2@マコトと千秋と俺と
異世界に行くのはもう少し先かなぁ・・
『おい、優! やべぇぞ! 今すぐテレビつけてみろ。どこも同じ緊急ニュースしてるぞ』
俺の睡眠は真の言い放ったこの一言で中断せざるを得なくなった。
貴重な休日な睡眠時間をよくも………、真め覚悟しとけ、と思いながら、片手に携帯を持ち、体を起こしてベッドから降り、携帯を持っていない方の手で目をこすりながら一階のリビングへ向かう。
リビングに着く頃にはある程度目が覚めたので、真に聞いてみる。
「なぁ、なんでそんなに取り乱してんだ?」
緊急ニュースを見れば何が起きたのかわかるだろう。しかし、緊急ニュースなんて見る側の人からしたら報道されているものなんて無関係だ。地震などの災害の報道だった場合や、テロの報道。どちらも関係がある人はテレビを見たりはできない。まぁ地震の起きた地域に知り合いがいたり、テロに巻き込まれた人の中に知り合いがいたりとかはあり得るだろうけど、それじゃあ真の取り乱し方は説明できない。
取り敢えず真に聞きながら、リビングに置かれたテーブルの上にあるリモコンを手に取り、テレビの電源を入れる。
『えー、まとめますと、全国の中学生、高校生で今話題のVRMMO『AnotherWorld』をプレイしている人全員が『AnotherWorld』内で使用しているアバター化しているであろうとのことです』
今人気のアナウンサーはそう言い、画面の右上には『緊急!全国の中高校生の容姿アバター化!?』とあり、それを赤いジグザグした線で囲んでいた。
すぐに自分の体を手探りで調べると、胸は男にはない膨らみがあり、下半身が少し寂しくなっていた。
『わかったか……? 既にネット上でもこの話の討論がされてる』
「あはは・……、どうしようか友人A。俺、女になっちゃったわ」
『だろうな……って俺は友人Aじゃあねえっつうの』
容姿アバター化ということは、俺の容姿は金髪ロリに………。
『でもよ、よかったな。女声も出せて……。出せなかったら……』
「だ、だな。そこんとこはマジでよかった。んんっ、どう?」
確かに、今ほど女声だせることに感謝しているときはないだろう。
話す途中、AW内で使っている声に切り替える。
携帯で真と話しながらも、ずっと目はテレビに向けている。
すると、アナウンサーの元に紙をもった人が近づきそれを手渡す。アナウンサーはそれを受け取るとすぐに口を開き始めた。
『えー、たった今入ってきた情報によりますと、首相が午前八時になったら会見を開きこのことについて発表するとの事です! 繰り返します、首相が午前八時になりしだい会見を開きこのことについて発表するとのことです!!』
首相が会見って、なんで首相なんだろ……。このアバター化現象のアバターの元となったVRMMO『AnotherWorld』の運営会社の方が開くのが普通なんじゃないの………?
