第二章『体育祭の練習』
「疲れたー」
この広い校庭を一時間も走り続ければ誰でも疲れるであろう。
私は体育祭を優勝するため、必死で練習していた。
リレーの選手に選ばれたからには、ちゃんと練習しなければ。
みんなの期待に答えなければ――
「実架、頑張ってるな」
幼馴染の隼人が私に声を掛けてきた。
「そりゃぁ、優勝目指してるからね」
「そっか、そっか。俺もガンバロー」
私の数倍も隼人は練習して、サッカー部の優勝を目指しているじゃないか。
あんたは少しぐらい休んだ方が良いぐらいなのに。
でもそうやって、頑張っている隼人を見るのは好きだ。
幼馴染であることが嬉しく思えてくる。
努力しない人間なんてダメ人間だ――
だから、私は体育祭も――恋愛も精一杯頑張ってみせる。
「何見てるの蓮?」
春奈は尋ねた。
蓮はさっき程から窓の外、校庭をを見ている。
「体育祭の練習頑張ってるな」
「そうだね。私たちは今年最後だし頑張らないとね」
「ああ」
「あの子――星野実架ちゃんだっけ?
この一週間、一度も練習をサボらずにやって偉いね」
春奈の言葉に蓮はうなづいた。
―翌日―
「ねぇー、実架。今日ぐらいは練習休んだ方が良いよ?」
綾乃は心配して言った。
私の頭はぼ〜としている。
さっき熱を測ったら、九十℃もあった。
でもリレーは私一人でも欠ければ、練習にはならない。
「大丈夫だって」
無理に笑顔をつくる。大丈夫だよ、綾乃。
私は休む暇なんてないんだ。
「…まぁ、実架は言い出したら聞かないから好きにしたら」
「うん、じゃぁ行くね」
私はそう言って、体育館の更衣室に向かう。
階段を下りながら思った。
もしかしたら、本当にやばいかもしれない。
なんかこの階段が左右に動いているようにみえる。
実際には動いてはいない―ということは、私自身がふらふらしているんだ。
「やばぃ…」
私はそう言って階段から落ちるのを覚悟した。
そして足が階段から離れた。
あれ―!?案外、痛くないな――
「おい、大丈夫か?」
聞き覚えのある声に私はびっくりする。
階段を落ちたことに間違いは無かった。
「えっ?」
私は蓮会長に抱かれていた。
「ぇぇぇぇええ……」
私の頭は混乱していた。
熱が出てただでさえ考えられないのに、この状況ときた。
「俺が階段を上ろうとしたら、おまえがいきなり落ちてきた」
「ご、ごめんなさい」
「怪我は無い?」
私は目を開けているのもつらくなる。
そして意識を失った。
ここはどこ?何か柔らかい物の上にいる―
私が目を開けると、そこは見慣れた私の部屋だった。
どうやら、ベッドで眠っていたらしい。
熱がまだあるのか、頭がくらくらする。
「待てよ?」
私は考えた。階段から落ちた後…どうしたっけ?
必死に思い出す。
辿り着いた結論は…蓮会長に助けられたということ。
「嘘っ!!」
これが夢であれば良い。
「お母さん、お母さん!!」
「何よ?」
私の部屋へとお母さんが入ってきた。
「私…どうした?」
「熱がまだあるでしょ、静かにしてなさい。
実架の彼氏がかついで家まで送ってくれたわよ。
それにしても、貴方馬鹿ねぇー。なんで階段から落ちるの?
熱があるんだったら大人しく家に帰ってくれば良かったのに」
私の彼氏?彼氏?彼氏――?誰それ?
それって、やっぱ会長のことだよね?
「彼氏じゃないし」
「何言ってるのー。普通彼氏じゃなかったら、家まで送ってくれないって。
保健室に連れて行くだけよ。
それにしても、かっこ良い子だったわ〜
実架も年上の良い彼氏をもって―お母さんは嬉しいわ」
「黙って、出て行って!!」
私はパニックだった。
母を部屋の外に無理矢理出すと、頭の中を整理した。
「と、とりあえず会長に電話しよう」
頑張れ、落ち着け。そう言って、携帯電話を取った。
って、私は会長の電話番号なんて知らないし……
せめて、メールアドレスだけでも聞いとけば良かった。
今更、後悔してもどうしようもない。
「明日、お礼を言おう…」
そう言って、私は再び目を閉じた。
『今日一日休めば?』そう母に言われても私は無理に家を出てきた。
昨日練習を休んでしまった分、今日は人一倍頑張ろう。
私はそう思っていた。
そして――会長にお礼を言おう。
家までかついで来てくれたなんて…私、重かっただろうな(汗
そう思いながら、生徒会室に向かった。
「トントン」
ドアをノックすると、春奈先輩が出てきた。
「えっと、蓮会長いますか?」
「今、中庭に行ったわよ」
「あ、ありがとうございます」
春奈先輩は本当に綺麗だなぁ〜
「ねぇ」
立ち去ろうとした私を春奈先輩は呼び止めた。
「何でしょうか?」
私は振り返り、尋ねた。
「蓮と付き合ってるの?」
突然、そう尋ねられ戸惑う私――
いきなり、何なんだ――?
「何で、そんなこと聞くのですか?」
「興味があっただけよ」
いったい、どんな興味があるの?
もしかしたら…春奈先輩も会長のことが好きなのかもしれない。
ってことは、両思いじゃん――
「付き合ってません」
私の片思いなんだよ…
そんなこと、春奈先輩にだけは尋ねられたくなかった。
「そう。変なこと聞いてごめんね」
春奈先輩は言った。
謝るのなら最初から、聞かなければいいじゃない。
私は心の中で文句を言って、中庭に向かった。