『余命半日の時空剣士(タイム・ブレイカー) ~敵の時間を奪って生き延びる俺は、止まった時の中で最強の剣を振るう~』
寿命=残り時間。 敵を斬って時間を奪い、加速して生き延びる。 タイムリミット・アクションです。
【第一章:狩りの時間】
荒野の街道沿い。 岩陰に身を潜めた男――ロックは、懐中時計のような形をした胸のアザを睨みつけていた。 そこに浮かぶ赤い数字は、非情なカウントダウンを刻んでいる。
【残り寿命:03:15:20】
あと3時間。 それが、今のロックが活動できる限界だった。 3年前、古代遺跡で受けた「時喰らいの呪い」。 彼の肉体は「燃費」が壊れたエンジンのようなものだ。何もしなくても常人の10倍の速度で時間が流出し、能力を使えばさらに加速して寿命が削れる。
生き延びる方法はただ一つ。他者の「時間」を奪い、継ぎ足すことだけ。
「……来たか」
ロックが顔を上げる。 街道の向こうから、土煙を上げて馬車を襲う盗賊団の姿が見えた。 総勢20名。 悪党だ。あいつらなら、心置きなく「燃料」にできる。
「(待ちくたびれたぜ。そろそろ給油しねぇとガス欠だ)」
ロックは岩陰から飛び出した。 背負っていた大剣を抜き放つ。 その形状は異様だった。巨大な時計の**「長針」**を模した、鋭く尖ったスピア状の大剣。 先端は針のように鋭利で、根元には精巧な歯車の意匠が施されている。
「あァ!? なんだテメェは!」
盗賊たちがロックに気づき、馬を止める。 ロックはニヤリと笑い、剣先を彼らに向けた。
「通りすがりの死神だ。……テメェらの時間、俺がもらうぞ」
「はっ! 頭のイカれた野郎だ! 殺せ!」
盗賊たちが一斉に襲いかかってくる。 弓矢が放たれ、斧が振り上げられる。 多勢に無勢。普通なら蜂の巣だ。
だが、ロックは胸のタイマーに手を当て、解号を唱えた。
「――時間加速。倍率100」
ギチチチチッ……!!
ロックの背後の空間に、金色の光でできた**「巨大な歯車」**が出現した。 歯車が火花を散らして高速回転を始める。 ドクン。 世界が変貌した。
飛んでくる矢が、空中でピタリと止まる。 盗賊たちの怒号が、重低音の間延びしたノイズに変わる。 ロックだけが知覚できる、超高速の世界。
その代償として、胸のカウンターが凄まじい勢いで回転し始めた。
【03:14:50】 【03:10:20】 【03:05:00】
1秒動くごとに、数十分の寿命が燃え尽きていく。 命を削って速さを買っているのだ。 だからこそ、無駄な動きは許されない。
「(……最短、最速で狩る)」
ロックは踏み込んだ。 止まった矢の横をすり抜け、盗賊の懐へ。 長針の剣を一閃。
ザンッ!!
一人目の首を斬る。 返り血が空中に静止する中、ロックは次の標的へ。 二人、三人、五人。 踊るように、流れるように。 20人の盗賊の間を、黒い稲妻となって駆け抜ける。
【00:50:00】
残り時間が1時間を切った。 アラートが脳内に響く。 最後の一人、リーダー格の男の背後に回り込み、剣を振り抜いた。
「――解除」
ロックが指を鳴らす。 世界が元の速度に戻った。
ドシュシュシュシュッ!!!!
