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第二十七話 ギャンブル

 第二十七話    ギャンブル



 緑は、撫子のアパートで一泊して翌朝に母の陽子が迎えにきた。


 「緑、またね」 お互いに手を振り、帰っていく。 陽子には緑に対しての言動のアドバイスをしておいた。


 (これなら安心かな……)



 撫子の表情も明るく、元気になっていた。


 「今日は新規か……」 撫子は心を落ち着かせているが、

 (ここ最近、由奈に任せていたこともあるから怠け癖が付いちゃったかな……) 撫子が気を引き締めていると


  “ピンポーン” チャイムが鳴る。


 「はーい」 撫子がドアを開けると、女性が立っていた。


 「ご予約の佐野さんですか?」 撫子が聞くと、

 「いえ、このような者でして……」 女性が宗教のパンフレットを差し出す。



 (あぁぁ……) 撫子は肩を落とす。 撫子は無宗教であり、興味がなかった。


 「毎日、拝んでいれば心が軽く生き生きとして……」 女性が話している後ろに女性の姿が目に入る。


 「すみません、これから仕事ですので……」 撫子がやんわり断る。

 そして、「すみません、ご予約ですよね。 中へどうぞ」 予約の女性をカウンセリング室まで案内をした。



 「すみません。 突然の勧誘でして……」 撫子が申し訳ない顔をすると、

 「突然って、怖いですよね……」 女性は暗い声で話す。

 「……はい」 


 「では、問診票になります。 できる限りお書きください。 それからのカウンセリングとなりますので、ごゆっくり」


 撫子は用紙を差し出すと、一旦、キッチンに向かう。


 しばらくしてカウンセリング室に戻ると、書き終えていた。



 片山かたやま 梨乃りの 24歳

 片山は現在、フリーターである。



 撫子が問診票を見る。 現在は独身、彼氏と同棲をしている。

 彼女はギャンブル依存症になっている。


 それを治したいとのことだ。 

 (たまにニュースでもやっているな……)


 「はい。 では、どのようなギャンブルをしていますか?」

 撫子はギャンブルの知識がなかった。 どんな種類のギャンブルがあるかは、だいたいの事しか聞いていない。


 「主にパチンコと、競馬なのですが……」 片山が話し出すと、

 (これなら知ってる……) 撫子は安心した。



 「これって治りますか?」 片山が唐突に聞いてくる。


 「まぁ、ご本人の意思が強ければ治りますが……」


 しかし、ギャンブル依存症は年々増加傾向にある。 これは団塊の世代の人が退職し、暇になってパチンコなどに行くなどでハマってしまうケースだ。


 片山の年齢でパチンコにハマるのは珍しくないのだが、比較的に年配者が多いイメージである。



 「カウンセリングは彼氏さんが勧めたのでしょうか?」 撫子はメモをしながら話す。


 「いえ……彼氏は知らないのです。 なので、カウンセリングで治したくて……」


 片山の言い分は、彼氏にはバレたくない。 病院に行けば治療の薬などが見つかるとバレてしまうということであった。


 (そんな苦労もあるんだな……) 彼氏もいない、ギャンブルもしない撫子には分からないものであった。


 「それで、どんな治療がありますか?」 片山が聞くと、

 「治療はしません…… ここはカウンセリングですから、治療というものはしていないんですよ……」 撫子が答えると、片山が何かを考え出す。


 「いかがされました?」 片山の顔を覗き込むと、

 「いえ……カウンセリングで良くなりますか?」


 (これ自体がギャンブル気質と言っていい…… 一発狙いみたいな感覚なのかな……)


 「片山さん、依存症という言葉はご存じですか?」 撫子が基本的な事を聞く。


 「やめられない……ことですよね?」 片山は小声で言うと、



 「そうですね。 依存症とは特定の物質や行動に対する制御不能な欲求を指します。 つまり、制御不能なのです」 撫子は突き放すような言い方をする。


 「じゃ、治せないのですね?」 片山は目を伏せると、

 「そうですね……ただ、治すとは違いますが、その特定の行動から外す事は出来ます……」


 「??」 片山は思考が追いついていない。


 「つまり、片山さんがギャンブルという特定の依存から除くことは可能なのです」 撫子が微笑んで説明をする。


 「それは治すという意味じゃ……」


 「それは違います。 そうなると中毒者の範囲になります。 これを言うと、屁理屈になってしまいそうなのですが……」 そう言って、撫子が説明を始める。



 依存症とは特定の物質や行動に対する制御不能な欲求を指し、中毒は有害物質の摂取による身体的な障害を指している。


 「つまり、有害であれば法が絡んできます。 しかし、それらを顧みずに手を染めるのは中毒であり、治療が必要になるのです」


 片山が頷く。 さらに撫子が続ける。

 「依存症の場合、たとえば煙草や酒、ギャンブルなどは未成年でなければ法の罰は受けません。 要は自身の気持ちだけなのです」



 「それは分かります。 ですので、それを何とかしたくて……」


 「はい。 ですので、特定の……そのギャンブルを頭から外してみるしかないのです……」 撫子が言い切ると、片山は頷いた。



 「それは、どうしたら?」


 「一般で言えば、自助グループに参加するのがいいと思います。 同じ環境下に置かれている人が参加していますので、共感しながら徐々に……」


 「そうなのですね……」 片山は肩を落とす。


 (そんなに肩を落として……何があるんだろう?)

