プロローグ
せっかくユーザ登録したので小説書いてみました。
「ピンポーン」
画面から目を話して小説を読んでるとパソコンから呼び出し音が鳴った。
慌てて目を向けると座り込んだ自分のキャラの周りでワタワタと動く見慣れたキャラがいた。
「やほ~、こんばんわ~」
「おぉーっやっと反応した」
シュタッとキャラの手を上げながら挨拶する。
「どしたの? 今日もぼーっとして」
「『も』って。誰も来ないからラノベ読んでたのよ」
怒りを表すエモーションと共にチャットを返す。
「ラノベって?」
「最近アニメ化されたやつ。原作読んでみたいと思って」
「あーっ、あれ?」
「うん、異世界ものって良いよね。あこがれる」
「中2か!」
ハートマークのエモーションを浮かべながらチャットする私に突っ込みが入る。
バシッっていい音がする突込みは範囲攻撃スキルの一種。
範囲攻撃とはいっても安全地帯の中なので音がするだけでダメージは発生しない。
「便利よね~そのハリセン。 突っ込み役にふさわしい」
「これは『白蛇の扇』。 高級装備をハリセンいうなーっ」
画面の中のキャラがバシッバシッと高級装備をふるう姿はバラティー番組の突っ込み役にしか見えない。
「ごめんごめん。 でも、自分でも似てるなと思わない?」
「似てるどころか・・・ハリセンにしか見えません」
そう言いながら、ハリセンを持ったキャラがウルウルと涙を流す。
「で、レスカも異世界に行って無双したいの?」
ハリセンを片付けながら聞いてくる彼女はダンサーのコドリ。
で、私がアルケミストのレスカ。
ふざけて付けたフルネームは恥ずかしいので内緒。
「そうね。チート能力で敵の大群を街ごと焼き払うって良いよね~」
「怖いわっ」
瞬時に手の中に呼び出されるハリセンがいい音を立てる。
「え~」
「『え~』じゃない。街は守ろうよ」
「だって・・・敵と味方の区別とかめんどい」
一歩遠ざかるコドリに冗談だって言って立ち上がる。
「まあ、レスカは最前線で戦闘っていうより、戦闘補助のイメージだからね。 チート無双とか想像できないよ」
「フィクションの話だから・・・でも」
「でも?」
「無双よりも、異世界に行けるならお姫様とか憧れるよね」
「あ~」
微妙にコドリの反応が悪い。
いつもの乙女モードに旅立ったものとしてジト目でこちらを見つめてくる。
「お姫様になって・・・・さらわれた私を勇者様が助けに来るの」
「いきなり誘拐されてんじゃないっ」
ハリセンのいい音に見送られながら「じゃあね」と手を振る。
コドリが振りかえしてくる手を確認し、ゲームからログアウトした。
「異世界とか仮想現実とか、現実になったらいいのに」
お風呂上りにさっきの会話を思い出してひとり呟く。
魔王の恐怖におびえる世界。
世の中の全ての悪いことは魔王のせい。
疫病も戦争も天候不順も親子喧嘩も魔王さえ倒せれば解決する。
子供のころにやったゲームのような、そんな世界で生きてみたいと何度も夢想した。
そんな世界で戦い、傷つき、魔王の城の尖塔に囚われる私。
声変わりも終わっていないかわいい声で『姫、助けに来ました』って縛られた私の体を抱きしめてくれる勇者。
・・・って、なんでそっち方面に進むかな?
フルフルと首を振って妄想を追い払いベッドに飛び込んだ。
『・・・・ぇょ』
『・・・応えよ』
『・・・新名を応えよ』
夢の中で響く声。
『そなたの新名を応えよ』
エコーがかかり現実離れした呼び声に、私は慣れ親しんだゲーム世界での名を告げる。
「私は、レスカ。 レスカ=ユリナーノ」
『新たなる世界での望みはあるか?』
「私の望みは・・・・・」
「私の望みは、勇者様の助けを待つ、囚われの美少女っ!」