第一章『あなたが好き』
私は恋がしたい―
だからと言って、誰でも良い訳じゃない。
私のことだけを見てくれて、私のことだけを愛してくれる――
そんな人はいないって思うでしょ?
私もいないって思ってた。
誰もが――恋をして傷ついても、また再び恋をする。
でも、私は一生の内で愛すのは一人だけで良い、って思ってる。
そんな私の前に彼が現れた――
まさに理想の男の子。彼の名は、長瀬蓮。
彼と両思いになれたら良いな?
私は星野実架。
勉強も体育も同じぐらいできる、平凡な高校生。
彼氏いない暦、16年――。自分で言ってて、むなしくなる。
「実架、会長のあいさつだよ」
私に話しかけてきたのは、親友の綾乃。
いつも明るくて、クラスの中心的存在。
背が高くて、とっても美人な彼女は結構もてる。
「明日から体育祭の練習を行うことになるだろう。
真剣に取り組み、みんなで協力して頑張りましょう」
朝会の壇上で話をしている彼は、生徒会長の長瀬蓮。
彼はクールでポーカーフェイス。
運動も出来るし、成績は常に学年トップ。
女子なら誰でも憧れている存在だ。
そして私も会長を見るたびに、心臓の鼓動が高くなる。
美沙に教えてもらった。この気持ちが恋だと――。
だけど会長は誰に対しても、笑顔を見せたりはしない。
初対面の相手にはきっと、会長が冷たい人だと勘違いしてしまうだろう。
でも、私は会長が優しいことを知っている。
会長に初めて会ったのは、4月6日。
この高校の始業式の日だ。
初めてこの学校に来た私は、体育館の場所が分からなかった。
「やばい!!後、5分で始まっちゃう」
時間との戦いで慌てていた私は、階段を踏み外して落ちてしまった。
「痛いっ…」
泣きが入るほどの痛みだった。
立とうとすると、よろけてしまった。
どうやら、足をくじいてしまったようだ。
「大丈夫か?」
声のした方を見ると、男子生徒が立っていた。
「は、はい!!」
初めての学校なので緊張していた私は、おもわず大声で返事してしまった。
「新入生だな。ほら、体育館に行くぞ」
彼は私の手をとって立たせてくれた。
それから私は足の痛みを我慢しながら、彼の後ろをついて行った。
会話もなしに、彼はささっと歩いて行く。
校舎を抜けると、体育館に着いた。
「あ、あの―どうもありがとうございます」
「いえ、別に」
彼はどこかそっけない。
「私は星野実架です。貴方は?」
「俺は早瀬蓮。生徒会長をやっている」
この人が生徒会長だなんてー。びっくりだ。
「生徒会長だったんですかぁー」
「意外かっ?」
会長は笑いもせず、そう尋ねてきた。
「い、いえ。そう言う意味じゃなくて――
この学校に来て、一番最初にあったのが生徒会長。
そう思うとなんか、びっくりです!!」
私が言うと、会長は不思議そうな顔をした。
私はいったい、何を言ってるのだろう…(汗
「おまえ、面白い奴だな」
そう言った会長は笑っていた。
その笑顔に私は惚れてしまったのかもしれない。
とにかく、会長が好きになったのは始業式の日からだ。
たった数分でも私にとっては忘れなれない日となった。
私はあくびをしながら、バスが来るのを待っていた。
明日から体育祭の練習が始まる。
私はリレーの選手に選ばれていた。
本番はきっと、緊張するだろう…。
「はぁ」
思わずため息を付いた。朝練もあるし、今日は早く寝よう。
最近会長のことを考えてばかりで、夜も眠れない。
乙女の悩みと言う奴だ。
「ため息なんかついて、おまえらしくもない」
「えっ…」
声の主は憧れの会長だった。
「いつから隣に居たんですか?」
「いや、今来たとこ。」
バス停で会長と会えるなんてラッキー。神様に感謝だ。
「なんか、悩みでもあるのか?」
「別に悩みなんてありませんよー」
「そう、なら良いけど」
「もしかして、心配してくれてるんですか?」
私はちょっと期待しながら、尋ねた。
「別に。でも、おまえが暗いと俺まで暗くなる」
これはどういう意味だろう?
もしかして告白!?そんなこと、あるわけないか――
「いや―恋の悩みですよ」
「…おまえにも好きな奴いるのか?」
そりゃ、そうだよ。私にだって好きな人ぐらい―
でも、本人はまったく気づいて無いんだよね。
「蓮会長だって好きな人ぐらい居るでしょ?」
「さぁ?居るかもしれないし、いないかもしれない」
なんだよ―勇気を振り絞って聞いたのに…
はっきり、してよ!!
「どっちですか?」
好きな人を聞くチャンスだ。でも、聞くのが怖い。
「自分でも分からん。気になる奴はいるけど、好きな奴かは分からない」
「誰?」
私はそう尋ねた。
気になるってことは―もう好きってことだよ、会長。
貴方も恋をしてるんですね…。
その相手が私だったら良いのに。
私は貴方を一生愛すと誓えるわ――
「おまえが言ったら教えてやるよ」
はっ?私が本当のことを言えるわけないでしょ?
