燃えたデブ
デブが燃えた。
デブというのは、肥えているということだ。目の前で燃えている男に太っているからという理由で僕の中で勝手に付けた安直なニックネームだ。嫌な奴という意味も込められている。
僕は目の前で起こった出来事を把握できず、デブの顔が燃えている様子を呆然と口を開けたまま見ていた。デブの隣にいたチビは突然の出来事に小さく悲鳴を上げて尻もちをついた。チビというのは身長が小さいことからきている。別に親しみを込めて付けたのではなく、軽んずる意味が込められている。
僕はビルの廃墟にいた。床が汚く、部屋に置いてある机は埃で一杯だった。コンクリートで出来た壁も汚い。暗くて見えなかったが、部屋の隅には蜘蛛の巣が張られていることは予想ができた。蛍光灯が切れている為、周囲は暗い。唯一に光は放つのはデブの燃えた顔だけだった。デブの顔に火が宿って見えたことだが、壁には落書きが書いてあった。『in eternity everything is just beginning.』英語は読めないので意味は分からない。
僕の記憶が正しければ時刻は昼間の二時ぐらいのはずだ。だが、ビルの外は薄暗い。日本の終わりを表現しているようにも見えた。立派にそびえ立っていたビル達は影を潜め、ボロボロのビル達が足元をふらふらになりながら、なんとか立っているという感じだった。その様子は老人の歯の様だった。ヤニで黄ばんで、歯茎がこけた老人の歯は廃墟になったビル達に似ていた。どこかに消えた歯も取り壊されたであろうビルと同じだ。そして、二度と元には戻らない、という悲壮感はそのものだった。恐らくは、魔法が錬金術に対する警告の様なものなのだろうが、僕には魔法の妬みにしか見えなかった。
デブは僕が燃やした。
僕は混乱しながらも、悲鳴を上げて燃えるデブの顔を眺めながら三日前のことを思い出す。どうして、こんなことになった。