1章-4話① 反復スキルと謎の爺さん!?
ログアウトして、昼飯のデリバリーを注文した。
届くまでの間、亀裂攻略動画でも探して時間を潰すことにする。
デスクに腰を下ろし深呼吸をする。静まり返った部屋が現実にいることを理解させてくれる。
窓から差し込む昼の光がほんのり机に影を落とし、微かに漂うコーヒーの香りが空気に混ざる。
一方、パソコンのモニターの中だけは騒がしく、光と情報が絶え間なく流れ込み、動画の声が耳に飛び込んでくる。
登録者数100万越えの人気配信者“ゆるP”。
軽快なトークと可愛いキャラと高火力アタッカーの三拍子揃った有名人。
解説動画をざっくりまとめると。
・広範囲スキルは必須
・内部は瘴気が充満、回復は不可
・瘴気を濃くするとボスが出現
・コア破壊でクリア
・60分以内にボスを倒さないとキャラ消失
「広範囲スキルか……図書館で何か掴めたらラッキーだな」
動画を見ながら、今日のやるべきことを考える。
家のインターホンが鳴り、暗い顔をしたオッサンからデリバリーを受け取る。こんなオッサンでもワルビルの世界では強者かもしれない。
「やるべきことが決まれば善は急げだ」
独り言を呟き、ご飯を慌ただしく食べ終えたら、すぐにログインをする。
---《ログイン》---《ハジマリ図書館》
「ようこそいらっしゃいませ」
アライグマのアンクが出迎えてくれた。
紙の匂いと静かな空気に、小学生の頃の自分を思い出す。懐かしさが自然と心を落ち着かせてくれる。
「スキルと職業の本はありますか?」
「ございますよ!」
準備している姿は 小さな仕草が可愛く、さらに心が和む。
アライグマはいくつか本をテーブルに並べてくれた。
〖スキルに関して〗
〖おすすめ職業〗
〖無職の貴方へ〗
「全部借ります」
「500ギルになります」
うっ……金がかかるのか…という表情をしてしまったが、必要経費として割り切りアライグマに500ギル渡す。
窓際のテーブルに座り借りた本を読み始める。
図書館らしく静かで、没頭しやすい環境だ。
本を読み進めると、大体のことが分かった。
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おすすめ職業
・タンク系
・ヒーラー系
・魔法系
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理由はPT狩りが主流で、尖った職業はソロになりやすく危険。
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無職の貴方へ
・特定の装備や行動で職業が更新される
・職業は何回も更新される人もいる
・現実と行動がリンクしてる武器を使うと適正が高い職業になりやすい。弓道部=弓、剣道部=剣、など。
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「俺は棒ばかり使っているから……棒術士?重い武器だから重撃戦士か?」
黒棒の感覚を思い浮かべ、手の中の重みを想像する。
現実で棒とか使ってないし、適性はないだろうけど、成り行きで職業が決まる方が面白そうだ。
不確実な未来に少しワクワクする。
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スキルに関して
・基本スキル:基礎的な技などの総称
・反復スキル:反復行動で取得
・閃きスキル:瞬間的な行動で習得
・進化スキル:運が良ければ取得
・固有スキル:運が良ければ取得
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「進化や固有とか気になるけど、確実に習得できる反復から揃えていくか!」
確実に手に入る努力に、少し安心する。
【跳躍】垂直跳びで習得
【瞬足】シャトルランで習得
【縮地】スキップで習得
【サイドステップ】反復横跳びで瞬間
「この4つをまずは、手に入れよう!」
アライグマに本を返してギルドへ向かう。
胸にわずかな高揚感を抱え、足取りは自然に軽くなる。
1章-4話② 反復スキルと謎の爺さん!?
---《狩人ギルド*ハジマリ支部》
「すいません〜」
「お待たせしました、ディスラナイトさん」
ギルド職員が小走りで近寄ってくる。
「トレーニングできる場所ってないですか?」
「ギルドの地下にトレーニングルームがありますよ。反復スキルの習得ですよね?」
「そうです!!」
「案内致しますね」
「あの……使用料は?」
「無料ですよ!」
「おお……神サービス!」
---《狩人ギルド*トレーニングルーム》
「けっこう、人、いるなぁ」
高校時代の部室の匂いがする。独特な臭さだけど――青春の匂い。 懐かしい雰囲気が胸の奥を温める。
空いてるスペースを見つけ、さっそくトレーニングを開始する。
ただひたすらに行う、反復行動は地味で辛いがゴールが見えてる分、頑張れる。
汗が額を伝い、集中する感覚だけが頭の中に残る。
2時間ほど反復行動をし、目標のスキルを習得する。息を切らしながらステータス画面をチェックする。
「…ハァハァ…全部習得したぞ…ハァハァ…」
【反復スキル】
【サイドステップ】習得
【跳躍】【瞬足】【縮地】習得
ベンチに座り身体を休め、次は、基本スキルの技で何か習得できないか、サンドバッグを相手に、考えながら打ち込み練習を始めると、唐突に爺さんが話しかけてきた。
「おい」
トレーニングを始めてから、ずっと視線は感じていたが、まさか話しかけてくるとは思わず、身を固くするディスラナイト。
「おい。ざこ♪」
「なんだよ!うるせーな!!」
煽り文句に力の限りサンドバッグを殴りつけながら応えてしまう。
「ふぉふぉふぉ♪お主は雑魚じゃろ?」
「ジジィ…雑魚かどうか分からせてやる!!模擬戦を受けろ!!」
模擬戦には立ち会い人が必要のため、近くにいたプレイヤーに声をかけて、ギルドの裏庭で模擬戦をすることになり裏庭へ向かう。
「お主は武器使ってよいぞ?その黒棒を使え。ふぉふぉふぉ♪」
「ボッコボコにしてる!!」
爺さんの余裕に気圧されながらも、燃える闘志が湧く。
---《狩人ギルド*裏庭》
「それでは模擬戦を開始する。互いどちらかがHP1になれば終了とする」
「始めえええ!!」
【縮地】ビュンッ――!!
