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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ライフマネー

世界には二種類の人間がいる。


「皆様ようこそいらっしゃいました!さぁ、楽しい麻雀が始まります!」


金を持っている勝ち組と、


「今宵の挑戦者は私の目の前にいる男、戸塚眞一郎トヅカシンイチロウ!現在の借金は5170万です!」


持っていない負け組だ。


「迎え撃つのは私、不動国行フドウクニユキがお相手いたします!」





「うう・・・?」


雀卓に突っ伏していた男は、ゆっくりと顔をあげる。


どうやら気絶していたようで、口からは少し涎が垂れている。

ぼさぼさになった髪と無精髭、もう何年もずっと着ているであろう服と合わさった下卑た臭いからは活気は感じられなかった。


男が目を覚ました部屋はとても広かった。

それこそ某ドームくらいの広さがあり、周りには沢山の人間が熱狂し、騒いでいる。

時折響く歓声は耳を塞ぎたくなるくらいだった。


「おはようございます戸塚様。早速ですがルール説明を致しますね」


「此処は・・・?」


「そんな事はどうでも良いのです。兎にも角にも、貴方は一攫千金の機会チャンスを手にしたのですよ」


一攫千金という言葉を聞いて戸塚は目を輝かせ、まくし立てて尋ねた。


「どういうことだ・・・?金が手に入るのか?」


「そうです。貴方の様なクズを探し、勝負でもがき苦しむ様を見ながら優越感に浸る。それが私達の趣味ですからね・・・おっといけない、さっさと説明をしてしまいましょう」


やはり、ずっと不衛生であったのだろう。戸塚の口臭はとても強烈だった。


滲み出る嫌悪感を堪えながら、戸塚は説明をしだした。




「ルールは単純、赤3のアリアリ半荘戦を7戦打ってもらうだけです。因みに脇の二人は完全な黒子です。彼らには平等に打つことが義務付けられてます故、安心してください」


「あと、レートは1000点1000万です。つまり、貴方は3翻40符をアガッた瞬間に綺麗な体になるという事です。返済ですが、和了時に手に入れた金はそのまま貴方の元に、7戦目終了時に貴方のマイナス分と負債を合わせて清算致します」


「・・・解った。早速始めよう」


戸塚は改めて座りなおし、卓のサイコロを回そうとした。


だが不動がその手を阻み、笑顔で喋る。


「おっと、お待ちください。この麻雀は点棒の代わりに現金を支払います。」


「おい、俺は金は持ってないぞ?」


「ご安心ください。貴方は別のもので代用していただきます」


「代わり?」


「はい、総合でマイナスならば、人間にとって最も重要な資本・・・その体を頂きましょう。そして半荘終了時に現在負債額の2倍以上のマイナスならば、ちょっとしたペナルティとして貴方の指をいただきましょう」


体、指。その単語を聞いた瞬間、戸塚は得体の知れない寒気に襲われた。


だが、彼はやるしか道が無かった。


「ご安心ください。半荘終了までの間に負債分までマイナスになってなければ良いだけです」


では始めましょう、と言うと不動はサイコロを回し始めた。





【7回目の半荘、オーラス9順目 ドラ④】


「ハァ・・・ハァ・・・!」


戸塚の指は、もう既に右手の親指と人差し指と中指の3本しかない。

だが、彼の脇には文字通りに札束の山が出来ていた。


総額、8億3100万。


「ハーッ・・・!ハーッ・・・!」

戸塚手牌【③③③④⑤⑤⑤788889 ツモ9】


「カ・・・ン!」


戸塚手牌【③③③④⑤⑤⑤799 8(暗カン) ツモ9】

「リー・・・チッ!」


「ロン」

打、7。だが不動の声が、無常にも降り注いだ。


「タンヤオ三色同刻三暗刻ドラ3、1億6000万」

不動手牌【56777④④④⑦⑦⑦七七七】


「トビ終了ですね」




不動は帳面に手際良く結果を記入すると、戸塚に見せた。


「獲得金は8億3100万、総合で53億1100万のマイナスですね。さて、早速その体を頂きますね」


「な、何をするんだ・・・!」


その声に誰も耳を傾けないまま、戸塚は黒服を着た男たちに取り押さえられ、入場ゲートへと消えていった。





金は呪いだ。


それは命よりも価値があり、とても重い。


「・・・さて、皆さん!今夜もお集まりいただきありがとうございました!」


だが、いくら積み上げても満たされる事は無い。


「来週もまたこの会場でお会いしましょう!お相手は不動国行でした!」


そんな金に群がる亡者共の姿は、勝ち組から見てとても滑稽なのかもしれない。


不動国行は、ぼんやりとそう思いながら、反対側のドームの出口へと消えていった。

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