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第四十七話 リテラシー

 第四十七話    リテラシー



 「ナデシコ~ どうして最近はテレビやSNSで謝罪することが多いんだろうね~」 小坂が撫子に聞くと、


 「周りが騒ぐから、仕方なしなんじゃないかな……」


 「そうか…… でも、誰に向けての謝罪なの?」

 「視聴者? スポンサーかね?」 

 日曜の昼、予約のなかった二人は小坂の部屋でゆっくりしていた。



 のんびりワイドショーを観ている二人は中年のようだった。


 「そういえば、謝罪だったりSNSで責めたりと世間が狭くなったような感じよね……」 これは小坂の言うとおりである。



 昔と言っても、昭和の頃は芸能界でもスポーツ選手でも破天荒な人が多く見受けられた。


 薬で逮捕されても、少ししたらテレビに出ていたりしても不思議ではなかったが


 「最近だと、テレビ局にまで連絡が来て『顔も見たくないから出すな!』って抗議するらしいわよ」 小坂がネットを見ながら解説をする。



 (なんだか窮屈な日本になってしまったのね……)


 昔なら、芸能人や政治家などの愛人報道があっても当然のように思えていた。 しかし、近年では謝罪報道やテレビ界から干されるなどの厳しい制裁を受けるようになっていく。


 そんな中、てのひらのホームページに一件の書き込みが目に入る。


 「なに?」 小坂が驚いた口調でホームページを見入る。

 「どうしたの? 由奈」


 「なんかホームページに悪口を書かれてる」 小坂が言うと、

 「どれどれ?」 撫子もホームページを開くと


 そこには『心理カウンセリングはインチキだ。 ここは詐欺』 という風に書かれていた。



 「ふむふむ……」 小坂がパソコンとスマホを使いスクリーンショットをしていく。


 「由奈、何をしているの?」 撫子がキョトンとすると

 「スクショして、犯人を通報してやろうと思ってね……」

 小坂は鼻歌を歌いながら、通報ボタンを押す。



 インターネットが当たり前の時代、そこには多くの人が気軽に見られるようになっている。 広告としても有効だが、誹謗中傷なども他者から見えてしまう側面も持ち合わせているのだ。


 それにより、イメージダウンも避けられないこともある。 撫子はアナログ人間だった為、ホームページは使っていなかった。 当然ながら誹謗中傷などにあうこともなく過ごしていたからピンと来ない顔をしている。



 「通報したから」 小坂が安心したように話すと、

 「そう……」 撫子は(いつ電話したんだろう……)と思っている。 それは、『通報=警察に電話する』というイメージだったからだ。



 始めたばかりのホームページに書かれたことにより、小坂は過敏になっていく。


 (またコイツ……) 小坂が他のカウンセリング事務所のホームページを覗くと、同じユーザーの書き込みを見つける。



 「こういう人って、どんな心境で書き込むんだろうね……?」

 撫子は不思議でならなかった。


 「きっと、影からコソコソとやるのが好きなのよ。 それで訴えられたら出廷もしないで…… 情けないわね」 小坂が不機嫌そうに話す。




 こうしてネットの世界で悪口を書いたりするのが増えている。 実際にSNSなどを使う者が増えたからだ。


 その中で、芸能人などが標的にされるパターンが多い。

 モデルなどが写真をアップすると、『お前は整形だ』 『身体を売って仕事も貰っている』 などと書いてあったりする。 中には『死んでしまえ』などと書かれていたりもする。


 「なんで、そんな事をするの?」 撫子が驚いた表情で聞くと

 「知らないわよ。 自分がうまく行ってないから八つ当たりなんじゃない?」


 そんな回答しか出来なかった。 それはそう。 小坂が誹謗中傷などを書いたことはないし、そんな心すら持ち合わせていないからだ。



 これを調べていく二人。 心理学の本を覗き込む。


 「まず、ネットでの炎上の理屈からだけど」 小坂がホワイトボードに書き込んでいる


 そこには炎上の理屈が書かれていく。

 【炎上は「情報」ではなく「感情」を伝播させる】 炎上が多いのは、投稿が「感情の共有装置」だからである。


 ある投稿を見たユーザーが「驚き」「怒り」「不快感」などを書き込んでしまうと、それを見た他のユーザーが刺激を受けて書き込んでしまう。 そして他のユーザーに伝染してしまう。