20人の盗賊が、一斉に血を噴き出して倒れた。 何が起きたのかすら認識できず、全員が絶命している。
「……ふぅ。燃費が悪すぎて困るぜ」
ロックは荒い息を吐きながら、死体に向かって左手をかざした。 ここからが本番だ。
「――時間徴収」
死体から、青白い光の粒子が立ち上る。 彼らがこれから生きるはずだった「未消化の未来」。 光は渦を巻いてロックの胸のアザに吸い込まれていく。
シュゴオオオオ……。
胸元の数字が、高速でカウントアップを始める。
【00:45:00】 ↓ 【720:00:00】
720時間。約1ヶ月分。 20人狩って、ようやくこれだけだ。悪党の命は軽い。
「ま、当分は食い繋げるか」
ロックは長針の剣を背中に戻し、コートの襟を立てた。 背後の歯車が、ギィ……と音を立てて消滅する。
これが、時喰らい(タイムイーター)と呼ばれる男の日常。 他人の未来を食らって、自分の「今」を買い続ける、終わりのない自転車操業。
ロックは馬車に残されていた食料を一つかじり、荒野を歩き出した。 目指すは帝都。 そこには、この呪いを解く手がかりとなる「時間の巫女」がいるという噂があった。
「……待ってろよ。必ず、俺の時間を『俺のもの』にしてやる」
【第二章:時の巫女】
帝都へ続く街道の途中。 ロックは、廃墟となった宿場町で足を止めた。
「……妙だな。音がしねぇ」
風の音も、虫の音もしない。 まるで、この空間だけ時間が凍りついているような、不気味な静寂。 ロックの胸のアザが、ドクンと脈打った。共鳴している。近くに、とてつもなく強大な「時の力」がある。
ロックは廃屋の陰から広場を覗き込んだ。 そこには、一人の少女が膝を抱えて座り込んでいた。 少し茶色がかった黒髪に、古風な巫女服。年齢は15、6歳ほどか。 彼女の周囲だけ、舞い散る砂埃が空中で静止している。
「(あれが……『時の巫女』か?)」
だが、少女は一人ではなかった。 彼女を取り囲むように、全身を真鍮色の重装甲で固めた騎士団が展開していた。 胸には帝国の紋章。 『帝国機甲騎士団』の精鋭部隊だ。
「抵抗はやめろ、時の巫女ミラよ」
隊長らしき巨漢の騎士が、機械仕掛けの大剣を突きつける。
「貴様の力は、皇帝陛下のために管理されるべきだ。さあ、来い」 「……嫌です。あの方の望みは永遠の命。……時間を止めて、世界を終わらせることです」
少女――ミラが、凛とした声で拒絶する。 隊長は兜の奥で舌打ちをした。
「なら、手足を砕いてでも連れて行くまでだ」
騎士が剣を振り上げる。 少女がギュッと目を閉じた。
――ガキンッ!!
金属音が響き、騎士の大剣が弾かれた。 二人の間に割って入ったのは、長針の大剣を構えたロックだった。
「……誰だ、貴様」 「通りすがりのガス欠野郎だ」
ロックは不敵に笑う。 目の前には「時の巫女」。彼女を帝都に連れて行かれれば、俺の呪いを解く手立てがなくなる。 なら、ここで奪うしかない。
「邪魔をするなら死ね!」
騎士団が一斉に襲いかかってくる。 数は30。だが、ロックには余裕があった。先ほど補充した「720時間」の燃料がある。
「――時間加速。倍率200」
背後に歯車が出現し、世界が停止する。 ロックは黒い疾風となって騎士団の中を駆け抜けた。 装甲の隙間を正確に突き、無力化していく。
勝負あった。 そう思った瞬間だった。
【第三章:重力という名の鎖】
ズズズズズンッ……!!
突然、ロックの体に鉛のような重圧がかかった。 膝が折れそうになる。 加速していたはずの視界が、強制的に引き戻される。
「(なっ……体が重い!? 加速が解除された!?)」
ロックは驚愕し、周囲を見た。 地面に、紫色の魔法陣が展開されている。 隊長の騎士が、ニヤリと笑っていた。
「速いな、賞金首の『時喰らい』。だが、この結界の中では無意味だ」
隊長が掲げているのは、不気味に脈動する魔水晶だった。
「これは**『重力結界』**。空間の時間を歪め、対象の負荷を100倍にする。貴様が速く動こうとすればするほど、その反動で寿命が削れるぞ」
【残り寿命:600:00:00】 【残り寿命:500:00:00】
胸のカウンターが、異常な速度で減少を始めた。 加速していないのに、立っているだけで数年分の時間が溶けていく。 燃費が悪いどころの話ではない。タンクに穴が空いたような状態だ。
「ぐ、ウオオオッ……!」
ロックは大剣を杖にして、なんとか耐える。 だが、騎士たちは通常の速度で迫ってくる。
「終わりだ。その希少な『時間』、陛下への土産に貰い受ける!」
隊長の大剣が、ロックの首めがけて振り下ろされる。 避けられない。 動けば、寿命が尽きる。動かなくても、斬られる。
「だめっ……!」
背後でミラが叫んだ。 彼女が手を伸ばし、空間に干渉しようとするが、重力結界に阻まれて届かない。
【残り寿命:01:00:00】
残り1時間。 さっき稼いだ1ヶ月分が、ほぼ消え失せた。 絶体絶命。
だが、ロックの目は死んでいなかった。 彼は歯を食いしばり、口角を吊り上げた。
「(……上等だ。重力で時間を潰すってなら……)」
ロックは、胸のタイマーに手を当てた。 リミッターを外す。 残りの1時間、その全てを一瞬に圧縮して燃やし尽くす、禁断の賭け。
「(……その重力ごと、未来までぶった斬ってやるよ)」
背後の歯車が、金色から**「虹色」**へと色を変え、暴走を始めた。
【第四章:時空を超越する一撃】
隊長の剣が、ロックの首に触れる寸前。
「――限定解除。オーバードライブ」
ギシャァァァァァンッ!!!!
