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第四十八話 移住者問題

 第四十八話    移住者問題



 「ようこそ。 おかけください……」 小坂がブースに案内をすると、

 「すみません。 急に押しかけてしまいまして……」  女性が頭を下げる。



 「では、問診表をお書きください。 書き終わってからのカウンセリングになりますので」

 小坂が問診票を出すと、女性は静かに書き始めた。



 倉持くらもち 加奈かな 26歳のフリーライターである。



 「書きました」 倉持が声を出すと、

 「拝見します」 小坂が問診票を見て黙ってしまう。



 「どうされました?」 倉持が小坂を見ると、

 「すみません― 多分、ウチの久坂の方が分かりやすくなるかと……」

 そう言って、小坂は撫子の所に行って問診表を見せる。



 「確かに東京育ちの由奈じゃ、大変かもね。 私が入るね」

 撫子の了承を得ると


 「倉持様、すみません。 奥のブースでよろしいでしょうか?」 小坂が頭を下げて撫子のブースへ案内をする。



 「カウンセラーの久坂です。 小坂と久坂…… 似ていますが、久坂の方です」

 撫子は軽く笑いのジャブを入れながら話していく。


 「久坂先生ですね。 よろしくお願いいたします」 倉持が頭を下げる。 そこには暗い目をしている姿を撫子は見逃さなかった。


 「移住者問題ですね。 倉持様は、どちらから移住されたのですか?」


 「横浜です」 

 このようにして、一通りの質問を重ねていく。 撫子も聞き取りを済ませて、話の問題を聞いていくのだが……



 「私、地方に移住したくて……房総が三つ目なのです」

 倉持が話し出す。 過去には伊豆、熱海と移住をしたらしい。


 「どこも雰囲気が合わなかったのですか?」


 「なんか、いつまで経っても余所者扱いで…… なんか寂しくなって別の場所に引っ越してしまいました……」


 倉持が言うように、地方の奥の方への移住というのは難しいと聞く。 SNSなどでアップされている移住者は楽しそうにしているものが多く見られるが、全員が上手くいっている訳ではない。


 それは国内だけではなく、海外も同じだろう。 言葉の壁もあれば文化も違い、それを両方が完全に受け入れるまでにも時間が掛かるだろう。


 撫子も山口県の出身。 倉持の言葉には重みのある悩みであった。


 「先生は、どちらの出身なのですか?」 倉持が聞いてくるが、本来はカウンセラーが自分の事は話す事はない。


 しかし、 「私は山口県の出身なんです」 撫子は答えてしまった。 これは、撫子も房総に来た同じ移住者だからだ。



  “同類相哀れむ……” というものだ。


 「先生の実家の方は、どうですか?」 倉持の言葉に、撫子は息を飲んで

 「すごく閉鎖的な場所だと思います……」 言ってしまう。



 「どこも同じなのですね……」 

 「みんな閉鎖的だったと言うことですか?」 撫子が聞くと、


 「はい。 ここも同じじゃないですか……」 倉持は、ため息をつく。


 「私は、ここで開業して4年になろうとしています。 段々とクライアントさんも増えてきて、私には素敵な場所だと思うのですが……」


 撫子は、倉持の言葉に合わせずに会話を積み重ねていく。 ここで肯定しても、次々と移住先を変えるだけだと思ったからだ。



 数年前にコロナウイルスが蔓延し、在宅ワークが推奨された。 会社の近くに住もうと考え、都内などに住み始めるがコロナウイルスが蔓延すると都内などの大きな都市は毎日のように感染者を出した。



 そこで在宅ワークが推奨され、自宅でも出来ることを知った者たちは窮屈な都会を離れて地方へと引っ越していく。



 そこで自然に触れ、生き生きとした人たちがSNSなどでアップしていることで人気を博していったが……


 中には完全な地方暮らしをした者もいるが、そこでトラブルも起きている。


 それは “移住者問題 ”である。



 まず考えられるのが、『移住者と地元民の考え方の違いからくるトラブル』


 少子高齢化で地方の人口は減少している。 困った自治体は「移住者募集」を打って出ている。 そこに移住者がやってきて提案をしても、地元民からは昔から守られてきた慣習など守ることを優先してしまう為に対立が起こしてしまう。 これでは話し合いをしても平行線に終わってしまうだろう。


 これに対し移住者は、「ここの土地の者は頭が固い。 だから発展しないんだ!」などと言って土地柄のことを置き去りにしてしまう。


 これでは、双方が歩み寄ることなどできなくなってしまうのだ。


 特に地方に行けば高齢者の率が高く、移住者は若者が多い。 その年代のギャップも溝を深めてしまうのではないだろうか。



 地元民の考え方としても、『地元のスタイルが乱されるのに懸念がある』ということもある。


 長年、その地元で暮らしてきた者には “スタイルを変えるのには、脅威を感じる” というものである。


 人は誰しも新しいことに挑戦するには億劫でもあるし、躊躇いが出てしまう。 


 習慣とは簡単に変えられないものである。 隣の家に昔から住んでいる人にはフランクに挨拶が出来るものだが、反対隣の家に移住者がやってきたらどうだろうか? 


