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第三十四話 社会との繋がり

 第三十四話    社会との繋がり



 近年、有給休暇の消化の義務や子育て支援の為の育児休暇なども見られるようになってきた。


 「由奈、知ってる? 年に5日は有休を取らないといけないんだって……」

 撫子は労務の手続きをしていて、始めて知ったようだ。



 「そうよ! 知らなかったの?」 小坂が驚く。


 「うん……」 

 撫子が会社登録をしたときには規則が無かった。 それから一人で仕事をしていた為、そんな事を気にする必要がなかったからだ。


 「実際、そんな相談を受けた事もなかったしね……」



 「一応、形だけでも作っておこうよ」 小坂が言うと、

 「形って……」 撫子は困っている。


 この仕事は完全な歩合になる。 どういう形にしていいか分からなかった。


 「それは後でいいか……これからWi-Fiも付けるんでしょ?」 

 「もうすぐ来るよ」 撫子が言った瞬間にやってくる。



 「ここ、チャイムが無いわね…… それと看板も」 後から足りなさに気づく。


 「ナデシコ、後は見ておくから外来よろしく」 小坂は新事務所の足りないものを見にいく。 撫子は飛び込みのクライアントに備えておく。



 そしてWi-Fiが通ると

 「ここから任せなさい!」 小坂は何やらパソコンを叩く。


 そして30分ほど掛けて撫子に見せる。


 「これでどう?」 小坂が見せたものは看板だった。

 「凄いじゃない」 撫子が大喜びで手を叩く。



 そしてFAX付きの複合機で印刷をすると、

 「おぉぉ……」 A3用紙を貼り合わせ、大きなポスターが完成する。



 「これを通りに向かって貼ると……ほらっ!」

 硝子窓に貼ったポスターは、通りからでも見栄えが良かった。



 「由奈、天才じゃない!」 撫子は小坂の頭を撫でる。

 「古代人の生き残りの撫子には思いつかなかったろうね」 小坂が爆笑している。


 段々と形になってきた『てのひら』に大きな花束が届く。


 「花? 誰から?」 小坂がのぞき込むと

 「八田先生……? それと川越さん」 二人から大きな花束が届けられた。



 「いい香り……飾りましょう」 

 二人は喜んで花を飾る。 これも撫子が頑張ってきた証でもある。



 「じゃ、一回帰って手配してくるね」 小坂が東京に戻っていく。



 「ごめんください」 入り口から声が聞こえると

 「はーい」 撫子は声を出し、向かう。


 そこには憔悴した女性が立っていた。


 「あの……お困りでしたらどうぞ」 撫子は自身のブースに案内する。



 この憔悴した女性は、 佐々木 加奈かな 28歳。

 東京から移住をしてきたと話している。



 「何かお困りでしたら……」 撫子が問診票を置くと

 佐々木は、自分に相談しているかのように書いていく。



 「書きました。よろしくお願いいたします」

 佐々木が頭を下げる。


 「あの、一応ですが料金説明を……」 撫子が言うと、

 「ホームページを見たのですが、違うのですか?」


 「いえ、まんまです―」


 (まさか、ホームページを見て来るとは……)