まして、蓮会長の前で!!
私にここで告白しろ、って言うの?
無理だよ、少なくとも今の私にはそんな勇気ないし。
「え、えっと―クラスの野村隼人」
こうなったら、適当に言えー!!
野村隼人。
彼は顔が良くて明るい、サッカー部のエース。
隼人とは昔から、喧嘩友達である。
「…そうか。あういう奴が好みなんだな」
「え、好みって言うか―」
口ごもる、私。隼人は私の恋愛対象じゃないし。
隼人のことを理想の男子だ――って言っている女子は居るけど、
私にはただの馬鹿にしか見えない。
「いや、隼人とは昔からのクサレ縁でして――」
私ったら何を言っているんだ?馬鹿じゃない。
まだ秘密にしておいた方が良かったかも……。
「野村は結構、もてるぞ。
生徒会の奴等でも憧れている女子は居る。
まぁ、頑張れ」
応援されても全然、嬉しくないんだけど?
「れ、蓮会長の気になる人は?」
いや――聞きたくない。でも、聞きたい――。
しっかりするんだ、自分!!
「俺は…副会長の竹内春奈」
はぁ…。聞くんじゃなかった。
竹内春奈――彼女はしっかり者で女子からも男子からも好かれている。
何よりも美少女だっ!!
私とは比べたら、『月とスッポン』だし。
神様は私にチャンスを与えてくれる気は無いみたいだ――。
「おい、どうした?」
ぼっとしている、私に蓮会長は心配そうに尋ねる。
そんな顔しないで。私を見ないで――
「わ、私は歩いて帰ります。さようなら」
そう言って、会長の顔を見る余裕もなく走った。
バス停から遠のいていく。
恋をすると、何故こんなにも苦しいの?
会長と両思いになれるなら、どんなことでもする。
会長が一日でも私のことだけを、見てくれたなら死んでも良い。
そう願うのは罪ですか?
「そっか、春奈先輩か――」
綾乃は黙って私の話を聞いてくれた。
綾乃は始めての高校で私に声を掛けてくれた。
不安と緊張の入り混じっていた私に「友達になろう」って言ってくれた。
彼女は私にとっての天使だ。
「うん。聞いたのは良いけど、立ち直れなくてね」
あれから歩いて家に帰って、夕食も食べずに布団に入った。
眠れずに、泣いた。
何故会長が春奈先輩のことを好き――、って言ったぐらいでこんなに苦しいのだろう。
「でも、会長は好きかは分からない!!って言ったんでしょ?
なら、まだチャンスがあるんじゃない?
春奈先輩はただの憧れの人かもしれないし」
「えっ?」
「元気出してよ、実架。憧れと好きな人は違うわよ。
憧れの人は―理想の人よ。例えば、金持ちの人と結婚したい。
これは、単なる理想に過ぎないのよ。
でも、実架が会長を好きってのは理想じゃないでしょ?
心から、好きなんでしょう?」
綾乃の言葉で少し元気が出た気がした。
「心から好きなら、会長を追いかけなきゃ!!
そして、春奈先輩はただの理想の人だと気づかせてあげなよ」
彼女は笑顔でそう言った。
「…私、頑張ってみるよ。ありがとう」
綾乃、いつも私に勇気と力をくれてありがとう。
貴方が居なければ、私は暗闇をずっとさ迷ってた。
大げさかもしれないけど、本当にそう思うんだ。
それぐらい、会長は大切な人だから。
「おい、実架―会長がお呼びだぜ」
昼休み、隼人が私にそう言った。
えー会長が?
「廊下に居るわよ、早く言っておいで」
綾乃は私をせかすように言った。
ただ立ち止まっているだけでは前に進めない。
「行って来る」
会長は何のようかな?とりあえず、昨日のことを謝らないと。
あんな変な別れ方、会長も気にしてるかもしれない――
「よっ、今時間あるか?」
「はい」
会長とならんで歩く。
あ〜背が高いな〜。私はそんなことを考えていた。
屋上には人もいなくて、話すには絶好の場所だった。
「あの―会長、昨日はすみませんでした」
「俺こそ、ごめんな」
「えっ?」
突然、蓮会長に謝られたので私はびっくりした。
何で、会長が謝るの?別に会長は悪くないよ。
「俺、おまえの気持ちを考えずに――
野村はもてるとか…言った。
おまえはそれで、嫌な思いをしたんだろ?悪かった」
違うし!!私は会長の好きな人を聞いてショックを受けただけ。
そう、ちょっと凹んじゃっただけ。
でも私はそんなことじゃ、めげないからね?
蓮会長を好き、って気持ちを持ち続けるのは私の自由でしょう?
「いえ、大丈夫です。
本当に昨日のことは気にしないで下さい」
「でも…」
「お互い、頑張りましょう」
私は絶対に貴方を振り向かせて見せるから。
覚悟しておいてよ!!