 きっと構えてしまい、なかなか挨拶が出来ないなんてこともあるだろう。 こうした習慣が窮屈になってしまう事が不満だったりもするだろう。



 『余所者に資源を取られるのが嫌』という人もいるだろう。

 空き家の利用や農地の取得など、地域の資源を移住者に使われるのにも懸念を示す者もいる。 「先祖代々、受け継できた資源を余所から来た者に奪われるのは我慢ならない」と、反発を起こす者もいるのは確かである。


 しかし、誰かが使わなければ荒れ地となり、痩せた土地になってくのは必然である。



 『一時的な滞在者だと思われることも』

 移住者の中にも、数年で他の土地に行く人も少なくない。 そのために地元民からも「どうせ出て行く人」と思われなくもないのだ。


 これを本気で根付こうとしている移住者には理不尽と感じてしまうだろう。 どうしても地元民からすれば「どうせ出て行くから」と言って、深い付き合いを避けられてしまうこともある。



 撫子は、房総に来た当時を思い出していく。

 (最初は相手にされなかったな……)



 「私は最初から田舎者だったもので、ここでの暮らしは不満などなかったのですが…… 仕事となると、最初は苦戦しましたね」 撫子が来た当初の事を話していくと


 「心理カウンセリングなんて、全国、いや世界でも注目されているじゃないですか」 倉持が驚いたように言うと、撫子と小坂は首を横に振る。



 「それは、倉持さんがお若いからですよ……」 撫子が苦笑いをする。



 「すみません、横から…… この前、久坂は「手相占い」と間違われていましたから……」 小坂がクスクスと笑う。 倉持は唖然とする。



 「はい…… この事務所の名前のせいでしょうか? てのひらを出されまして……」 


 「そんな……」 


 こうして移住者と地元民の関係性の話が終わると、

 「それは、私がいけないのでしょうか?」 倉持が聞くと、


 「それは、どちらがいけないと判断するのには無理がありますよ」 撫子が言い切る。


 「それは……?」


 「それは、お互いに主張があるからです。 変な話、人間だけではなく動物にだって縄張りとかありますし……」


 「あっ……」 倉持は声を出す。



 「まずは、倉持さんが地元を知ってみるのはどうでしょうか? 私だって4年程度しかいません。 もっと知りたいし、地元の人 全員の悩みを聞きたいんですよ」 撫子がニコッとすると


 「私が知ろうとする努力が足りなかったのですね。 住んでいれば、次第に慣れると思っていました……」 倉持は反省したようだ。



 「ただ……」 撫子が下を向くと 「ただ?」 倉持がキョトンとする。



 「ただ、無理矢理に入っていかなくてもいいかな……とも思うんですよね」

 今度は消極的な発言してしまう。


 「あれ?」


 「ほら、他人の土地というか……移住者が我が物顔して仲良くとか、適度な距離というか……」

 撫子の言葉が小さくなり、まるで独り言のようになっていく。


 「ちょっと、ナデシコ……」 雰囲気の違いを小坂が察する。



 これには訳があった。 撫子も特にこだわりが無く房総で開業してしまったからだ。 しかし、撫子は懸命に働き信頼を得てきただけで、大きなアドバイスが出来るものではなかった。


 「……」 倉持は、ただ撫子を見つめている。


 「すみません…… なにもアドバイスが出来なくて……」 撫子が頭を下げると


 「いいえ…… なんか分かった気がします」 倉持が微笑むと

 (えぇ? 分かるの?) 小坂は驚く。



 「ただ、言えるのはコレです」

 撫子が三つの訓示を言う。


 ・地域の事情を知ろうとしない。

 ・地元民とのコミュニケーションを避ける。

 ・上から目線で物を言う。


 「この三つを避けることです。 つまり、逆の事をすればいいと思います」

 撫子が三本の指を立てると、倉持は頷いた。



 「せっかくのフリーライターなんだから、地域の取材をしたらいいのよ」

 小坂がアドバイスをする。


 「由奈、それいいかも……地域を知れるし、コミュニケーションも取れる。 低姿勢で取材が出来るわけだしね♪」



 こうして倉持の表情が明るくなると、

 「では、手始めに『てのひら』の取材をさせてください」


 こうして取材が始まった。


 その後、ある雑誌の記事で『てのひら』が掲載されることになる。



 「あわわわわ…… 由奈、どうしよう……」 慌てる撫子に、小坂が苦笑いになる。


 「こんな宣伝、滅多にないわよ! これから頑張るわよ」 小坂が拳を上げると、


 「う、うん……」 何故か消極的な撫子がいた。

 「大丈夫よ! 自宅まで取材に来ないから」 小坂が笑うと、



 「それは、断固拒否するわよ。 あの部屋が公開されたら、私は外を歩けないわよ」


 こうして笑いまで出てくる『てのひら』であった。



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