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第十三話 ダイエット

 第十三話    ダイエット



 夜中、ナデシコが不意に目覚める。

 (なんか寝苦しかったかな? トイレ行って、また寝よう……)



 立ち上がり、トイレを済ませたが

 (なんか眠れない……) 目が覚めてしまった撫子はテレビをつける。


 すると、深夜の通販番組でダイエットグッズが放送されていた。



 (こいうの売れているんだな~)

 そんな他人感覚でテレビを観ている。



 翌朝、目覚めが悪く、フラフラとキッチンまで歩きコーヒーを淹れる。


 そしてスケジュール管理をすると、

 「また、野口さんか……」 撫子は息を漏らす。



 これには理由があった。


 十時、カウンセリング室のエアコンを点け待機する。



  “ピンポーン ” チャイムが鳴ると玄関に向かい、

 「こんにちは~ 暑い中、よくいらっしゃいました~」 撫子は軽めの微笑みを見せる。



 カウンセリングに入る前、クライアントの表情などを確認する為に雑談をする。



 「野口さん、暑い中での移動は大丈夫でしたか?」

 撫子が声を掛けると、野口は微笑んで頷いた。



 このクライアントは 野口のぐち 佳代かよ。 二十二歳である。

 一年前に病院で摂食障害と診断された女性である。



 近年、摂食障害の患者が増えている。


 それは、 “過度なダイエット ”が原因で、大きな割合を占めている。



 芸能人などを見ると、細い人が多い。

 昭和のアイドルの写真と比べると、全体の肉の付き方が違って見える。



 そんな野口も細い身体に憧れてダイエットをしたと言う。

 そして摂食障害となり、サプリメントなどを処方されている。



 「野口さん、体重の減少は止まりましたか?」 撫子が聞くと、

 「ここ最近は計っていないんです……」 野口は心配そうに答える。



 これは、以前のカウンセリングのとき


 「野口さん、しばらく体重を計るのを止めてみてはいかがでしょう?」

 撫子は提案していた。


 「あの……心配なんです……」


 「どんな事が心配でしょうか?」 撫子が聞くと

 「体重を増やしたくないんです……」


 「ちなみに、ここには私しかいません。 身長と体重を教えてもらえますか? ハッキリ言って、野口さんは細いです。 いや、細すぎると思うんです……」


 撫子が言うと、野口は

 「166センチ……43キロです」 そう答えた。


 「これは、いつ計りました?」 「今日、家をでる前……」

 撫子がメモをとる。



 166センチなら50キロあっても標準の体型である。


 「どんな事からダイエットを始めたのか教えてもらえますか?」



 それは野口が大学生の時に好きな男性が出来たそうで、その男性の好みが “細い女性 ” をさしていたと言う。


 それは芸能人であり、普通の女性の事を言っていた訳ではないそう。


 そこで野口は、その芸能人に近づけるようにダイエットを始めたというのが理由である。



 しかし、思春期や成長期に過剰なダイエットをするのは身体や精神に大きなダメージを与えかねない。


 拒食症(神経性やせ症)になっていくのだ。


 その症状は、


 食行動の異常(隠れ食い。 食べたものを後から吐く) 体重に対する異常な執着。 体重増加に対しての不安・恐怖を感じたりする。


 これは、周りから「痩せている」と言われているのに「私は太っている」と感じてしまっていることなどが挙げられる。



 そうなると脳の指令と共に、身体は無意識に反応をする。


 疲労感が取れなく、寒がり、浮腫みやすくなったりする。 そうすれば、「また太った」などと錯覚を起こし、過敏になっていく。



 「一日に、何回 体重計に乗りますか?」 撫子が聞くと

 「何回…… 多いと10回は乗ります……」


 野口は、異常なまでに体重に執着してしまっていた。



 「そんなに体重は変わらないですよね?」 「はい……でも、心配で……」


 「心配なんですね……」 撫子は悩む。


 「このままだと、身体の方が心配です」 撫子が身体の心配をしながら反応を探る。


 これは、心配をしながら食事に対する拒絶具合を探っているのだ。



 「はい……」 意外にも野口は言葉を受け入れた。

 (よし……このタイミングか) 撫子が感触を掴む。



 「野口さんは痩せて綺麗になりたいんですよね?」

 「はい。 そうです」


 「それは本当に綺麗なんでしょうか?」

 「―っ?」 野口が固まる。



 「世の中で綺麗な人は多いです。 こんな私が言うのは変ですが、私はブスです。 綺麗は憧れますが、無理をしてまで綺麗には憧れていないんです」


