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第三十一話 覚悟を持って(上)

 第三十一話    覚悟を持って(上)



 「おはよう♪」 撫子が目覚めると、小坂は朝食を作っている。


 「おはよう♪ ナデシコ。 はい、コーヒー」 小坂がテーブルにコーヒーを置くと、


 「どうしたの? いつもなら遅くに起きるのに……」 ナデシコは寝起きにもかかわらず、目を丸くする。


 「いや~ 社長より遅く起きるなんてダメでしょう?」 小坂が笑いながら言うが、


 「いつまで続くやら…… コーヒーありがとう♪」 ナデシコは洗面台に向かう。


 そして二人は職場に向かう。 撫子はカウンセリングを小坂に任せ、インターネットで物件を探す。


 “ピンポーン” 本日の予約である。

 「はーい」 小坂が玄関を開けると、予約は八田だった。


 「おはようございます 八田先生」 小坂が笑顔で挨拶をすると、

 「あれ? 久坂さんは?」 八田がキョロキョロする。


 「社長なら物件を探しています」


 「社長?」 八田は目を丸くする。


 「はい。 私も『てのひら』に入れてもらいました♪」

 「そうなんだね。 じゃ、これから僕のメンテナンスもお願いするよ」

 八田は笑顔でカウンセリング室に入る。


 「あ、おはようございます」 撫子は慌てた様子で挨拶をすると、

 「物件探し? この辺、ある?」


 「なんとか見つかるかな…… 値段との交渉になりそうです」

 撫子は物件探しを中止し、キッチンに向かう。


 「これからガンガン働かないと、給料が出ないのでお願いします……」

 小坂が頭を下げると、八田は笑顔で応える。



 「コーヒーです」 撫子は3つのコーヒーをテーブルの上に置く。


 「ちょうど良かったかな…… 移転祝いになればと思って、クライアントの案件を持ってきたよ」 八田がメモ用紙を取り出す。



 (なんか重そうな話だな……) 撫子の嫌な予感が走る。


 そして、見事に予感が的中する。 しっかり病院案件だった。

 撫子がメモを見ると、

 「これって、出張案件ですか?」


 「正解。 他の医師が往診をしていたんだけど、僕が引き継ぐんだ。 それからカウンセリングを頼むよ」


 八田は月2回。訪問診療をしている。 自宅から出られない患者であり、カウンセラーを派遣できないことから『てのひら』に依頼をすることになった。


 「これは医療保険適用だから、『てのひら』の請求を組む形なんだけど……できる?」


 「うち、やっていないんですよね……」

 「わかった。 じゃ、二人とも病院の非常勤で登録しておくね」

 八田の強引なやり方で決まってしまう。


 撫子は仁科の件で登録済みであったので、小坂を追加することとなる。



 数日後、八田から電話が入る。

 「はい 久坂です…… わかりました。 向かいます」


 撫子と小坂は支度をする。 この日は予約が無い為、二人で向かうことになった。


 小坂は大学病院で勤めていた為、患者という括りには強い。 指示書もあるので安心である。


 撫子は職場の代表として様子見として付き添う。 また、解決策の嗅覚に長けているし、この二人なら問題なく出来ると八田が推している。



 “ピンポーン” 小坂がチャイムを押す。


 「初めまして。 大学病院からのカウンセラーとしてきました小坂と久坂です」 二人は頭を下げる。



 「わざわざ、ありがとうございます。 さっ どうぞ」

 中に入れてくれたのが患者の母親である、 安井やすい 聡子さとこである。


 患者の名前は 安井 宗孝むねたか 48歳。


 「まず、お母様からお聞きします。 ここにカルテや指示書があるのですが、聡子様からもお聞きしたくて……」



 小坂が主導で始まる。 撫子は横でメモを取っていく。


 「宗孝が40歳くらいだったか……」 母親の聡子が話し出す。


 宗孝は神経が細かく、よく気の利く人だった。 会社でも優秀で出世が早く、将来を望まれていた。


 しかし、宗孝が転勤を機に落ち込む姿が度々あった。 母の聡子が心配になっていた頃から会社に通えなくなっている。


 そして,病院に診察を受けてから余計に外に出られなくなったそうだ。



 病院からは最初は『うつ病』、後に『HSP』という診断だった。


 HSPとは、Highly Sensitive Person (ハイリー センシティブ パーソン)

 これは「非常に繊細な人」「非常に感受性が強く、敏感な気質を持った人」という意味であり、疾患ではない。



 しかし、長年の引きこもり生活から「うつ病」と診断をされている。

 HSPとは気質であり、うつ病は病気である。


 最初の診断で「うつ病」と診断をしてしまい、治療という名目で往診を続けていたのだ。


 八田からの依頼は病気か否かの判断と、「うつ病」と「HSP」の両面でのアプローチを掛ける指示書であった。



 (これは厳しいぞ……アプローチを掛けて、色濃く出る方を探るのか……)

