第三十二話 覚悟を持って(下)
第三十二話 覚悟を持って(下)
“コンコン……” 小坂が宗孝の部屋をノックすると、
ガチャ― 「はい」 凄い早さでドアが開いた。
「ビックリした~ 宗孝さんですか?」 「はい」
「今回、大学病院からカウンセリングの依頼を受けました小坂と久坂です」
二人は頭を下げる。
「はぁ……それで、どういったものでしょうか?」
宗孝が驚いたような反応を見せると
「前回受診されて、うつ病として診断されていますよね? その時のお薬の事を聞きたいのですが、お部屋に入ってよろしいでしょうか?」
小坂の言葉を聞き、撫子は違和感を持った。
(普段は呼吸を合わせているのに、随分と前のめりだな……)
「どうぞ」 宗孝は部屋に通す。
「二人で押しかけて申し訳ありません。 今回は病気として診断されていましたが、引き継いだ医師の判断で病気ではないのではないかと思って来ました」
小坂は包み隠さず話す。
「そうなのですね……しかし、前の人と違いますね。 雰囲気が……」
「はい。 それも理由がありまして、宗孝さんが迷わないように正面から話そうと思いまして……」 小坂が直球勝負をかけている。
「それはどうしてですか?」 宗孝が驚いていると
「それは、宗孝さんが考えすぎて疲れてしまう傾向にあると思っています。 これは、私たちは気質だと思っているのです」 小坂は真っ直ぐに宗孝を見ると
「わかりました。 私も自分自身に疲れていたんです……それに、ここまでハッキリと言ってくれると 勘ぐったり、悩まなくて助かります……」
宗孝は小さく笑みを出す。
(よかった……由奈って、凄いヤツかも……)
「宗孝さんが そう言うと思って正面から切り出して良かったです。 宗孝さんはリラックスをしてくださいね」
小坂が微笑むと、宗孝は大きく深呼吸をする。
(きた……宗孝さんの警戒心がない。 由奈、お見事……)
「ここで何故、二人かを説明しますと、私は気質を見ていきます。 そして彼女は病気のサインを確認していきます。 これからのお話で解決に向けられたら……と思っています」
リラックスしている分、落ち着いた表情で聞いている宗孝。
カウンセリングは、ここから始まっていく。
「まず、困ったな~と思った事ってあります? 仕事でもプライベートでも構いませんが……」 早速、小坂が切り込むと
「そうですね……仕事では考えすぎて『仕事が遅い』などと、よく言われていました……」
「でも、完璧にこなす訳ですよね?」
「それでも時間が掛かり過ぎるとか……」
そのまま会話が続く。 そこからは宗孝が困った事のオンパレードになってしまう。
メモをしながら書いていくが、撫子の該当するものが出てこない。
完全に小坂の担当である『気質』となってしまう。
(でも本当に、これでいいのか?) 小坂が、さらに深く切り込む。
「宗孝さん、睡眠はいかがですか? 十分に眠れていますか?」
ここで撫子が質問する。
「仕事を辞めてからは眠れています」
「眠る時にイヤホンなどをしますか?」 「いいえ」
小坂はピンとくる。
そして撫子は宗孝の本棚に注目していく。
「宗孝さん、このような哲学書を読んだりするのですね~。 私には奥が深すぎて……」
「それは、落ち着くんですよ……深く考えたりできるので……」
そして宗孝が説明をしている瞬間、わざと小坂がペンを落とす。
“カンッ ” という甲高い音が部屋に響くと、
“ビクッ―” 宗孝が肩をすくめる。
(この音の反応は……)
撫子と小坂は目を合わせる。 そして小さく頷くと、
「宗孝さんが現在服用しているお薬を見せて貰って宜しいでしょうか?」
小坂が言うと、宗孝が机の上にある薬を取る。
そして小坂が撫子から距離を取る為に移動すると、
「どうかしましたか?」 宗孝は小坂が動いた事が気になったようだ。
「いいえ、お薬を拝見します」 小坂が内容をメモする。
すると撫子が横歩きで移動すると、
「……」 宗孝が撫子に目を向ける。
「ありがとうございます♪ 宗孝さん、一緒に病院へ行きましょう」
小坂が提案すると、
「また病院ですか? もう診断をされて薬も処方されているんですよ?」
宗孝は不機嫌そうな顔をし始める。
「はい。 その事なのですが……」 小坂は丁寧に再診の依頼をお願いする。
医師が変わった事、そして
「うつ病じゃない?」 宗孝が目を丸くする。
「私たちはカウンセラーですので、診断名を言うことは出来ません……ただ、限りなくHSPに近いと思っているのです……」
「HSP?」
「はい。 HSPとは、ハイリー センシティブ パーソンと言って
「非常に繊細な人」「非常に感受性が強く、敏感な気質を持った人」という意味であり、病気ではないと思うのです……」
小坂が丁寧に説明をすると、宗孝は黙ってしまう。
「これは、先ほど言いましたが『気質』という事を話しましたが、結構、多くの方がいます。 『俺に限って……』とか、ネガティブに考えないでください」
