17話「ご褒美」
期末テストが終わり、校内にはどこか解放感と達成感が混ざった空気が漂っていた。俺、天城白狼は、テストの結果もそこそこ悪くなく、少しだけ胸をなでおろす。
「白狼、お疲れー!」
後ろからいつもの声。大吾が大声でやってきた。笑顔は相変わらずクラスのムードメーカーそのものだ。
「おう、大吾もお疲れ」
「テスト終わったら何する? やっぱり打ち上げだろ!」
「……俺は用事ある」
そう、俺には用事がある。というか、約束があった。
『テスト終わったら、白狼とカフェ行くんだから』
昨日、家で月猫にそう言われたんだ。家ではあんなに甘えん坊なのに、学校ではクールな彼女が、俺と二人きりでの約束を提案してくれるなんて、まだ信じられない気持ちだった。
「ま、いいや。俺はこれから用事あるから」
大吾は肩をすくめて笑い、「あー、羨ましいぜ。俺もカフェ行きてぇ!」と叫びながら去っていった。相変わらずうるさいやつだ。
校門を出ると、熊本市街地の下通を抜けて、俺たちは予約していたカフェへ向かう。月猫は普段通り、制服の上に薄手のカーディガンを羽織っていた。肩を少し寄せて歩く距離感は、自然と近くなる。
「今日は何を頼む?」
「……私は白狼が決めて」
「え?」
「甘いものは得意じゃないけど、白狼が選んだものなら試してみたい」
その言葉に胸がきゅっとなる。学校での冷静さは一体どこへやら。家で甘えるだけじゃない、外でも俺を信頼して任せてくれるんだ。
カフェに入ると、店内は木目調の落ち着いた雰囲気。窓際の席に案内されると、俺たちは並んで座った。肩は触れ合わない程度に近いけど、横並びになるだけで心臓が少し速くなる。
「おすすめはこれかな」
俺がメニューを指すと、月猫は少し首を傾げて、興味深そうに覗き込む。
「……ふむ。見た目もかわいいし、試してみる」
クールな表情で言うのに、目が少しだけ輝いているのがわかる。
注文を終え、待っている間も会話は弾んだ。学校ではほとんど見せない彼女の表情が、ここでは自然に出てくる。
「白狼、テストの出来はどうだった?」
「まあ、平均くらいかな」
「ふーん……じゃあ、少しは余裕あったんだね」
その言い方はクールだけど、微かに笑みが浮かんでいる。
「月猫は?」
「私は……もちろん、当然の結果」
その返答に、俺は思わず鼻で笑う。家で見せる弱さのかけらもない、完全なクールぶりだ。だけど、そんなギャップが余計に可愛く感じる。
注文したケーキとドリンクが運ばれてくる。月猫は小さく「わぁ」と呟き、スプーンを手に取った。
「どう?」
「……おいしい」
言葉少なに頷く姿も、やはりクール。でも、その口元にほんの少し笑みが浮かぶ瞬間が見えるだけで、俺の胸は熱くなる。
散策を続け、最後は小さな雑貨店でお土産を選ぶ。月猫は真剣な顔で小物を見比べ、時折こちらに「これ、どう思う?」と聞いてくる。クールなまま判断を求めるその姿も、微妙に柔らかく、心地いい距離感だ。
「もう少し歩こうか」
「……そうね」
夕陽が下通を染め、二人の影を長く伸ばす。肩は触れないけれど、並んで歩く時間が、自然と心の距離を縮めている。
「白狼、今日は楽しかったわ」
「うん」
月猫はクールな表情を崩さずに微笑む。その微笑みに、家で見せる甘えん坊の面も混ざっている気がする。
帰り道、街の明かりが灯り始める頃、俺は心の中で思った。
――家でも学校でも、外でも、月猫は俺にとって特別な存在だ。今日のご褒美カフェデートで、その距離は少しだけ縮まった気がする。
横に並ぶだけで、肩は近くても触れない。この絶妙な距離感が、今の俺たちには心地よく、そして大切な時間だった。