 「……」 野口は黙って撫子を見る。


 「半分、諦めがあるのですが……」 撫子が笑って見せる。



 「本当の綺麗って、体重だけでしょうか? 身体や精神を害してまで手に入れた身体は美しいでしょうか?」


 「確かに頑張って痩せたことは賞賛できますが、身体は如実に反応します。 今後も今まで以上に表れてきますよ……」



 「それって、どんな事が……?」 野口が聞くと


 「まず、月経不順から止まってしまうことも……便秘や不眠も伴います。 肌のツヤも無くなりますしね…… 痩せすぎて、落ちくぼんだ眼下では綺麗とはほど遠くなってしまいますよね……」


 「そんな……」 野口は愕然とする。


 「それは、全て 脳が指令を出します。 心理とは脳の錯覚を招くのです」

 撫子はキッパリと話す。



 これは人によるのだが、野口は良い方である。 それは人の話に耳を貸せる状態だからだ。


 精神が崩壊してまでも痩せたがる人もいる。

 それは “痩せたい願望が精神を壊していく ”のである。



 そういう人は病院で治療に入る。 入院をして、点滴などで栄養を流し込み命を取り留めるのだ。



 「私は野口さんが羨ましく思います……」 撫子が言うと

 「どうしてですか?」


 「だって、好きな人が出来て、それに向けて頑張ろうとする姿勢ですよ……素敵な事じゃないですか」 撫子が微笑む。



 「でも、こんな状態では……」 

 野口が自身を否定する。 これが撫子の狙いであった。


 それは、クライアントの意識を変える事にある。



 クライアントは自身の考えを曲げたがらない。 むしろ、正しいとさえ思っている。 これは摂食障害だけの事ではない。


 これは自身の執着により起こしてしまう問題である。

 執着しすぎて自分の理想を色濃く描けば、身体や思考はその方向に向かう。


 結果は残酷な事になってしまうのだが、本人は気づかないままだ。


 それに気づいた時には遅く、身体や精神が支配されてしまっている。

 一時は回復しても、同じ事を繰り返しやすいのが特徴である。



 野口が「こんな状態では……」と言ったことに、大きな意味を持つ。

 それは自己否定だ。


 考えを曲げない人からすれば、野口は優しく人の話に耳を傾ける。

 ただ、ここからが難しい一面がある。



 そもそも過剰なダイエットを始めた理由が自己否定だからだ。

 『自分は太っている』『もっと痩せて綺麗にならなければいけない……』という自己否定から入っている訳である。


 先ほど野口が言った「こんな状態では……」は痩せ過ぎる事への不満足を出した訳だが、裏を返せば 『こんな状態じゃ…… もっと痩せなきゃ……』となってしまうからだ。



 これには撫子も次の言葉が大事になってくる。


 「野口さん、好きな人がいるって……どんな感じですか?」

 撫子は、食事や体型の話から逸らす。


 「それは……実れば嬉しいですよね……」 


 「私、彼氏とか無縁で…… 綺麗でもないし……」 撫子が自己否定のように話す。


 「そんなこと……」 野口は、やんわり否定をすると

 「私、健康ですし 食事も好きなんです……でも、彼氏が出来ないんです」


 「……」 野口は黙ってしまう。


 「そういえば、デートと言ったら食事は付きますよね?」 撫子が思い出したように話すと、


 「まぁ、そうですよね」 野口が相槌を打つ。


 「こんな時、体重を気にして食べなかったらどうでしょう?」

 「……」


 「その時だけは食べる! って、思うかもしれんませんが、脳が拒否をしていたら身体は受け付けてくれないんですよ」


 そんな撫子の言葉を、野口は黙って聞いていた。



 その後、野口は病院へ通い、拒食症(神経性やせ症)の治療に入る。


 幸いなことに全てを支配されていなかった分、回復は早かった。



 そしてカウンセリングに来た野口は、太ってはいないが健康的な身体を取り戻していた。


 笑顔も増え、肌もみずみずしかった。


 「化粧のノリが良くなりました♪」 笑顔を見せる野口は、痩せ過ぎていた頃より素敵に見えた。



 そして、 「好きだった人と付き合いました♪」 と報告に来てくれた。

 撫子は微笑んで 「おめでとうございます」 と、返す。



 ファイルの整理をする撫子は、そっと『完了』のスタンプを押した。


 話しの冒頭、予約の確認で「また、野口さんが……」と言ったのは



 「彼氏かぁ……」 



 と思ったりする撫子がいたからである。





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