 心理学では、このように思考より感情が先に動き、集団で増幅してしまうことを emotional contagion『情動的伝染』と言う。



  炎上は『何が正しいか?』ではなく、『どの感情が優勢か』によって加速する傾向を持っている。


 撫子も学校で習っているが、ネットなどの分野には疎いために聞き逃していたようだ。


 「ヘ~ 初めて聞いたかも……」 


 「習っているわよ」 小坂が白い目で撫子を見る。



 【同調行動】 批判が広がっているうちは、「周りがそうしているから、自分も同じようにする」という同調行動が強く働いてしまう。 SNSなどは匿名性が高く、反対意見をしようものなら自分が攻撃されてもおかしくない。 この場の空気形成が早い為、「批判が多い場面では、自分も批判するほうが安全」という思考になっていく。



 つまり、“同調行動 ”とは、群れに属することで安心したいということでもあるのだ。


 「群れねぇ……」 撫子は地元を思い出している。 

 地方などは、その土地のルールが根強く残っている。 そこに反する者は村八分にされたり、陰口を言われたりしている。


 現代でいう「集団バイアス」(内集団バイアス)というものだろう。

 『内集団バイアス』は多くに知られているもので、自分が所属しているグループのメンバーを優遇して外部のグループを過小評価する傾向にある。


 これは昔からの傾向で、最近になって増えた訳でもない。 過去を遡ると、宗派、部落などの問題も多くあったからだ。


 この問題は、社会的アイデンティティー理論に基づいており、自分の集団に対する帰属意識を持つことで自尊心を保とうとしている。


 これが、同調行動の本質なのである。



 【人は、誰かに制裁を加えることで自分を肯定する】 結局のところ、正しい事を思っていても誰かに見てもらわなければ意味を持たないと思ってしまう人もいる。


 『モラル・アウトレイジ』である。 モラル・アウトレイジ=道徳的刺激



 ・自分は倫理的に優れている。

 ・自己価値の回復 ・ストレス発散 などが上げられる。


 このようにして、制裁している自分を肯定する力が働いてしまう。

 つまり、炎上とは「誰かを救うためではなく、自分を正しく感じたい」という欲が滲み出ているのだ。



 こういった、ネットで誰かを叩く社会にはなってほしくないものだ。

 誰かを傷つけての正義などは存在しない。


 『てのひら』のホームページに悪口を書き込んで、同調を求めたようだがリテラシーには欠けていたようである。

 ※リテラシー 読み書きや、その分野の能力。



 「そういう人は、CBTを勧めるわよね」 小坂はニコニコしている。

 CBT=行動認知療法


 【「感情」と「判断」を分ける】 私は今、何に怒っているんだろう……と一拍おいて考えてみる。 感情と言葉に間を作ることが大事である。



 【情報として「事実」と「解釈」を区別する】 ネットの情報は早い。 事実:確認可能な出来事。 解釈:自分の頭の中で作られた意味づけ。 炎上の多くは、解釈が拡散していることを知っておかなくてはならない。



 【自分が「どんな集団に属したいのか」を選びなおす】 同調行動は無意識に出来てしまうが、選択は意識的に出来る。 正しい方向へ進んでいくことを願うばかりだ。



 これらを知ったうえでのSNSなどを活用できたらと思う。

 「そんな人ばっかりじゃないか……」


 「そうね…… 心のリテラシーを持っていないとね」 小坂の言葉は、現代の心の闇の入り口を知ったようなものになっていく。


 そんな時、 “ピンポーン” チャイムが鳴ると、

 「こんにちは……」 一人の外来が入ってきた。


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