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第二十八話 ミドルな感情

 第二十八話    ミドルな感情



 団塊の世代と言われてきた方たちは第一次ベビーブームと言われ、その時代に子供を産んだ第二次ベビーブームと言われる世代の方たちは50歳を越えてきている。


 後に日本では少子化が進み、人口の減少傾向が著しい。



 撫子も独身であり、30歳まで目前となっている。 これが日本社会の現実なのであろう。


 そんな事がニュースや政治の問題でも取り上げてられている。



 それを見た撫子は、

 「私だけではない! 由奈や緑も独身だ!」 と、テレビに主張していた。



 この日、予約が入っていた。 紹介である。


 先日の仕事用の電話に着信があり、 「先生、友人でカウンセリングをお願いしたいのですが……」と、坂下 優実からであった。


 「わかりました」 撫子が了解し、クライアントを待っている。



  “ピンポーン” チャイムが鳴ると、撫子が玄関に向かう。


 「はじめまして。 あの……坂下からの紹介できました、吉野といいます」

 「お待ちしておりました。 どうぞ」 撫子はカウンセリング室に案内する。



 「では、問診票にご記入をおねがいします」 撫子は書き終えるまで待機する。



 5分後、 「出来ました」 吉野の声がする。


 吉野よしの 留美子るみこ  54歳。 二人の子供がいる主婦である。



 「では、はじめさせていただきます。 久坂です」 二人で頭を下げる。



 「今回は、ご相談でよろしいですね?」 「はい」


 吉野は二人の子供を持ちながらのキャリアウーマンであるが、ここ最近では心の不調が顕著に出ているとのこと。


 「お子様は社会人なのですね?」 撫子が聞くと、

 「はい。 年子で二人ともが社会人になっています」



 「ありがとうございます。 心の不調とお聞きしましたが、どのような感覚でいらっしゃいますか?」 ここにも撫子ならではの言葉が入る。


 普通なら「どのような状態」と聞く。 具体的に聞きたがるものだが、ここでは「どのような感覚ですか?」と聞いている。


 これは言葉では言いづらい、または表せない感覚を含めての聞き方である。

 つまり、抽象的に聞いてから的を絞っていく話し方になる。


 「ため息ばかりで、仕事も身に入らずに家事も進まなかったりで……」 吉野の言葉だけを切り取ってしまえば、うつ病や適応障害を疑ってしまう。


 (まだ情報が欲しい……どこかに岐路がある) 撫子は、次の話を待っている。



 「吉野さん、病院には行かれましたか?」 撫子が切り出すと、

 「いえ、どこも悪くないので……」 吉野が答える。


 「例えば、婦人科とか……」 

 「もしかして、更年期障害……」 吉野がピンと来たようだ。


 「可能性のひとつとして聞きました。 その年代だと気づかない場合が多いのです。 吉野さんの場合、お仕事をバリバリされていて気づかずにドンと来る方もいらっしゃるのです」


 「なるほど……それで解決できるかしら……」

 「わかりません……体調、仮に更年期だとして、他のことと併発することがあるのです」 撫子が言うと、吉野は首を傾げる。



 「それは、どんな事が?」


 「50代の、それも女性はライフステージの変化が出てくるからです。 もちろん更年期障害であれば身体的に無理が掛かってきます。 それと同時に自身や環境の変化が出てくると言われています」 


 「確かに……変化ね……」 吉野は頬に手を当て考える。


 「私は勉強でしか言えません。 実際に、まだ達していないですから」と、前置きして話を進める。


 更年期障害: 女性ホルモンは40代後半から急激に減少し、主な症状のホットフラッシュや冷え、疲れやすさが出てくる。 その他にも焦り、不安、怒り、憂鬱などの症状もある。