 撫子は文明の利器を感じていた。



 「では、始めます。 よろしくお願いいたします」 



 「あの……仕事をしているのですが、悩んでいて……」

 佐々木の悩みから始まる。



 「はい。 仕事の事で悩んでいらっしゃるのですね……」

 撫子が相槌を打って始まる。


 「仕事を辞めた時って、どんな思いでしたか?」

 佐々木が唐突に聞くと、撫子が驚く。


 「えっ? あの…… どういう事でしょうか?」


 「私、今の職場で悩んでいまして……」 佐々木は下を向きながら話し始めると、


 「退職を希望されているのですね?」


 「はい。 私が世間と合っていないのを実感していまして……」

 「世間と合わないというのは、どんな事でしょうか?」

 撫子が佐々木の様子を覗きこむと



 それは社会の繋がりのことであった。

 会社のルールや近所づきあいなど多岐に渡る関わりについて困っている様子であり



 そこには困った顔をしている撫子の姿があった。

 「社会の風習って消えないですよね……」


 それは同調圧力というものである。

 撫子の地元では古き慣習というものがあり、有名な地域では多く残っている。



 個人時代と言われるようになった昨今、それでも日本には多く染みついたものがある。



 例えば有給休暇の取得制度がある。

 平成までは「有休を取りたい」という書類を提出すると、白い目で見られたものである。



 しかし、令和に入ってからは年に5日の有休休暇を取らないといけない。

 国から会社にペナルティーが課される事になったからだ。


 「それで、形だけの有給休暇の取得をさせられている訳ですね……」

 撫子がため息をつくと、佐々木は黙って頷く。


 「しかし、これはカウンセラーではなく労基に行くべきでは?」

 ※労基―労働基準監督署である。


 「そうなのですが、多くの方が働いているので……」

 佐々木は肩を落とす。


 これは日本人なら経験することがあるだろう。


 「こんなの常識」 「みんなそうだから」 こういう言葉で人を縛りつけることである。


 また、それに抵抗するような言葉を発すれば

 「アイツは性格が悪い」 「常識が分かっていない」などの言葉を浴びせられるか、陰口を言われるようになる。



 これは撫子も経験していた。 例えば自治体である。

 自治会費を払わないならゴミ出しが出来ないといったルールである。


 ゴミを収集するのは市区町村の仕事である。 しかし自治体が禁止をしてしまうのは何故なんだろう……と思ってしまうほどだ。


 しかし、古くからいる住人の決まりのようなものがあり、自然とそのようになってしまっている。


 ただ、日本人らしいと言えば日本人らしい。

 秩序や社会統制といったものを重んじることも大事だからだ。



 昔の日本……それは殿様がいた時代。 そこの土地には城があり、殿様が存在していた。


 年貢の率やふれがきなどで、その土地のルールなどが決められていた。


 また、殿様が替わるとルールも変わり庶民は混乱していたりもする。

 そこで周りが注意したりと、社会統制が保たれていたものである。



 近年、ルールを守らない外国人などのニュースをテレビなどで放送したりしている。


 これもメディアを使った同調圧力なのであろう。

 撫子が深く考え込んでしまうと、

 「すみません……変な相談をして」 佐々木は落ち込んでしまう。



 「いいえ。 これから私もそういう場面が起きてしまうかもしれませんので……」

 撫子は考える。 「どうやって佐々木さんが元気になれるんだろう……」



 それは単に有給を取らせれば良いという話ではない。

 (この時点で心は疲弊している…… その職場を辞めればいい。 なんて簡単に言える訳ないしな……)


 「佐々木さん、これは同調圧力というものですね。 「世間がこうだから」とか「みんながそうしているから」と言うような事が世の中には沢山あります。 これらに納得いかない人もいますし、そして気を病む人も少なくありません……」


 撫子が前置きを説明すると、佐々木は肩を落とす。


 「佐々木さん?」 撫子が声を掛けると、

 「……」 佐々木は黙ってしまう。


 撫子は、佐々木が顔を上げるまで待っていた。

 下を向くこと5分。 ようやく佐々木が顔を上げる。


 「これは日本中、どこも同じなのでしょうか?」

 この言葉に撫子は言葉を探している。



 「おそらくは……」


 佐々木は深くため息をつくと、撫子が現状を話す。

 「これは職場だけの問題ではありません。 学校や住まいでも同調圧力があります。 また、世界中でも起こっているものなのです」



 「世界中でもですか?」 佐々木が顔をあげる。


 「例えば、学校でも浮いている人がいませんでしたか? 少し変わっている子とか……」


 「いましたね……」


 「佐々木さんは、その子に何をしましたか?」 撫子は心の中に問いかけるように話すと、


 「私は……何もせずに遠くから見ていました。 何も文句を言うとか、イジメとかには参加しなかったのですが声を掛けたりとかもしませんでした」


 「そうですね。 それが同調圧力なのです」

 撫子が説明すると、佐々木は不思議そうな顔をする。



 「もし、その浮いている人に話しかけたり同調したら佐々木さんはどうなっていました?」


 「私も浮いていく……」


 「そうですね。 きっと、佐々木さんも遠くから見られる存在になっていたかと思います。 そうなるのが嫌で、遠くから見つめて距離を取ってしまうのが同調圧力なのです」


 撫子が説明すると、佐々木は何かを思いだしたような顔をする。



 過去にもこんな言葉がある。

 『村八分』という言葉だ。 小さな村でも暗黙のルールがあり、それに違反や逸れた行動をする者には誰もが構わなくなっていく。



 これは村だけではなく、宗教観でもあったりするわけだ。

 しかし、これらは社会統制をおこなう上で重要だったりもする。


 それは『調和』という言葉である。

 日本という国は世界と比べて小さい国である。 その小さい国を守ろうとするのが心であり、『団結』というものだった。


 それが今でも使われる言葉『一致団結』というものである。


 撫子が話していくと、佐々木の顔は複雑そうになっていく。



 「先生……これから私、どうすれば?」

 「そうですね。 これは佐々木さん次第なのですが……佐々木さんが、どうありたいのか?……になっていくのだと思います」



 「私が……ですか?」 佐々木が驚いたような顔をする。


 「はい。 相談に来られたのが佐々木さんですし、私は佐々木さんと向き合って話していますので……」


 「……」 佐々木は黙ってしまう。


 これも撫子には珍しいことではない。

 (目的や手段がゴチャゴチャになっている……)


 この日、佐々木の答えは出ずに帰っていく。


 (きっと、不満をどの形でもいいから吐き出したかったんだろうな……)

 そう撫子は思い、ファイルを整理していくのであった。



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