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第9話:異端の烙印、そして王の怒り

それは、ほんの些細な兆候から始まった。


 王宮の厨房で突然、食材が腐る。

 礼拝堂で聖火が三日間灯らない。

 護衛の騎士たちの間に、奇妙な病が同時発症――だがいずれも、原因は不明。


 そして、決まってその直前に“エリシアが通った”という記録が残っていた。


「まさか……“彼女の力”が災いを招いているのでは……?」


 誰ともなく囁かれたその疑念は、徐々に王宮の奥深く――

 “王さえも知らぬ場所”で熱を帯びていく。



 その夜、王城地下の隠し書庫。

 仄暗い蝋燭の灯りの下で、黒衣の男たちが言葉を交わしていた。


「“神の寵愛”など、まやかしに過ぎぬ。あれは異端だ。神を騙る、異物だ」


「我らは知っている。古き記録に記された“神喰い”の因子――あの女の周囲でだけ、加護が暴走している」


「排除せねばならぬ。我ら《均衡の灯》の使命は、“歪んだ神意”の排除だ」


 そうして決まったのは、一人の令嬢を“静かに消す”計画だった。



 翌日、王宮の庭園。


 エリシアは、今日も一人、薬草の鉢を並べていた。

 王宮内の医師が風邪を引いたと聞き、彼女なりにできることをと準備していたのだ。


 だが――その手元に忍び寄る、黒い影。


「……え?」


 手の甲に、何かが刺さる感覚。

 振り返る前に、視界がぐらりと揺れる。


 立っていられず、膝をついたそのとき――


「――エリシアッ!!」


 鋭い声とともに、風が鳴った。


 次の瞬間、彼女の背後にいた黒衣の男が吹き飛ばされる。


 そして、エリシアを抱き止めたのは――王、レオンだった。


「……なぜ……っ」


「動くな。毒だ。だが、軽い。まだ間に合う」


 そう言って、彼は彼女をそっと抱き上げる。


 その眼差しは、普段の冷静を遥かに超えていた。


「陛下……」


 唇をかすかに動かしたエリシアの声に、レオンはただ一言だけ答えた。


「安心しろ。お前には、指一本触れさせない」


 そのまま彼女を抱えて駆ける姿は、王ではなかった。

 一人の男が、守るべき者のために怒りと誓いを燃やしている――それそのものだった。



 その夜。


 王宮の一室。

 倒れたエリシアの看病を終えた侍医が下がったあと、レオンは一人、彼女の眠る枕元にいた。


 窓の外は、雷雲がうねっている。


「……私の無力だ。貴女を、この国に招いておきながら……」


 拳を固く握る。


「だがもう二度と……貴女を“傷つける者”を、ただでは済ません」


 その言葉の通り、レオンは翌朝、異例の勅命を出した。


 ――王命により、王宮地下にて“不正な組織の潜伏”が確認され、速やかな摘発が行われる。


 その名は《均衡の灯》――


 歴代王家さえも手出しできなかった、異端審問を名乗る古き結社。


 だがそれを、現王レオンは真っ向から破壊した。


 その日、王国に衝撃が走る。


 王が自ら“ひとりの娘”を守るために剣を抜いた。


 その事実が、ただの噂ではなく、“王命”という事実となって刻まれた。

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