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3@旅立ち

 予想していた通り、会見では何の情報でも出てこなかった。もしかしたらと思って会見を見るために部活を休んだマコトと千秋達は時間ができ、千秋の言い放った「うん、だって今ユーリは女の子だよ? いろいろ必要でしょ?」の一言でボクたちは市内にあるいま人気のショッピングモールに来ていた。

 来る途中千秋から見た目可愛い女の子なのに一人称俺はだめ、と言われたので、AW内で使っていたボクに変えた。


 ここに来る途中に電車に乗ったときに周りから見られているとはっきりわかるほどの視線を感じた。

 やはり、銀髪のイケメンのマコトの近くにいるだけで目立つようだ。

 それに、ざっと見ただけだが、ここに来るまでに一目で容姿がアバター化していると分かるような人物はいなかった。

 ゲーム内で見た記憶だと結構髪の色とかカラフルだったので、アバター化した中高生はまだ外を出歩いたりしていないようだった。


「さて、どこから行こうかなぁ……」

「な、なぁ、取り敢えずクーラーの聞いた所に行こうぜ……。暑くて死にそうだ」

「だ、だねぇ………」


 今は暑い暑い夏の長期休暇中。ようするに夏休みである。そして、今年はここ数年稀に見ない程の暑さであり、立っているだけでも汗が湧き出て止まらない。

 

 言ってなかったが、今のボクの服装は元々俺が持っていた物を着ている。男物のTシャツにジーンズ。あ、それだとシャツが透けたり、汗でひっついたりしたときにいろいろやばいので、ここに来る途中に千秋の家に寄って一つ未使用のブラを借りてます。

 いやさ、本当はつけたくなかったんだよ。今もパンツは男の時から履いていた物履いてるけどさ、上は女物を付けざるを得なかったんだ。

 もしつけなかったら人とすれ違うたびにガン見されていたと思う。

 一応千秋よりは小さいといっても平均よりは大きく、男物のシャツを着てるとサイズが大きいものを着たとしても胸のところだけはきつくなってしまう。

 そして、その状態でノーブラで出歩いたらどうなるか。

 

 なので、仕方がないと割り切ってつけてるよ。


「なら一旦あそこのカフェで休憩でどう?」

「「さんせー」」


 満場一致できまり、ボクたちは広場の端のあるカフェに向かって歩き出す。

 


 ボクたちが話をしていたところとカフェまでの距離の中間あたりを歩いていた時だった。


 地面から染み出るように、柔らかい土からゾンビが履い出てくるように。それは現れた。


「ディア!?」

「きゃあああああ!!」

「に、逃げろぉぉ!!」


 突然地面から出てきたそれはAW内で敵として出てきたものだった。

 ディアというのはわかりやすく言うと種族の名前。今目の前にいるのはディアの中では一番弱く、数が多いとされているディジーという種類の敵であり、ディアの10段階あるランクの一番低い1である。

 それがぱっと数えると12匹いた。

 姿は簡単に言うと真っ黒い犬なのだが、体全体が黒く光っており、光沢があり、ところどころ犬とはちがう部分も見られる。

 一番犬と違う部分はディジーの額に鋭く生えている黒い水晶だろう。生えているというよりは刺さっているように見えるが、特にどっちでも問題はないだろう。

 

 周りにいた人達はディジーを見ると悲鳴を上げながら逃げ始める。

 

 ボクはディジーを見た瞬間、ここ一週間で身に付いた癖で両手のひらを開き、AW内で使っている武器をイメージし、ここが現実だから意味がないと気がついた時には、既に武器のイメージが終わり、両手には短剣が握られていた。


「……え?」

 

 今さっきはAW内でしかいないディジーが出てきたからゲーム内でディジーと遭遇したときと同じ対応をしたけれど、ここは現実。

 ディジーが現実にいること自体おかしいのだが、現実で仮想現実でしか使えない力を私は使えた。

 ボクが今さっき行った行動は武器召喚である。

 AW内では装備している武器を別空間に収納し、自分がその武器を持ち、武器を呼ぶイメージを行うと、別空間から装備されている武器が召喚できるというもの。

 AWでは現実でこんな格好できないんだからゲーム内でくらい常に装備しておきたいよね。という人たちが多く、あまり人気のない機能ではあるが、移動時に武器の重さを気にしなくていいという利点もある。

 まぁ、召喚するときのイメージが結構難しいらしくて使いたい人がいても中々使えるようにはならないそうだ。

 ボクは使えるし、マコトや千秋も使える。


「よくわかんねぇけど、今はこの状況では必要だし考えるのはあとだ」

「そうね」


 二人はそう言うとすぐに体全体を光がほんの一瞬包み込み、光が消えると、AW内でよく見る大剣を片手でもち、黒いロングコートを着ているマコトと、片手剣を持ち、軽量化された鉄の鎧に紺のプリーツスカートを履いた千秋が立っていた。