開始と同時に間合いを一気に詰め、爺さんの背後を取る。
「後ろ頂き!!!」
爺さんは反応できてない!これで終わりだ!
【薙ぎ払い】ズバン!!――パシ!
「は?」
人差し指だけで止める爺さん。
あまりの反応速度に、頭が一瞬真っ白になる。
【打ち下ろし】ガンッ!!――パシ!
また…指1本で。こっちは全力だぞ。
「ふぉふぉふぉ♪荒々しい雑魚じゃなあ」
【指突】バッッコオオン――!!
人差し指で額をデコピンされ、ディスラナイトの体は宙を舞い、裏庭の端っこまで弾き飛ばれ、気絶をした。
「はっ!!もっかい!!」
すぐに意識を取り戻し、立ち上がろうとすると。
【指突】バッッコオオン――!
立ち会い人が吹っ飛ばされてきた。
「なんだあれ……あの爺さんやべぇな」
立ち会い人も恐怖で顔が強ばっている。
「爺さん。何者だ?」
「ふぉふぉふぉ♪ただのアンクじゃよ」
おいおい――。この強さがNPC?ありえねーだろ。とでもいうように、ディスラナイトと立ち会い人はお互いの顔を見合う。
「爺さん!!頼む!!どうすればそんなに強くなれる!?教えてくれ!」
1番早く強くなるには、今がチャンスであり、ここしかないと思った。
「俺も頼む!」
立ち会い人も同じことを感じたのか、同じように爺さんへ向かって叫ぶ。
「ふぉふぉふぉ♪」「「頼む!!」」
2人して土下座をする。 必死さが自然と形になった瞬間だった。
「基礎の“き”くらいは手ほどきしてやろうかのぅ」
「ありがてぇ!!!!」「感謝する!!!」
「お主らスキルはどう発動しとる?」
「どうって……頭で念じるというか、それを考えるというか」
「ふぉふぉふぉ♪雑魚じゃのお」
爺さんが小枝を拾う。
【打ち下ろし】スパァァァンッ――!!
爺さんが小枝を振るうと空気が炸裂し、地面まで響く衝撃に、2人の心臓が跳ねる。
「これがスキルじゃ。お主らのは、ただ振り回してるだけの雑魚じゃ」
これが本来のスキルの威力――。
「ヒントだけやろう。魔法使いはどうやって魔法を使うんじゃ?」
「魔法はそりゃMPを消費して――」「正解じゃ」
爺さんが口をはさむ。
「お主らは?どうやってスキルを発動するんじゃ?」
ステータス画面にはHPとMPしか表示されてない。
俺らは魔法使いではないからMPは使わないし。
「HP!生命力だ!」
立ち会い人は閃き顔で言う。
「違うのお~。ふぉふぉふぉ♪よう考えてみぃ」
(魔法使いはMPを使って魔法を使う)
(魔法はそもそもスキルだろ――なのにMPを使う――俺たちは使えない)
思考を巡らせるうちに何かが頭をよぎる。
「あ…先入観……MPを使う……のか」
「ふぉふぉふぉ♪理解したなら、さっきのようにスキルを使ってみよ」
【打ち下ろし】ズッバァァンッ――!!
空気が炸裂する。衝撃波が壁まで届き、思わず息をのむ。
立ち会い人もすぐさま剣を振り下ろす。
【振り下ろし】スパンッ――――!!
「「おいおいおい……」」
2人して驚く。感覚が全く違うことに、頭が追いつかない。
「スキルとはMPじゃ」
「MPを消費すればスキルは発動する」
爺さんが立ち去りながら話す。
「後はお主ら次第じゃ。ふぉふぉふぉ♪」
「なんかすげぇ不思議な爺さんだったな」
爺さんの背中を見送りながら会話をする2人。
「あ、俺はディスラナイト」
「俺はアルゲイド。よろしくな」
「立ち会いありがとな」
「いや、こちらこそ、良い機会をくれて感謝する」
互いに握手をし、フレンド登録を済ませ、いつかPT組む約束をした。心の中に小さな信頼と期待が芽生える。
「スキルの正しい使い方はわかったけど――」
まだ解決できてない事がある、行き詰まっている状況に空を見上げるしかない。
夕焼けに染まる空を見上げ、覚悟を新たにする瞬間だった。
やれることを――やれるだけやるしかない
だから今はひたすら、鍛錬だ。
--- 1章-4話②へ続く
---【毎週木曜21~22時頃更新!】
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