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明るい奴隷生活  作者: ブラど
11/19

恐怖の食卓

美味しそうな匂い。


誰かが料理してるのかな?


私、どこで寝ちゃたんだろう?



・・・・!!


そこまで考えてようやく目が覚める。


身体を起こし馬車の外を見ると既にテーブルとイスが用意され、席についてイクス様が暇そうにしていた。



「申し訳ありません。 お許しください」

転がるように荷台から降り、イクス様に頭を下げる。


「すぐにお料理を手伝います」

「休んでていいよ」

「そんなわけには」

「それに、ホワットとかレボアの解体なんてできないだろ?」

「できますっ。 お任せください」

「マジ?」

「はいっ」


ちなみに、ホワットは、最初に私が戦った(?)耳の長いフワフワの毛玉。

レボアは、私の身長・・・160cmくらいの大きさの赤い毛皮のイノシシでレベル6もある強い魔物だ。



「これで、如何でしょう?」

ホワットを解体し、毛皮と肉と内臓に分けてお見せすると、イクス様は「あれ? 何で?」とか言いながら口を押さえて食卓へと戻っていった。


(何が??)

イクス様の言葉に首をかしげる。


「普通は料理くらいできるにゃ? 料理ができないイクスがだらしないにゃ。」

「デロデロしたものは苦手なんだよ」

「モンスターを倒せるのに変なやつにゃ」

ケニャさんが楽しそうに尻尾を揺らしながらイクス様をからかっていた。


ケニャさんはカナリーさんと違って身軽な服装。

濃い茶色のハイネックシャツの上に濃いグレーの短いベストとキュロットだけ。

キュロットから揺れる尻尾は真っ白ではなく、真ん中辺に茶色い模様があって先端がちょこっと黒い。

カナリーさんの言ってたミケ猫尻尾だ。


「にゃ?」

見つめていると笑顔で首が傾けられる。


「次は何をすれば?」

「肉は抜こうの焚火で焼いてきてにゃ。 内臓は明日使うにゃ」

「はい」

たき火の近くで火の番をしていたカナリーさんに聞いて肉に串を打ち、塩と香辛料をまぶして串を地面に刺す。

その後もいろいろ聞きながら、やれることを探して忙しく動き回った。



食事の準備が終わり、イクス様たちが席に着く。

私もイクス様の斜め後ろ、左斜めは上座な雰囲気なのでイクス様とケニャさんの間の地面に正座して食事が始まるのをまった。


(あのパン柔らかそうだったな。 イクス様は優しいって言われてたからパンの欠片落としてくれるかな?)


(3欠片・・・贅沢すぎるかな? 2欠片・・・もらえたら嬉しいな)


(お肉・・・踏ん付けられたものでいいから食べてみたいな)



「また、これか? 何で全員一度はこれをするかな」

ため息と共に呟かれた怒り交じりの声にホワホワしていた気持ちが凍りつく。


「いいから、そこに座れ」


そう言ってイクス様の前の空いている席が指差された。



なんてひどい命令だろう・・・そう思った。



命令に逆らえば首輪が絞められる。

でも、命令に従って席に着けば、主人を奴隷の身分に貶めたと、とても激しい罰を受ける。

以前に受けた罰を思い出しガタガタと身体が震える。


「お、お許しください」


椅子に座ることが怖くて、私はその場で土下座し、許しを乞うた。

隷属の首輪が主人に逆らったことを感じ取り、私の首を締め付け始める。


「イクス様、命令解除!」

「命令? ・・・・さっきが命令になったのか。 命令を取り消す」


「ありがとうございます。 ありがとうございます。 ご命令に逆らったことをお許しください」

命令を解除して頂いたことに頭を地面に擦り付けたままでお礼を言う。

そんな私に足音が近づき、すぐ近くで止まった。


「ひっ!」


追加で与えられるだろう罰に思わず悲鳴が漏れる。


「怖がらないでください。 誰もあなたに罰を与えたりしませんよ」


微かに聞こえる衣擦れの音。


「ほら、これを見て」


そう言われ顔を上げると、カナリーさんが首元の布を指で引き下げていた。


「カナリー・・・・さん」


そこに着けられていたのは、喉の所に頑丈そうな四角い銀色の金具と爬虫類の目のような石が付いた黒い首輪。

私と同じ隷属の首輪だった。


「そんな、・・・どうして?」

「私も同じです。 イクス様に助けて頂きました」

少し辛そうな響きが声に交じる。


「行きましょう。 お腹すいてるでしょ」

首輪をさらしたままのカナリーさんに支えられゆっくりと立ち上がる。


「イクス様、ケニャさん、席代わって頂いていいですか」

「ああ、いいよ」

「はいにゃ」


イクス様とケニャさんが向かいの席に移動し、カナリーさんがケニャさんの前に座る。

処刑台に着くかのように私もイクス様の前に腰を下ろす。

いつでも土下座できるように、とても浅く。


首をすくめ、怖々とテーブルの向こうを盗み見る。


「俺は・・・」

「っ!」


いきなり声を出されたことにビクッと身体が飛び上がる。


「・・・俺は、奴隷というものに馴染みがない。 だから、一緒に食べてくれた方が嬉しい」

そう言って優しい顔で笑った。

「さあ、冷める前に食おう。 いただきます」


「「「いただきます」」にゃ」


テーブルの上には、柔らかそうなパン、取分けられた串焼き肉、野菜とお肉が入ったスープ、そしてお箸が並べられていた。


「これ・・・全部食べていいんですか?」

「お代わりもあるぞ。 遠慮するな」

「ありがとうございます」


とお礼を言ったものの、どうやって食べれば良いんだろう?

奴隷は手を使わずに食事をすると教えられた。

このお箸は手にしても良いんだろうか?

悩んだ末に両手を後ろで組んで直接口で食べようとしたらカナリーさんに止められた。


「ごめんなさい、イクス様がいじわるで・・・ これ、使ってください」

そういって木のスプーンとフォークを渡された。

「使っていいんですか」

「もちろんですよ」


食事の時に手を使っていいのかを聞いたつもりだったけれど、そのまま木のスプーンとフォークを持たされ、お箸は片づけられた。


「だから、言ったじゃないですか。 お箸なんて知ってる人いないって」

「おっかしいなー。 レスカはお箸って知・・・」



私はこの時二人の会話を聞いていなかった。



土のついていないジャリジャリしないパン。


味の付いた料理。


温かいスープ。



二度と食べれないと思っていたものを口にしてボロボロと涙を流していた。


涙も鼻水も食べ物を運ぶ手も止められなくて・・・・


「美味しい・・・です。 温か・・・い・・・です」


食事のぬくもりが身体中を伝わっていく。


それがとても幸せで、もっと涙があふれた。

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