 ということは……と思い、すぐに目線を下げ、自分の服を確認する。

 そこにはさっきまで来ていた男物のTシャツにジーンズなどという服装ではなく、黒をベースにした軍服風の服である。下はズボンではなく膝上丈のスカートであり、確か……、フレアスカートとかいう感じの名前のスカートだったきがする。

 上はところどころ赤いラインが入っており、左腕には赤をベースにし、上下を黒いラインで挟み、真ん中に銀の王冠が描かれた腕章をはめている。


 いや、仮想現実だからさ、スカートでも恥ずかしくなかったんだよ……。


 

「左の4匹はボクがやる!」

 

 ボクたちの立ち位置でボクは左側だったため左側の4匹を狙う。声に出すと同時にボクは既に動き始めていた。


「私が中央をやるわ」

「あいよ」

 

 後ろでそう言う二人の声が耳にしながら、既にボクの攻撃範囲まで入った一匹のディジーの額にある黒い水晶を狙う。


 ディジーはこの額にある黒い水晶が弱点になっており、ここを破壊すると簡単に倒せる。最低ランクはだてじゃない。


 ディジーは飛びかかってくるが、半身でその突進を交わしながら弱点である黒い水晶を破壊し一匹倒す。

 そしてすぐに一番近いところにいるディジーに距離を詰め、額の黒い水晶を破壊し倒す。


 残る二匹の居場所を探すためあたりを見渡す。


 すると、どうやらボクよりも逃げ出している他の人たちの方が倒しやすいと判断したのか、逃げている人たちの方へ走っているディジー二匹を見つけた。


「凍てつく氷よ、包み込め『氷結』『風刃』」


 AW内では何度も使ったことのある魔法。容姿のアバター化に武器召喚、防具も召喚出来た今、恐らく魔法も使えるだろうと判断した。

 『氷結』はちゃんと発動し、二匹のディジーの足元から氷が現れ、瞬く間に二匹は凍りつき、間を開けずに『風刃』で狙い通りに黒い結晶を切断した。


 ディジーの黒い結晶は壊すのにそこまでの威力は必要ない。なので『風刃』は詠唱破棄で発動させた。


 ボクの分は片付いたので二人の方はどうなってるかなと見てみれば、二人は既に戦闘を終えており、こっちを見ていた。




 その後しばらくして警察がやってきたり、テレビ関係の人もやってきたりして、話を聞かれることになり、アバター化よりも注目される出来事となった。


 今回の事件のあと、突然再び首相が会見を開くと言い出し、ボク達は警察や記者たちからの質問攻めでへとへとになり解放されたあと、ボクの家でその会見が始まるのを待っていた。


「体の動きの自由度って仮想現実も現実も変わりなかったねー」

 ボクはそう言うと目の前のテーブルにあるジュースを一気に飲み干す。

 うん、りんごジュースはいいよね。いつ飲んでもおいしい。


「そうだな、AW内で見たこともあって冷静に対処もできたし、まぁディジーだったからなぁ……もっと強い奴とかだったら慌ててたかもな」


「それにしてもこの世界、AWの世界と融合でもし始めたんじゃないのかな? アバター化はするし、武器召喚に防具まで召喚するし、AWの敵は出るし、魔法も使える。どれも普通じゃありえない」


 確かにそんなありえそうにない話でも信じてしまいそうになる。なんたって既にありえないことが立て続けに何度も起きているのだから。


 ちなみに、千秋以外は戦闘時に召喚した防具のままだ。流石に武器は別空間に収納しているけどね。


「まぁ、会見を待てばわかるだろ。さすがに今回はちゃんとするだろうしな」

「だねー」


 それから数分して、本日二度目の首相の会見が始まった。


『まずは、今朝情報を秘匿したことに謝罪を申し上げます。今から全てを話します。昨夜、この世界の管理者を名乗るものの声が聞こえてきました』


 それから首相が話したことをまとめると、昨日この世界の管理者、簡単に言うと神様の声が聞こえてきて、明日特定の人々に力を授ける。なので下位世界にいってとある敵を倒して欲しいとのこと。そうしない場合、下位世界だけでなく、上位世界の私達がいる世界にまでその敵が来てしまい大被害が出るだろうと。

 容姿のアバター化は特定の人、つまりAWをしている中高生に力を授けた時の副作用みたいなものらしい。なんでもAWの力だけを授けるよりも、AWのアバターごと授けたほうが労力が少ないからだそうだ。

