上品なお誘い
ダンスホールに吊り下げられた豪華なシャンデリア、私には味の分からない高そうなお酒、色とりどりのオードブル。一体このパーティーにどのくらいのお金がかかってるのかなぁ~?
いけないいけない貧乏性だぁ。
「聖女様、私にご一曲お相手下さいませんか?」
先程からこの手の輩が多すぎだよ。まぁ、私の美貌に惹かれちゃうのは、どっかの誰かさんと違って見る目があるって事だけどね~。
「ごめんなさい。私、ダンスは苦手ですので」
あしらい半分、本音が半分。グルアン下町育ちの成り上がり軍人だからね。私はご貴族様方のようにダンスなんてやったこと無いんだよね~。
という訳で、私は壁際で一人ぽつんとしているよ。
今、この会場に居る知り合いなんて、向こうでナンパ中のシーベルエ国王様ぐらいだし。
一応、皆も呼ばれたんだけどね~。ライ君、アレン君はあの時から一年、何処を旅してるか分からないし。
カー君は仕事を言い訳に、今頃ティスちゃんとイチャついてるだろうし。
ユキちゃんはトーテスへの任務が出来て、愛しのライ君に逢えるかもと淡い期待を胸に秘めて飛び出して行っちゃたし。
そんなちょびっと寂しい私に掛かる天使の声。
「ニーセさん!久し振りです!」
「エルちゃ~ん!もう可愛いなぁ~。ドレスがとっても似合ってるよ~!アレン君が見たら惚れ直しちゃうね~」
私のからかいに凄く反応してくれてありがとうね~。顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに首に掛けた飾り付きのネックレスを指で遊ぶエルちゃん。この姿をみてると心が弾んじゃうな~。あれ、そう言えばいつもそのネックレス着けてるよね?あらら、これはこれは~。
「もしかして、そのネックレスはアレン君からの贈り物かなぁ~」
少し驚き、僅かにコクりと頷く顔から火を吹き出しそうなエルちゃん。
もうちょっと意地悪したくなっちゃったよ~。
「ロルスの花を象った飾りだね~。エルちゃん、ロルスの花言葉知ってる~?」
フフフ、黙っちゃうところを見ると知ってるなぁ~。ロルスは丈夫な蔦科の植物で、昔はロープ代わりに使われていたほど。で、肝心の花言葉は“切れない繋がり”。二人はどんな切れない繋がりが在るのかなぁ~。全く、アレン君はああ見えて、憎いことやってるねぇ~。どっかの朴念仁とは大違い。
「あっ、ジン隊長ももうすぐ仕事を終えて来ますよ」
何かに鋭く勘づいたように慌てて言うエルちゃん。
「べっつに~。あの男なんか来なくても良いよ~」
私はあんな男の事なんか、全然考えてなかったし。
それはさぁ、シーベルエ騎士団副総長殿は忙しいだろうけどねー。私だって、旧ガンデアに乱立した自治領の領土問題とかの対応で忙しかったんだよ~。でも、シーベルエンスに来たんだよ~。ちょっとだけ、あいつに会いたくなっちゃてさ…。本当にちょっとだけ、だけどね~。
それなのにあの朴念仁は、こんな素敵な美女を待たせるなんて、何処まで愚か者かな~?
「悪い。仕事が立て込んだ」
「ヒャ!…いきなり声掛けるなんて失礼だと思わないの~?」
いきなり現れたから、びっくりしたじゃないの~!胸が高鳴ってるよ~。これはいきなり現れたせいだよ~。私、顔が赤くなってないよね~。
「あっ、私向こうに居ますね」
エルちゃん、変な気を回さなくて良いよ~。というか、この朴念仁と二人きりにしないでよ~。なんか辛いよ~。
「エル、待て」
ホォ~、貴方も私と二人きりは嫌だと。良い根性してるな、コラ!
「さっき、アレンが俺の部屋に騎士団に再入団したいと来た」
「エッ!アレン君、帰って来たの!」
アレン君、タイミングを心得てる~。この朴念仁とは大違いだね~。
「今はラスの所に居るだろう」
それだけ聞くと一心にダンスホールを後にするエルちゃん。もぅ、健気だなぁ~。
残された私とこいつ。私を見てないで何か言ってよ。
「怒ってるのか?」
「別に怒って無いよ~?」
溜め息を付く朴念仁。溜め息を付きたいのは私だよ。
「踊るか?」
ええぃ、なんだそのダンスの誘い方は~!周りの貴族のボンボンを少しは見習え!
「私は、貴方のような大貴族の育ちで無いので、踊りはやったことありませんの~。女性と踊りたいならそこらのお嬢様を誘ったら如何ですか~」
「そうか」
簡単に認めないでよ~。何か私が惨めじゃない。ダンスも出来ないし、礼儀作法だって曖昧だし。貴方と違って場違いだよ私。シーベルエ人でも貴族でも無いし。
少し落ち込んじゃうな~。どうせ私は平民出だ。
「なぁ?」
「何よ~?」
早く他の女性を誘いに行きなさいよ~。貴方の不躾なお誘いに乗るような人がいればねー。
「俺はこういう格式張った場所は嫌いだ。二人で何処かの酒場に飲みに行かないか?」
全く、上流貴族社会の風情の欠片も無い男ね~。でも、少しは女心…、私の心が分かって来たかな~。
「しょうがないから、そのお誘いに乗ってあげましょう。エスコート、しっかりして下さい」
「了解しました」
彼の前に突き出した私の手を取った彼の手は予想してたより、ずっと暖かかった。
聖女様と朴念仁がくっつくシーンのリクエストを受けて書いたんですが、結局くっついて無いやん。
ごめんなさい。反省します。




