いきなりのピンチ
プロローグ終われば異世界。お約束ですよね。憧れの異世界生活を楽しむことができる日は来るのでしょうか?
身体に受けるチクチクとした刺激で目が覚める。
ありえないまぶしさに顔をしかめ、うっすらと目を開けると草原のど真ん中だった。
(?)
身体を半分起こしキョロキョロと見回す。
公園の芝生のような光景が広がる先には森のような場所。
(なんでこんな場所で寝てるんだっけ?)
昨日はゲームして、お風呂入って、そのままベッドに・・・
寝ぼけて移動したとしても・・・どこだろう?
服装だけは寝たときの記憶と一致する。
大きめのTシャツにパンティーだけを身に着けた姿は部屋の中ならともかくこんな場所ではかなり恥ずかしい。
スマホでもないかと周りを見渡しても草原には自分以外何もなし。
全く訳の分からない状況で混乱する頭を深呼吸を繰り返し無理やり落ち着ける。
そしていくつかの可能性を頭に思い描いた。
1.夢の中
2.夢遊病
3.誘拐されて捨てられた
4.寝ている間にヴァーチャル技術が進んで強制的に接続された
5.異世界に召還された
4と5は冗談としても1も多分ない。
草の感触がリアルすぎるし、風や日差しも夢の中っぽくない。
2は今まで経験がないし、第一ここまで自分で歩いたにしては足が綺麗すぎる。
ってことは3?
そう思い当った瞬間にTシャツの裾をまくりあげる。
(なにも・・・されて・・・ない?・・よね?)
薄い布の上から触ってみても、何かがあったようには思えない。
経験がないからはっきりとは分からないけど、寝てるあいだになにかがあった感じはしない。
(これがゲームとか異世界なら、『ステータス』とか念じれば・・・?)
現実逃避的にそう考えると、目の前にA4サイズの半透明の板が浮かび上がった。
呆然としてそれを眺めていると、浮力を失って半透明の板が膝の上にポトリと落ちた。
「なに・・・これ?」
アクリル製のような半透明の板を拾い上げると、そこには白い文字でこんな表示があった。
Name :レスカ=ユリナーノ
LV :1
JOB :None
JOB LV:None
HP :5
MP :5
STR :1
VIT :1
INT :1
DEF :1
MDEF :1
DEX :1
LUK :1
FREE :5
(え~~っと?)
年齢とか体重が表示されないのは女性に優しいよねとか現実逃避的に考える。
(う~ん、『消えろ』?)
手の中の半透明の板が質量とともに姿を消す。
(『ステータス』)
手の中にさっきの板がいきなり現れて落としそうになる。
半透明の板の重さはスマホくらい。
叩くとコンコンと音がして、裏返すと文字の書いてない半透明の板になる。
「えいっ」
そして、フリスビーのように投げると意外と遠くまで飛ぶ。
(『消えろ』、『ステータス』)
「便利ね」
考えただけで手元に現れる板を褒める。
「これで、ここが現実って線は消えたよね」
今までもステータス呼び出しは何度か試したことがあるけれど実際に出たのは今回が初めて。
寝てる間に隕石とか病原菌が人の身体を進化させた可能性も・・・・ないな。
(これが異世界召喚なら、このあと神様とかのチュートリアル役のキャラが出てくるんだけど・・・)
そんなことを考えているとガサゴソと樹が揺れ始める。
(お約束だね~)
そのまま見守ると人相の悪い一人の男が現れた。
じっと見つめあう人相の悪い男と私。
「そこで何している?」
先に声を出したのは男のほうだった。
慌てて立ち上がり、男から一歩距離をとる。
「ただの通りすがりです。 お気になさらず」
そう答えながら愛想笑い。
「そうか、ステータスプレートを持っているということは、お前、冒険者か?」
警戒した様子のまま聞かれた問いに素直に答える。
「いいえ、冒険者とかじゃなくて、普通の一般人です」
「本当か?」
「ええ」
愛想笑いのまま答えを返すと男の警戒が溶け、嗜虐的な笑みが浮かぶ。
応対を間違ったと気づいたのはこの時だ。
「なら、一緒に来てもらおうか」
「い、いやです」
「妙に身ぎれいだから警戒したが、よく見りゃ貫頭衣に素足じゃねぇか」
「それがどうかしたの?」
「お前、脱走奴隷だな」
「ち、違うっ」
最初の警戒心が霧散した男が無造作に距離を詰めてくる。
逃げなきゃと思うけれど突然の事態に体がすくんで動かない。
「逃げないのか?」
そう言って伸ばされた手が触れた瞬間、弾かれた様に体が動く。
「いやーーーーーっ」
手にしたままのステータスプレートを頭に叩きつけて全力で逃げ出した。
目指す場所は周りを囲む森の中。
ほんの数メートルの距離なのに足がもつれ何度も転ぶ。
「ほれ、逃げるんじゃないのか?」
全くダメージを受けた様子もなく男がゆっくりと近づいてくる。
(早く逃げなきゃ)
ガクガクと震える腕が草で滑って地面に顔をぶつける。
追いかけてくる男から目を離すこともできず地面にへたり込んだままジリジリと後ずさる。
ニヤニヤと笑っていた男が何かに気づき、地面から何かを拾い上げ大声で笑い始めた。
「レベル1か。 どこのお嬢様だよ。 生まれてからずっと箱入り娘で育てられてでもきたのか?」
ジリジリと逃げ続ける私の姿に肌が泡立つような笑みを向ける。
「まあ、おとなしくついて来れば俺らが丁寧に教えてやるよ。 奴隷に必須のスキルをよぉ」
そう言って近づく速度を上げる。
(『消えろ』、『ステータス』)
「ステータスアターーック!!」
呼び戻したステータスプレートを渾身の力を込めてフリスビーの要領で男に投げつけた。
修正:主人公の名前間違ってました。