 労力が少ないとか言わずに真面目にしようよ! と言いたくなったりもするだろうが、なんでもこの力を授けたのは日本だけではないらしい。アメリカや中国、フランス、ドイツ、イギリス、ロシアなどなど、多数の国でAWをしていた中高生にも授けていたらしい。

 そして中国と日本以外はすぐに管理者の話に賛成し、既に下位世界に行っているそうだ。

 日本と中国にはわかってもらうために、少しディアを誘い込んだらしい。

 日本はディジー12匹だったが、中国の方では10段階あるランクのランク2のディラグ1匹とディジーが数十匹現れ、都市一つが半壊したそうだ。



 それと、中高生限定なのは理由があった。

 なんでも大人は現在の仕事があり、下位世界に行ってもらうとこちらの世界で穴ができる。そして小学生以下が行かせるなんてできない、とのこと。


『―――――です。では、お願いします』

『ここからは私が説明しよう』


 首相がそう言うとテレビには姿が映っていないが首相とは別の声が聞こえる。

 この声の人がこの世界の管理者だろう。

『まず世界について説明する。私の管理しているこの世界は上位世界と、多数の下位世界がある。少し前から下位世界で謎の生命体が現れ始め、人や原住生物を襲い始めた。そして、下位世界の人々は結束して戦うものの、少しずつ押されてきている。このままでは下位世界すべてがその謎の生命体、ディアに侵略され、次々と上位世界であるこの世界にもやってくるだろう。

 今日現れた程度の数ではない。もっとたくさんの数が襲ってくるだろう。日本は勇気ある若者がすぐに対応し被害はほぼ皆無であったが、中国を見てみるといい。AnotherWorldをしている者ならわかるだろう。ディラグ1匹とディア28匹で都市一つが崩壊した。ディラグは10段階あるランクで下から2つめだ。それ一匹が現れただけでこのありさまだ。

 この世界で戦うたびにとしが滅びていてはいずれ文明が滅びる。そんなことはさせたくはない。なので下位世界に出向いて戦ってもらいたいのだ。

 それに下位世界ならば、人は強くなりやすい。

 わかりやすく言えばLVというものがあるからだ。

 最後に……、下位世界も救わなければいずれ上位世界も侵略される』



『下位世界への移動は本日の日付が変わると同時に行います』


 首相はそう言うと会場をあとにした。


「………」

「ある程度のことは予想してたけど、ここまでとはな……」

「しかも私達には拒否権なさそうね」

「まぁボクたちがしないとたくさんの人や大切な人が死んじゃうかもしれないし、やるしかないよね。まぁボクはこういう不思議なこと大好きだからいいけどね。ほかの世界なんて多分ボクたちが初めて行くんじゃないかな」

 

 なんかちょっと楽しみだ。

 確かに、下位世界を救うなら戦闘は避けられないだろう。死ぬかもしれない戦闘。けどもボクはこの働くために生きているといった生活が嫌だった。

 それなら死ぬかもしれないけど自分の好きなように生きれる方がいい。


 もしかしてAWって……。


「ねぇー、もしかしてさAWってこの世界の管理者が作ったんじゃ……というかそれしか考えられないよね」


 AWに出たディアと同じものがこの世界に現れたんじゃない。

 今日現れたものを真似してAWで出していたんだろう。


「取り敢えず、一旦家に帰って荷造りしてくるね。お母さんたちと話もしておきたいし」

「そうだな、そして日付が変わる前にまたここで集合するか」


 千秋とマコトはそう言い、一旦自分の家に帰っていった。


 



 日付が変わる数十秒前、ボクたちは下位世界に持っていく荷物を持ってリビングに集まっていた。


 千秋とマコトと一旦別れたあと、ボクはお母さんに電話して下位世界に行ってくるからということを連絡し、荷造りした。


「そういえばさ、下位世界っていくつもあるって言ってたわよね。ならあんまり意味はないかもしれないけど、みんなで手つないでおかない?」

 

 日付が変わるまであと一分もないという時に突然千秋がそんなことを言ってきた。

 そういえば、そんなことも言ってたような……。


「俺は賛成だ」

「ボクもさんせー、少しでも同じ世界に行ける確率あげたいもんね」


 ボクたちは三人で輪になるように手をつなぎ、日付が変わるのを待った。


 そして、日付が変わった瞬間。ボクたちは光に包まれた。


主人公と千秋のセリフどっちかわかりにくいときがある……


6/11 ユーリの時の一人称を私からボクに変更+加筆(一人称を俺からボクに変えている理由)

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