ様、ウドノ様。 よろしくお願いします」
「あとは、大事なことを教えておく」
「はい」
「おまえが自分で身につけた隷属の枷と首輪はマジックアイテムだ。 主人に逆らえば首が締まり、奴隷以外の人や亜人に武器を構えれば手足の自由が奪われる。 解除できるのは主人だけだ」
「・・・はい」
「更には、こんなこともできる」
ザコイの手元にステータスプレートが現れる。
「さっきはちゃんと見なかったが・・・おまえ、今までどうやって生きてきた?」
「ひゃっ、ま、まっさらなプレートだな」
「はじめて、見た、レベル、1だ」
「それ・・・わたし・・・の?」
「ああ、奴隷にはステータスの自由さえない」
(『消えろ』)
「えっ?」
「主人が見ているものを勝手に消そうとしたのか?」
「あっ!? ち、違います。 そんなこ・・・・ 「ストラグル」 ・・・っ!」
誤魔化そうとした言葉に割り込んだザコイの声でいきなり首輪が縮んだ。
首が・・・締まる
息が・・・・くる・・・しい
首輪を少しでも弛めようと、指と首輪の隙間を求めて爪が首を掻きむしる。
「バインド」
一瞬で両手が後ろに回り枷同士がくっつく、同時に両足の枷同士もくっついて座っていた身体がうつ伏せに倒される。
「助・・・け・・・て」
「主人に嘘をついたな」
「つき・・・まし・・・ぁ、・・・ゆぅ・・・ぃ・・・ぇ」
「二度と嘘をつかないと誓えるか」
「ぃ・・か・・・ぃ・・・ぁ・・・・ぅ」
喉が締め付けられる苦しさに床を転げまわりながら何とかそれだけを口にする。
「リリース」
首輪が一瞬で緩み、手足の拘束も解除された。
「首輪と枷の効果がわかったか」
激しく咳き込みながらガクガクと頷く。
「いつまで、主人の前に寝ているつもりだ。 座れ。 正座だ」
「はい、ザコイ様」
「では、話を戻そう。 このステータスはなんだ。 この、生まれたての赤ん坊のようなまっさらなステータスは」