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絶世の美女と絶世の雌犬

「坊主はいくつだい。」職員の男が言った。

「十二歳。小学六年。」

「魔法に興味があるのかい?」職員の男が嬉しそうな顔をした。

「別にないよ。たまたま、入っただけ。」嘘を吐く必要もないと思い正直に答える。しかし、職員の男はその答えを聞いて顔を曇らせ残念そうに肩を落とした。その表情を見て、僕はなんとなく後悔した。『嘘は希望だ。世の中に正しいことなんかない。』そんな父の詩を思い出す。友達との約束に寝坊したときにできた詩だ。確か、娘が風邪で行けなくなった、と電話で言い訳をしていた。

「でも」と少し間をおいて職員の男が微笑む。「せっかくだし案内するから見て行ってくれよ。」

「うん。あんまり面白そうではないけど。」

 僕は断るのは可哀そうだと思い、人助けのつもりで案内されることにした。

『魔法は世界に幸福を与えます』

 機械的な言い方をする女性のアナウンス部屋に響く。部屋にはショーケース並べてあり、職員の男はアリエナ星人が地球に贈った魔法関連の物質だと説明した。僕は男の説明に「へぇ~」や「なるほど」と適当に相槌を打った。

『魔法は世界を裏切りません』

「まほうはせかいをうらぎりません」と男の子がアナウンスを真似て叫んだ。自然と男の子に目がいく。さっきまで泳いでいたのに飽きたのか今度は野に放たれた犬の様に走り回っていた。

「実際の魔法を見たことある?」職員の男が訊ねてきた。僕が首を横に振ると「魔法ってのいうは無から物質を作るんだ。すごいだろ。」男の職員があたかも自分が魔法の製作者のように自慢げに言った。

「でも、魔法で生みだせるものは錬金術で作れる。」

「でも、魔法は機械を使わずとも誰でも物質を生み出せる。」

「嘘だ。そんなことできるはずがない。」

「いや、できるんだ。」男の職員はそう言って拳ほどある二つの赤い石をハンディから取りだした。

「本当は魔法の時間は錬金術を使用するのは禁止なんだ。」と苦々しく笑う。

「なんで?」

「魔法と錬金術は仲が悪いんだよ。」

「仲が悪い?」

「正確に言えば魔法協会が一方的に錬金術協会を嫌っているんだ。」

「なんで?」

「簡単なことだよ。錬金術の方が優れていて、皆に人気だからだよ。君だってそうだろ。自分より格好いい男の子が女の子からチラホラされていたら、いい気分はしないだろ。」

「さぁ、そんな考えは自分を惨めにするだけだと思うけど。」

「はは、君は子どもだな。」職員の男は鼻で笑った。

「人の才能に嫉妬する方が子どもだと思うけど。」間髪入れず反論する。鼻で笑われたことが少し癇に障った。

「その嫉妬が人を成長させるんだ。そして、その嫉妬はできる奴を優越感に浸らせ幸福にさせる。大概できる奴は負けず嫌いだ。けど、腕の悪い画家は互いの絵を褒め合う。それで満足して終了だ。一向に成長しない。」

「でも、嫉妬の程度が過ぎると自棄になって犯罪に走る馬鹿だっている。」

「それは愚かな奴だけだよ。優秀な奴は自棄になったりはしない。緻密な計画を立てコツコツと努力をする。」

「じゃあ、魔法は錬金術に勝とうと緻密な計画を立てて努力をしているわけ。」

その問いに職員の男は顔をほころばせた。そして、見てろよ、といくぶん興奮した顔付きになって石同士を勢いよくぶつけた。すると、目の前にサッカーボールほどの火の玉が現れた。そして、すぐに消えた。

「どうだ? すごいだろ。」職員の男はニヤリと言った。どことなく達成感のようなものを滲ませた表情をしている。

「まぁ、すごいといえば・・・すごいけれども・・・」これが錬金術に勝つ魔法の緻密な計画なのか、となじったり、呆れたりするよりも気まずさがあった。おれの歌は最高だぜ、と豪語していた友人が歌うと今一だったのでコメントに困る。それなに、友人は感想を求めてくる。そんな気まずさだ。でも、僕の目の前にいる男は友人でもないので、なぜ自分が気まずくならなければいけないのだ、と腹が立った。なので、最終的には「錬金術ならタッチ一つで火ぐらい起こせる」となじった。

「それは、この星が錬金術仕様にカスタムされているからだよ。このすごさをわからないのは錬金術に慣れ過ぎているからだ。」

「なにそれ? ただの言い訳じゃん。」

「違う。根城が違いすぎて比べることができないだけだ。」

「根城?」

「同じ距離を泳ぐとして、川上に向かって泳ぐ人と川下に泳ぐ人間はどっちが速くゴールに辿りつくと思う。」職員の男は突然、突飛なことを言った。

「それは川下に向かって泳ぐ方が速く泳げるでしょ。」

「そうだろ。君はそうゆう偏った比べ方をしている。」

「なにそれ?」

「絶世の雌犬と絶世の美女、結婚するならどっちがいい?」

「そりゃあ、絶世の美女でしょ。そして、絶世の雌犬はペットとして絶世の美女と一緒にペットにするよ。」

「君はそうゆう比べ方をしている。」

「だから、意味がわからない。」

「基準が違うんだ。世界は粒子化して錬金術を生かせることのできる世の中になっている。でも、魔法を生かせるような世界になれば立場が逆転する。川上に向かって泳いでいた人間が川下を泳げば当然勝つし、雄犬にさっきの質問をすれば雌犬を選び、やっぱり、美女を飼い主に選ぶ。でも、プールで競えば勝敗はわからないし、猫に選ばせれば答えはわからない。それと同じだ。魔法は圧倒的な不利な立場にいるも関わらず、君はそんなことも考慮しないで、魔法の負けだと決めつけている。」

「でも、結局は錬金術に勝てていないってわけじゃん。勝敗を判断するのはこの世界に住む人間なんだから。」

「それだけで、魔法の負けだと判断するのは短絡的だよ。それに、いまのは魔法の初歩的なものだから。あれを現代の錬金術と比べられては困る。」職員の男は片眉を下げた。

「初歩的?」

「魔法の基本中の基本の魔法だよ。RPGで譬えるならぶよぶよのモンスターと魔王を比べるようなものだ。」

「木の棒と伝説の剣を比べるようなもの?」職員の男に合わせる必要もなかったが、思い付いてしまったので、口に出さずにはいられなかった。

「そうそう。」と職員の男は僕を指差す。

「それに魔法は錬金術に勝つ為に今も緻密な計画をコツコツと努力をしている最中なんだ。」

「ふぅん、先は長そうだね。」

「まぁね。」と職員の男は愉快そうに笑った。「でも、いつかは逆転するとおれ達は信じているんだ。」

「なにを根拠に?」

「時間は前に進む。」

「・・・だから?」

「だからさ。世界は変わるし、人も変わる。魔法だって発達するし、まぁ、錬金術も発達はするけど、魔法の時代は必ずやってくるよ。だって、魔法が錬金術に劣っていたわけじゃないんだ。時代が魔法を使いこなせなかっただけだからね。」

「そんな漠然と言われてもなぁ。」


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