ライシス・ネイスト 賢者への軌跡
当本を読もうと手に取った方は勿論、シーベルエ、いや、この世界に住む言語を理解できる人間ならば、まずこの名を知らないという事は無いだろう。聖女ニーセ・パルケストに仕えし聖戦士、大賢者ライシス・ネイスト。
当本では、私が研究した彼の偉大なる功績を次の世代へと残す為に書き記したいと思う。
まずは、彼の辿った生涯を簡潔に纏めて見よう。
シーベルエ暦1211年、学問都市トーテスの宿屋を営む父シーム・ネイスト、母アーナ・ネイストの長男として誕生。温厚で純朴な少年と評される一方で、あの大戦術家スミル・マードンを8歳にして、知恵で破るという類い稀なる頭脳の持ち主でも有った。
15才にはその頭脳を用いて、難関トーテス高学院歴史科を易々と突破。
彼は学徒時代にリンセン・ナールスを熱心に研究していたらしい。まるで、自らも歴史に名を残す大英雄になることを預言していたように。
そこでは彼の知的好奇心は満たされず、3年後にはトーテス研究院へと歩む。しかし、そのシーベルエ最高峰の研究院でさえ、彼の才能を収めるには小さ過ぎた。一年後には彼はその才能を試す為に研究院を辞め、旅に出る。
その二年後の彼が21才へとなった時だった。あの有名な賢者と勇者の出会いが起こったのは。これに関しては後章で詳しく述べよう。
そこから、まるで神に導かれる如く彼はナールスエンドへ向かい、リンセン・ナールスから魔剣ペグレシャンを譲り受け、それを改心した勇者アレン・レイフォートへと託す。
その後、ガンデアの脅威を予期したライシス・ネイストは聖都ルンバットを守る為にシーベルエ国王に働きかけ、自らも新たな聖戦士達を連れルンバットへ向かう。
これが運命の出会いをもたらした。同じくガンデアの脅威から世界を守る為に聖都に居た“ガンデア革命の聖女”ニーセ・パルケストとの出会いである。ライシス・ネイストは、聖女の崇高なる思想に心を打たれ、聖女の理想を叶える為にその大いなる智力を尽くす事を誓う。
彼は歴史へと姿を表す大前提である。
そうして、レッドラートの乱を故郷トーテスにて、天候や大地を操り、いとも簡単に収めて“天道の賢者”の名を欲しいままにし、国境での聖女による“世界愛の大演説”を行わせるべく尽力する。
そして、今は無きガンデア国の首都グルアンへ赴く。
伝説の再現、悪漢クレサイダにより召喚された凶悪なる魔王。しかし、魔王もリンセン・ナールスを超える人物がこの世界に居ようとは夢にも思わなかった事だろう。同行されたシーベルエ国王は語られた。大賢者ライシス・ネイストの紡ぐ魔法は素晴らしかったと。その一撃にて魔王の戦意は既に削がれていた。
ライシス・ネイストの前にひれ伏し命乞いをする魔王。その魔王の無様な姿に大賢者のその大きなる懐は魔王を許し、ヘブヘルへ帰すという慈愛に満ちた偉大なる判断を下した。
その後、シーベルエ国憲章、騎士団名誉職を“私が貰えるものではありません”と謙遜して辞退し、ライシス・ネイストは勇者アレン・レイフォートと共に一時姿を消す。彼は知識を満たす為にまた旅に出たのである。
そして現在彼はその旅で、さらに増した彼の大いなる叡知を継ぐ次代の賢者達を育てるべく、トーテス高学院にて教職についている。
これがライシス・ネイストの概暦である。
次章からは、この彼の偉大なる功績の詳細を記していこうと思う。
「リセス、飯だぞ。おっ、勉強か、偉いな!何、読んでんの?」
「あっ、それは…」
お父さんは歴史の本は好きだけど自分の事が書かれた本はあまり好きじゃないんだ。
「うん、あー、良いか、リセス。俺はこの本に書いてあるような人物じゃあないぜ」
お父さんはまたそう言って誤魔化すんだ。だから、僕は図書館で借りて来た本でしかお父さんの凄さを知れないんだ。
「まぁ、もうちょい大きくなったら分かるさ。ユキが待ってるし行くぞ」
お父さんは僕の頭を撫でて部屋から出て行った。何故か少し寂しそうに見えた。僕は、まだお父さんの気持ちは分からない。
でも良いんだ。僕も直ぐにお父さんみたいに凄く強くなって、アレンさんみたいな勇者とニーセさんみたいな聖女や色んな仲間達と凄い冒険をしてやるんだ。そうすれば、お父さんの気持ちだって分かるさ。