確か時間が真の部活と会見が被るはず……。取り敢えず聞いてみるか。
「どうするー?」
『あと二時間もあるじゃねえかよ。まぁ、こんな時間から会見するよりは皆が起きているであろう時間にするほうがいいだろうしな。そう考えてこの時間なんだろうな。』
「でもさ、既に起きている人とかはこの二時間パニックになりそうだけどね」
『だろうな、まぁ俺や優……いや今はユーリか、俺たちは平気だけどな。てかこの出来事異常すぎる、今以上に大きなことになりそうだ』
確かに俺たちはもう落ち着いてるし、大丈夫だろうな。俺は女になってしまったけど、こういう不思議なことは結構好きだし。
「うーん、仮想現実はどんなに現実に近くなろうとも仮想。それが現実に出てくるなんて今の技術じゃ無理じゃない? それにもし仮にそんな技術があったならばとうの昔に発表でもするはず。いや、危険と判断して隠した可能性もあるかな。」
『それに、だ。中学生、高校生限定というのがおかしすぎる。なぜ特定の人だけがアバターの容姿になったのか。もう一つはどうやって全国にいる中高生でその条件に合う人の容姿を同時にアバター化させたのか』
わからないことが多すぎる。それに現段階の情報では確定できることがほとんどない。
ようするに、考える材料がほぼない今は考える意味がないということ。
「話変わるけどさ、真……今はマコトか? マコトは部活どうするんだ? まぁ答えはわかるけどさ」
『そうだな、会見を見ようと思ってる。よしっ! 今からユーリの家に行くわ。ついでにお互いの容姿確認しといたほうがいいだろ。いくらアバターと同じといってもな』
「ん、あぁ……って切れてるし」
既に通話が切れた携帯をソファーに放り投げ、そのとなりに腰を下ろしマコトが来るのを待つ。
それからしばらくして、玄関のチャイムが聞こえてきた。
電話が切れてからも、軽く流す程度にニュースを見ていた俺は出迎える為に、ゆっく立ち上がって玄関へ向かう。
玄関につき、鍵を開け扉を開くと、予想通りの容姿をしたマコトともう一人いた。
マコトの隣には現実でもAW内でも見たことのある平均よりも高い身長、整った顔に出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる親友B。
親友Bの名前は月見千秋、AW内での名前はシア。成績優秀、容姿端麗、運動もマコトと同じ剣道部に所属していて、千秋も一年の頃から女子のレギュラー入りを果たし、個人戦は全国優勝をしているすごいやつ。
千秋は俺みたいなアバター魔改造などはしておらず、現実とほぼ代わりのない容姿にしている。髪は黒色で背中あたりまでのストレート。顔も文句なしのレベル。さらに周りに頼れる雰囲気を撒き散らすお姉さん的な感じ。
「すまん、少し遅くなった。ここに来る途中に千秋と出会ってな、千秋もユーリの家に向かってたらしくて一緒に来た」
そう言うマコトの前に入ってきた千秋……今はシアと言ったほうがいいのか? だがしかし、現実と大して変わらないからつい千秋と呼んでしまう。
「優? 今はユーリかな? とにかく―――――」
次の瞬間、思いっきり抱きしめられる。朝っぱらから玄関でなにしてんのさ。
「ユーリ、かわいいよー! つい抱きしめたくなるんだよね」
昔からよくあることなので慣れてしまい、今では特に思うことはない。まぁ言うとすればアレが顔にあたって苦しいことくらい。
まぁ最初の方はまさか、俺に春がきたのか! とか思ってたけど、そんなんじゃないって気がついたんだよ。
千秋の抱きつくくせは犬や猫を抱きしめるのと同じなんだと……。
それから皆朝食を食べていなかったので、千秋が作って皆で食べたあと、マコトに「そういえば綾さんに電話したか?」と言われ、電話してないことに気がつき、すぐに電話をして、容姿が変わったけど特に問題ないから平気だよーって連絡しておいた。
綾さんというのは俺の母さんのこと。母さんと父さんは今はこの家に住んでいない。
母さん達は父さんの転勤で県外に引越し、俺だけここに残っている状態だ。生活費は仕送りしてもらってる。
そんなこんなで時間が経ち、時刻は午前八時に。
テレビの前に置かれたソファに三人並んで座る。
テレビに映し出された用意された台の上には多数のマイクが置かれており、場は既に首相待ちとなっていた。
首相は時刻にほんの少し遅れてやってきた。
『えー、今回の中高生の容姿アバター化については原因はわかっておらず、今のところこの事件解決の見通しもたっておりません。しかし、調査の結果健康面には問題がないことが分かっており―――――』
「え、会見いらないよねこれ……」
「はぁ……、まぁ大体予想はついてたけどな」
「まぁ、わかりきったことだよね。さて、もう部活休んじゃったし、ユーリの服でも買いに行きましょうか」
時間まで待った会見が何の意味もなかったことに溜息をつく。
マコトや千秋のいうように大体予想はしてたけど、なんだかなぁ……。
「えっ? 服?」
「うん、だって今ユーリは女の子だよ? いろいろ必要でしょ?」