安否
「未だに、研究は続いているんだ。」職員の男が苦虫を噛みつぶしたような顔で言った。
「時間を操る研究のこと?」
「そっちもそうだし、錬金術も。」
「人間を作る研究?」
「ああ、吐き気がするだろ。」
「吐き気はしないけど、人間が神になろうとするのは傲慢な気がするな。」
「ああ、そうだろ。そもそも神なんて必要がないんだ。」職員の男は不快そうに吐き捨てた。
「うん、その通りかもしれない。」
「おれはもっと、この石には別の意味があると思うんだ。」
「別の意味?」
「この石は錬金術でも作ることができないんだ。」
「え? そうなの?」
「ああ、すごいだろ。」職員の男は目尻に皺を作った。
「それは、すごい。」それは心の底からの驚きの声だった。僕は今まで、錬金術で作れないものは世界でないと思っていた。なので、職員の男の発言は衝撃的で、疑わしいことでもあった。
「これは本当にすごいんだ。」職員の男は自慢げにもう一度言う。
「でも、本当に錬金術で作れないの?」
「ああ、解析ができていないし、それよりも、この高エネルギーを再現するのは不可能だとされている。」
「高エネルギー?」
「恒星って知っているかい?」
「太陽のこと?」
「そう。それくらいのエネルギーを持っているんだ。だから、地球では作れない。」
「へぇぇ、よくわかないけど、すごいんだ。」
「ああ、とにかくすごいんだ。」
職員の男は石を見て、幸せそうな顔をする。僕もそれを見て、この石のそれだけの価値があるのかショーケースに顔を近づけて、石を観察した。
青く不気味に光っている。太陽と同じだけのエネルギーを持っているとは、どう考えても信じられなかった。もう少し、ショーケースに顔を近づけようとしたとき、お尻に衝撃が走った。その、瞬間顔にも衝撃が走った。僕の顔が石の入ったショーケースにめり込んだのだ。そして、ショーケースを突き破り、僕は床に倒れ込んだ。
「きゃぁぁぁ」少し美人の女性社員の悲鳴が室内に響くのがわかった。僕の目の前に青く光る石が転がっているのがぼやけて見える。だが、それよりも鼻にジンジンと重い痛みがある方が気になった。割れたショーケースには血が付着している。すぐに自分の血だとわかった。鼻血が出ていた。
後ろで男の子の泣き声が聞こえる。僕にぶつかった衝撃で驚いて泣いているのだろう。
「大丈夫だ。石は割れていない。」職員の男の声が聞こえた。どうやら、僕の安否より、石の方が心配だったらしい。それじゃあ、さっきの女性の職員も石の安否が不安になって叫んだのだろうか、と気になった。だが、僕の意識が少しずつ遠くなった。