 50代の4割が症状を訴えるも、その1割程度しか病院に行ってないとの報告もある。 本来なら治療が必要とも言われている。


 そんな心身の衰えを感じて塞ぎ込んでしまうこともあり、ある海外の学者からは 『第二の思春期』とも呼ばれている。


 ライフステージの変化が激しいのが40代から50代であり、心に葛藤が生じてしまうことを 『ミッドライフ・クライシス』とも言われるのだ。

 日本語では『中年の危機』となっている。



 近年ではSNSなどもあり、同年代の投稿により自身と比べてしまい憂鬱になってしまう女性も多いと言われている。


 それがミッドライフ・クライシスに拍車を掛けてしまっているのではないだろうか。

 また、子供が育って家を出てしまい、消失感などもあることから 『空の巣症候群』と言われるものも存在する。


 40代から50代の女性は自身や環境に振り回されてしまう人が多いのである。


 撫子が学校で習った事や経験の話をすると、「凄いのね……私自身が今、経験している事を習うのね……」と、吉野は驚いている。


 「中にはいらっしゃいますので……」


 「きっと、私もそうなんだわ……」 吉野が肩を落とす。

 「吉野さんは、お子さんが巣立ってからは趣味とかなさらないのですか?」


 「子育てが中心だったからね~」 苦笑いを見せると、

 「よかったら趣味などを見つけてはいかがですか?」 撫子が提案をする。



 「今から見つけるの??」 吉野は驚くが

 「私がお奨めするのは『新しい自分の定義付け』なのです」


 「定義付け?」


 「はい。 『これからの私はこうなんだ!』という定義付けなのです。 もちろん、お仕事をバリバリされているので無理の無い程度ですが……」

 撫子の提案に、しばらく吉野は考え込む。



 (そんな簡単には頷けないよな……) 撫子は黙って吉野を見つめていた。


 すると、「じゃ、久坂先生に意欲が出るようにしてもらおうかしら……」 吉野が笑顔を見せると、


 「はい。 その為の『てのひら』ですから」 撫子は満面の笑みを見せる。



 その後、吉野は週に2回ほどの面談をする。

 今までの苦労話から、現在の心境などを細かく話していった。


 ある日、 「ここに来るのが生き甲斐みたくなったわ♪」 こんな言葉が出てきた。 


 「ありがとうございます♪ 良い笑顔を見られて、私も嬉しいです」 撫子も吉野の笑顔が増えて嬉しかった。


 「実はね、同年代の友達が居るのだけど楽しめなかったのよ……」 吉野は寂しそうな目で話す。


 それは、孤独感や焦燥感なのであろう……


 いくら仲が良くても生活を共感できないし、仮に家でパートナーと話していても分かってもらえないこともある。


 そんな悩みを抱えた吉野が、撫子と出会って笑えるようになっていた。



 そして吉野には、新しい目標が出来たようでカウンセリングで言いに来ている。


 「久坂先生……私、新しい目標を見つけたの♪ これっ」

 吉野がカバンから本を取り出す。


 それは心理カウンセラー入門の本であった。


 「読んでいると楽しいのね♪ 私もやりたいわ~」 吉野が、はしゃいでいると


 (頼むから近くで開業とかしないでくれよ……) そう思う撫子であった。




 翌日、坂下 優実のカウンセリング。


 「吉野さん、通ってる?」 優実が聞くが、

 「すみません。 お答え出来ないんです…… でも、ありがとうございます」 撫子は頭を下げる。



 ミドルと言われる年代、段々と出来る仕事の幅も狭くなる。

 この優実もそうだ。 5年のブランクを埋める為にも、意識の改革が必要である。


 「優実さん、体調はどうです?」 撫子が聞くと、

 「うん。 職探しをしているのよ」 優実は穏やかな顔になってきた。 以前は親の行動を見ては眉間に力が入っていたが

 現在は、それもなく明るい表情になっている。



 「今日なのですが、履歴書を書いてみませんか?」 撫子が提案する。

 「履歴書ですか? 持っていませんが……」


 「私、持っているんです」 撫子が一枚の履歴書を出すと、テーブルの上に置く。


 「私、まだ自信なくて……」

 「いいんですよ。 実際に出す訳じゃありませんから」


 優実は履歴書を書いていく。


 「あれ? 私、何年に卒業したんだっけ?」 優実が聞くと、

 「今、調べますね…… えと……」 撫子がスマホで調べる。



 そうこうしているうちに、終わりの時間がやってくる。


 「あっ、優実さん……お時間になります。 何かお話されたいことありますか? 私が履歴書なんて言って、時間を取らせちゃいましたが……」



 「ううん。 本当にありがとうございます。 なんだか、働けそうに思えてきました」 優実は満足している。


 「そこで、次回から本格的に卒業に向けてのカウンセリングに入りたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」 撫子が提案をすると、


 「えっ? 本当ですか? でも、嬉しいような 寂しいような……」

 優実は自身の手をギュッと握りしめる。


 「優実さんには幸せになってほしいのです。 そこで苦しくなったら、また考えましょうよ」 撫子にとっても有り難いはずの優実だが、撫子のもカウンセラーの理想を持っている。



 こうして優実は帰っていった。


 「ふぅ……」 撫子がコーヒーを淹れ、気持ちを整理する。



 これは、吉野や優実のようにミドルと言われる年齢になった時を想像していた。


 そこには、ゴミ屋敷になった部屋も想像してしまう……

 (ここだけがリアルの想像できるのは何故かしら……) そう思いながら飲んだコップを洗う撫子であった。



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