小坂が説明をしていくと、宗孝の表情が曇っていく。
やはりHSPなのだろうと撫子と小坂は思ってしまった。
「それに……」 小坂が言いかけて途中で止めてしまう。 それは、宗孝が自分の世界へ入ってしまい、聞く耳を持っていなかったからだ。
(ふぅ……向かせるか)
小坂が両手を広げ、『パンッ―』と手を叩く。
『ビクッ』とした宗孝は、目を丸くして小坂を見ると
「ほら……だからネガティブにならない」 小坂が友人と話すような口調に変わる。
「あ、あぁ……」 宗孝は、驚いたように小坂の言葉に相槌を打った。
「これだから敏感さんで、几帳面さんは……」 小坂が息を漏らすと、
「由奈……」 撫子が苦笑いをする。
「あのね、宗孝さん……それくらいの几帳面さんは貴重なのですよ! 部屋も、こんなに綺麗にして……少し、ウチの代表に見習わせたいですよ!」
小坂の言葉に撫子がビクッとして、
「ちょっと由奈……」
それを聞いて宗孝が二人を交互に見る。
「あ、あの……私にはお構いなく……」 撫子の身がすくんでしまうと、
「ウチの代表なんか、こんな綺麗な部屋にも出来ないし、宗孝さんの繊細さも持ち合わせていませんからね!」
小坂の言葉が効いたのか、宗孝が笑い出す。
「そんなこと、ありませんよね……ははは」 宗孝は笑っている。
「あわわわ……お恥ずかしい……」 撫子が赤面していると、
「それくらいがいいかもしれませんね……それで、いつ病院へ行けばいいですか?」
宗孝が言うと、二人はホッとする。
「すぐ、予約を取りますね」 小坂が大学病院へ連絡をする。
これでカウンセリングが終了する。
「お疲れ~」 小坂が撫子に声を掛けると、
「由奈、立派だったけど……なんで私を引き合いに出したのよ~?」
撫子が膨れた様子でいうと、
「あれは神経が細かい人だから、目の前に答えがあると納得するのよ。 もし、遠くの人や、例え話をしても余計に考えこんじゃうしね……」
(しっかりHSPを理解しての行動だったんだ……凄いよ、由奈)
それから一週間が経ち、宗孝は八田の診察を受ける。
「安井さん、前の医師からのカルテを白紙にさせてください……そしてイチから安心して過ごせるようにしていきましょう」
八田が言うと、宗孝は笑顔になり
「よろしくお願いいたします」 頭を下げるが、
「これから宜しくが出来ないんだ……」 八田が切り返したように言うと
「??」 宗孝が困惑した表情になる。
「これは久坂さんや、小坂さんが説明したと思うのだけど……病気じゃないんだ」 八田が説明をする。
「はぁ……」
「コレ、久坂さんと小坂さんが経営しているカウンセリング事務所。 本当なら病院でもカウンセリングは出来るけど、安心な方で予約するといいよ」
これを聞くと、宗孝はパニック寸前の表情になる。
「そういう顔も久坂さんから聞いているよ。 実は彼女たちは非常勤でお願いしたんだよ。 安井さんの為に……」
それから八田は撫子たちの事を細かく説明をする。 そうしないと宗孝が悩んでしまうからだ。
それから宗孝は『てのひら』に通うようになっていく。
「では、これから宗孝さんには鈍感力を身につけてもらいます! 講師は久坂 撫子先生です!」
小坂が撫子を紹介すると、不本意そうな顔をして撫子が頭を下げる。
「ようこそ『てのひら』へ…… 不本意ながらやっていきますので……」
宗孝が嬉しそうな表情をすると、
(なんでニコニコしているのよ? これじゃ、私がダメな女として認められちゃうじゃない……)
ここから宗孝のカウンセリングが始まる。
HSPにはトレーニングが必要となり、それには3つの方法を用意する。
・自分を客観視する。 これは自分の生きづらさや困難な事を紙に書く。 そして、どのような時にリラックスが出来ているのかを書いていく。 こうして自分はこうなんだと知っていく事をする。
・外の環境の刺激から上手に和らげる。 HSPの人は外の環境からの刺激を過剰に受けやすい。 光に敏感ならサングラスを。 音が苦手ならイヤホンなどを使用するのも良い。 そして自分の中でルールを作り、自分を守っていくことが重要となる。
・緊張しにくい環境に身を置く。 HSPの人は感受性が強い為、『失敗したらどうしよう』『周りの人にどう思われているか気になる』など様々な事を考えてしまう。 そういうプレッシャーの無い環境を探し出す事が必要になる。
そこで、まず最初である『自分を知る』ことから始めることにする。
てのひらでトレーニングをするのだが、病院とも連携はする。
HSPとは病気ではないが、重度の場合は障害としても対応が出来るからだ。
先天性であれば、発達障害としても扱われるケースもある。 それもあり八田の意見なども取り入れていく。
「ナデシコの部屋を見せれば一発で治るかも……」
「過敏な人にみせたら失神するわよ……」
そんな『てのひら』は楽しく?営業していくのであった。