ロックの背後で、虹色の歯車が砕け散った。 それは「時間の概念」そのものを破壊する音だった。
世界が反転する。 重力も、光も、音も、全てが静止した「ゼロの時間」の中。 ロックの肉体だけが、因果律を無視して動いていた。
【残り寿命:ERROR】
カウンターがバグを起こして点滅している。 全エネルギーを「この一瞬」に注ぎ込んだ代償だ。
「……重力? 関係ねぇな」
ロックは悠然と歩き出した。 静止した隊長の目の前まで移動し、長針の大剣『秒針』を構える。
「俺の時間は、誰にも縛らせねぇ」
ロックは剣を振るった。 一度ではない。 過去、現在、未来。 あらゆる時間軸から同時に放たれる、回避不能の連撃。
「――時空断絶」
ロックが剣を納め、指を鳴らした。 パチンッ。
時間が動き出す。
ズガガガガガガガガガガッ!!!!
隊長の鎧が、肉体が、そして背後の重力結界の装置までもが、無数の斬撃によって粉微塵に崩れ去った。 一瞬の出来事ではない。 「斬られた」という結果だけが、世界に上書きされたのだ。
「隊長!? な、何が起きた!?」 「き、消えた……?」
残された騎士たちが狼狽する。 ロックは荒い息を吐きながら、膝をついた。
【残り寿命:00:00:05】
残り5秒。 やりすぎた。意識が遠のく。
「くそっ……ここまでか……」
ロックが倒れかけた、その時。 温かい手が、彼の背中に添えられた。
「……死なせません」
ミラだった。 彼女は祈るように手を組み、ロックの胸のアザに触れた。
「『時の還元』。……私の時間を、貴方に分けます」
金色の光が、ミラからロックへと流れ込む。 それは、盗賊たちから奪った汚れた時間とは違う、清らかで強大な「生命の時間」。
ドクン。 カウンターが息を吹き返す。
【残り寿命:24:00:00】
一日分。 多くはない。だが、生きるには十分だ。
【エピローグ:共犯者】
騎士団は撤退した。 隊長を瞬殺された恐怖と、ミラの不可解な力に恐れをなしたのだろう。
荒野の真ん中。 ロックは起き上がり、自分の胸を見た。 数字はゆっくりと、しかし確実に減り続けている。
「……余計なマネしやがって。自分の寿命を削ったのか?」 「はい。でも、貴方が助けてくれなかったら、私は一生鳥籠の中でしたから」
ミラは悪戯っぽく微笑んだ。
「それに、貴方の呪い……私なら解けるかもしれません。少し時間はかかりますけど」 「ほう。……俺の時間は高いぞ?」 「ふふっ。私の命を救った報酬です。……貴方の時間が尽きるまで、私がそばにいてあげます」
ミラがロックの手を取る。 ロックは呆れたように息を吐き、そしてニヤリと笑った。
「契約成立だ。……行くぞ、お姫様。帝国の連中が血眼になって追ってくるぜ」 「はい、相棒さん(パートナー)」
二人は歩き出した。 背中には巨大な長針の剣。隣には黒髪の少女。 胸のタイマーは、残り24時間を刻んでいる。
明日の命も知れぬ旅。 だが、その足取りは、今までよりも少しだけ軽かった。
(完)
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「時間操作能力、ロマンがある!」 「歯車のエフェクトが好き!」
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