 撫子はギャンブル依存症になる以前が気になっていた。



 「あの……よかったらギャンブルを始めたキッカケを教えてもらえませんか?」


 「あ、はい……」 片山がギャンブルを始めた経緯いきさつを話し出す。


 以前に付き合っていた彼氏に連れてこられたのが最初であり、別れて暇になって次第に自らで行くようになった。


 そして、新しい彼氏と同棲を始めてギャンブルはしなかったのだが、些細なケンカがあり、寂しさを埋める為にパチンコに行きだしたとのことである。



 「わかりました。 それで、今は彼氏さんとは上手くやっていますか?」


 「はい。 ケンカは無いのですが、パチンコが止められなくて……」

 片山の言葉に、撫子は疑問を持つ。


 (ケンカをしてパチンコに…… 上手くいってても止められない……)



 「無意識にパチンコ屋さんに行ってしまうのでしょうか?」 撫子が聞くと、片山は頷いてしまう。


 「彼氏さんはパチンコします?」 「いいえ、ギャンブルはしません」


 (なかなかヒットしないな……) 撫子はギャンブルに関わる元を探している。


 「ご家族はどうでしょう?」 

 「両親は、好きでしたね……」 片山が答えると


 「案外、遺伝もあるんですよ。 熱しやすいとか…… それを言ってもしかたないのですが、そのギャンブルのお金はどうしてます?」


 肝心なことである。 借金などをしても止められない者もいるからだ。


 「それは、私のバイトの給料でやっています」


 それを聞いて撫子はホッとする。 借金までしていたら依存から抜け出すのに時間が掛かってしまうからだ。



 「まだ、救いがあると言っては……ですが、最悪の場合って聞いた事がありますか?」 撫子が言うと、片山は首を横に振る。



 「まず、彼氏さんに嘘をつきます。 それは仕事に行くと言って、パチンコ屋さんに行ってしまいます」

 撫子は例を出していく


 実際にある話しである。


 依存症になると、高い報酬を得ようと掛け金を高くする。 借金をする。 ギャンブルをしないと落ち着かなくなっていく……などがあげられていく。



 「まだ、私は大丈夫かな……」 片山がホッとすると、

 「いえ、入り口が怪しい場面がありましたよ」 撫子が指摘する。



 「どんな時でした?」


 「まず、精神科に行かずに ここに来たことです。 投薬や入院を恐れてカウンセリングに来たと思います。 『ここで治せるなら』との思いで来たことですね……少し、ギャンブル的要素で来たと思いました」


 「……」 片山は黙ってしまう。


 「でも、お話させて頂いて大丈夫とも思いました」 撫子が微笑むと、


 「どうして そう思ったのですか?」


 「彼氏思いの、いい方でしたので……」 「えっ?」 片山が驚く。


 「彼氏にバレたくないから、知らないうちに治そうと思ったんじゃないですか?」 撫子は正面から片山の目を見る。


 「そうです……」


 「では、次に行きたくなったらココに来てみましょう」 撫子の提案に、片山は目を丸くする。


 「簡単です。 心からパチンコがしたくて頭が変になる……って訳ではなさそうですし、もしそうなら病院を紹介していますから。 要は、行きたくなる心のトリガーを押さえるのです」



 この言葉を聞いて、片山はホッとした表情を見せる。 

 「では、時間になりますが、言い残したことありますか?」


 「いえ、これからも よろしくお願いいたします……」 撫子は玄関まで見送った。


 ファイルを整理していると、撫子の手が止まる。


 (ここからが始まるんだよな……) 今後の禁断症状を心配していた。



 ギャンブル依存症は難しい。

 グランピング(強い渇望): ギャンブルへの耐えがたい衝動が押し寄せる。


 否認: 自分が病気であること。深刻な問題を抱えていることを認めない。


 合理化: ギャンブルを続ける為の言い訳を考えだし、自分自身を正当化してしまう。


 離脱症状: イライラしたり、不安や不眠などを引き起こすなどのことを考えられる。



 今回、撫子は片山には重く受け止めさせないのには訳があった。

 それは、自身のお金だけで済ませていたからだ。


 お金が無ければ、ギャンブルをしないと思っていたからだ。 撫子は、注意深くファイルを整理していくのであった。




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