ステータスブレイク
「ステータスアターーック!!」
叫びと共に投げつけたステータスプレートが回転しながら男の身体を打ち据える。
(『消えろ』、『ステータス』)
「もういっぱつーーーっ」
続けてぶつけられた男が少しよろめく。
(『消えろ』、『ステータス』)
「とどめだぁーーーーっ」
ガッ
調子付いて投げた三度目のプレートは男の手で叩き落とされた。
「ステータスプレートは、人に向かって投げちゃダメだって教わんなかったか?」
「教わんなかったわ(今まで見たことなかったし)」
「ほぉ」
面白いことを思いついたようにニヤニヤと笑いしゃがみ込む。
「なら、いいこと教えてやるよ」
軽い口調で取り出されたナイフ。
思わず身をすくませるこちらを無視し、ナイフの柄が地面に落ちたままのステータスプレートに叩きつけられる。
パキンッ
砕け散ったプレートの破片がキラキラと光を反射しながら空中に溶けていく。
「なっ・・・?」
唐突に私の身体から力が抜けた。
「プレートを他人に渡すとこんなことになる。」
もうすでに勝負がついたというような勝ち誇ったような笑み。
「なにを? プレートなんていくらでも呼び出せるわ」
(『ステータス』)
呼び出したステータスプレートが手元に現れる。
「赤い・・・文字?」
一番下に新たに追加された文字は他と違って赤く、何かよくないものを感じさせる。
Name :レスカ=ユリナーノ
LV :1
JOB :None
JOB LV:None
HP :1
MP :1
STR :1
VIT :1
INT :1
DEF :1
MDEF :1
DEX :1
LUK :1
FREE :5
ステータス ブレイク
「ステータス・・・・ブレイク?」
「それだけじゃないぞ。 もっと良く見てみろよ」
慌てて他のパラメータも確認する。
「他には・・・なにも・・・」
「そうか、お前のHPは最初っから1だったか」
弾かれたように目を向けると、そこには確かに『1』の文字が光っていた。
(1? 低いとは思ったけど1じゃなかった・・・ような?)
「ステータスプレートが壊されると、1時間、HPとMPが1になる。 しかも、薬でも魔法でも回復しない。 捕まえた冒険者を無力化する常套手段だ」
「ひどいっ」
「まあ、話の続きは場所を変えてしようか」
立ち上がり一歩ずつゆっくりと距離を詰めてくる。
「こ、こないでっ」
「立ち上がっていいのか?」
慌てて逃げようとしたこちらに声がかけられる。
「ダメージ1ってどのくらいなのかな?」
一瞬で背筋が冷たくなった。
さっきみたいに転んだら?
とがった石や、木の枝を踏んだら?
足元の草で肌を切ったら?
自分の命を懸けてそれを試すなんて私にはできない。
「たす・・・けて」
逃げようとして浮かした踵を下すことさえ怖い。
足元の草がすべて刃物になったように、肌を撫でる草の刺激にさえ体が震える。
「・・・お願い」
すがるように伸ばす手を避け身体をかがめると男は私を荷物のように担ぎ上げた。
「ひうっ!」
遠ざかる地面に情けない声が漏れる。
反射的に男の身体にしがみついた。
「うごかないでっ!」
「お願いっ!」
「もっとゆっくりぃ!」
早足で歩く男の背中で悲鳴を上げ続けると、急に男が足を滑らせた。
「っっっーーーっ」
「あー、うるさいのが気になって足元見てなかったわ」
バクバクと心臓が激しく暴れる。
「おとなしくしてるって約束できるか?」
男の背中に額をこすりつけるようにして何度も頷くと、再び男が歩き出した。
小さな段差を飛び下りる。
「っ!」
大きな岩によじ登る。
「んっ!」
大きな岩から飛び降りる。
「んっ!!?」
最後にはツタに捕まり、岩肌を滑り降りた。
「んーーーーーっ!!!!」
目的地らしい洞窟に運び込まれ、何かの毛皮の上にやさしく降ろされる。
柔らかな感触にガチガチになっていた身体から力が抜けて倒れそうになるのを肩をつかんで支えられた。
「勝手に倒れるなよ。 次はあんな優しく運ばないぞ」
強張った顔でガクガクとうなずく。
「おーい、奴隷を拾ったんだが、輪無しだ。 一揃い持ってきてくれー」
「おうよーっ」
「ひゃっひゃっ! な、なかなかのじょ、上玉じゃ、ねえかよ」
奥から返される低い声と近くで聞こえる甲高い声。
ガタガタと震える腕で必死に身体を支え続ける私には、やり取りの意味を理解する余裕なんてなかったんです。