 撫子がチラッと小坂を見る。


 小坂は黙って指で紙をなぞり、確認している。


 「会いますか?」 聡子が言うと、撫子は頷き立ち上がろうとすると、

 「ちょっと待ってください」 小坂がストップをかける。


 「傾向や状況を聞きましたが、もう少し情報をもらえませんか?」

 小坂は慎重に進めたがっている。 撫子は椅子に座り直した。


 それから聡子は、宗孝の近況や生活などを詳しく話していく。



 (さすが病院が長いだけある。 指示書の通り、気質なのか病気なのかを確認している……今回は、私が早計だった)


 撫子は、優秀な相棒に主導を任せることにする。



 HSPの主な特徴は、感受性が高く、環境刺激に敏感に反応する人である。

 その分、感情や環境刺激を強く受けてしまう特性があるのだ。


 共感力が高い。 細部に気づく。 洞察力も高い為、刺激による過負荷が掛かってきやすい。


 そんな感受性が強い人のところへ安易に面談をしてしまったら余計な刺激を与えてしまう。 撫子たちは情報の整理をおこなう事を優先させる。



 「宗孝さんは、お母様から見て どんな方でしたか?」 小坂は宗孝の過去から読み取り始める。


 「そうですね……勉強は好きでしたよ。 なんか学校の教科書以外の本もよく読んでいました……人見知りだったので、相手の気に障らないようにしていましたかしら……」


 この話を聞いて、「HSP」と「うつ病」の関係性を整理していく。

 HSPにはDOSEダズという4つの特徴を示している。


 Depth of processing 考え方が複雑。 深く処理をする。


 Overstimulation 過剰に刺激を受けやすい。 敏感で疲れやすい。


 Emotional response and empathy 全体に感情の反応が強く、共感力が強い。


 Sensitivity to subtleties 些細な刺激を察知する。あらゆる感覚が鋭い。


 このように4つの特徴があり、これらの1つでも当てはまらない場合はHSPではないと言われている。



 例えば3つが当てはまるとすれば、それは『内向的な性格』とも言えてしまう。


 これらを詳しく調べることで『HSP』か『うつ病』を判断しなくてはならない。


 八田は詳しく調べたい為に、その情報を撫子たちに依頼をしたのである。



 小坂が、さらに詳しく聞いていく。

 母の聡子は、知っている限りを話していくと、


 (これは疑わざる得ないな……) 撫子も聞き取り、今後のアプローチを考えていく。



 ここからはHSPの特長になっていく。


 ・人混みが苦手であり、大きな音にも反応してしまう。 

 ・幼少期など、友達と元気よく遊ぶが、家に帰ると疲労感が凄い。

 ・映画や本などを見て感情移入し、涙を流したりすることが多い。

 ・人の些細な言動に傷つき、忘れられなかったりする。

 これら些細な事に過剰に反応してしまうことがある。



 (しっかり、カウンセリングを受けてくれるかしら……)


 過剰に反応して、些細な言葉で嫌がられるのを恐れてしまう撫子だが、小坂は意気揚々としている。


 (なんか由奈が大きく見える……)


 「もしかして、宗孝さんは物事の取りかかりに時間が掛かったりしますか?」

 小坂が聡子に踏み込んでいく。


 「えぇ、何かを考えてから行動する子だったわ……」 


 「では、動物は好きだったでしょうか?」

 「何か話しかけていたわね……気持ちを読み取ったかのように撫でたりしていたわ」


 小坂は、満足したかのように笑顔になる。



 「こんなので、何が分かるのかしら……」 聡子は不思議そうな顔をすると、


 「これは心理カウンセリングと言って、普段の何気ない言葉や行動から人となりを形成させていくのです。 こうして病気なのか個性なのかを判断していくのです」


 撫子が説明をするが、当然ながら簡単には納得出来ないものである。

 見えない物や形の無い物を説明するのは聞く方も大変なので、ここまでとしていく。


 「あら、もうこんな時間……聡子様、色々と情報をありがとうございました。 また教えてください」


 小坂が頭を下げると聡子も頭を下げる。



 本人とのカウンセリングをしていないが、時間は守らなくてはいけない。

 聡子自身もヒアリングに集中できる時間の限界だからだ。


 本人ともなれば時間を忘れて話しもできるが、他者の事を話すのにも集中力の限界がある。 投げやりに話されても困るからだ。



 撫子たちは事務所に戻る。


 小坂は資料に目を通し、HSPの確認をしていく。


 撫子は二つのコーヒーを淹れてスマホで物件を探していく。



 「ズズズ……あちっ―」 

 「ナデシコ~ 静かに飲んで~」




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