表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/26

第23話:七柱の逆鳴り

 眩い光の中心に、彼女はいた。


 ――聖和の座、エリシア=リュクス。


 その身を包む祈りの力は、もはや“神の加護”ではなかった。

 七柱それぞれの神性が、彼女の意思を核として、自然に一つにまとまり、そして彼女自身の“意志”として呼吸し始めていた。


 祈りを司る者ではない。

 祈りそのものに“意味”を与える存在。


 それは、既存の神すら凌駕する、新しい“神性のあり方”だった。



 一方、神性吸収炉の中央に取り込まれかけていたミュリエルは、苦悶の声を上げた。


「くっ……これは……これは違う……! 私の計算では、こんな結果は……!」


 吸収炉の出力が逆流を始めていた。

 七柱の神性が、術式の中でエリシアの祈りと共鳴し、逆に“排除の意思”を示し始めたのだ。


 ――七柱が、“鳴いている”。


「おまえに使われるために、私は存在するのではない」

「力を得るために、祈るのではない」

「救いとは、支配ではない」

「祈りとは、声を捧げることではない」

「信じるということは、命令を受けることではない」

「共に生きる者として、互いを認め合うものだ」

「そして――誰かのためにあるものでなければ、私は意味を持たない」


 七つの神性が同時に語りかける。


 それは言葉ではなく、魂に直接注がれる“逆鳴り”。


 かつて、加護として人々に与えられた力が、

 今、ミュリエルの内に“拒絶”として突き刺さっていく。


「う……あ……やめ、ろ……! 私は……この世界を正すために……っ」


 ミュリエルの目が血走る。


「私が神になるんだ……! 人の手で神を創るんだ!!」



 その狂気が限界を超えたとき、吸収炉の中央部が砕けた。


 まるで“祈りに拒絶された”ように。


 ミュリエルの体が空中に持ち上がり、神性の残滓が彼女の内に流れ込んでいく。


「――く、くく……ならば……この力すべて、私の中に取り込んでやる……!」


 力への渇望、恐怖、妄執、そして孤独。


 それらが混ざり合い、彼女の中で膨れ上がっていく。

 融合ではない。崩壊だ。


 ミュリエルの体が、神でも人でもない“何か”へと変異を始めた。


「っ、これは……!」


 アイレーンが遠隔観測で叫ぶ。


「ミュリエルの体に、七柱の神性が暴走融合している……! 意識が耐え切れずに、神性の核と人格がぶつかり合ってるのよ!」


 そこにあるのは、意思なき力の塊。

 ただの暴力の象徴。


 ――“神格暴走体”。


 神に成ろうとした人間が、神に否定され、そして祈りの反動で化け物となった姿だった。



「もうやめて……! ミュリエルさん……!」


 エリシアが叫ぶ。


「あなたは、間違っていた。でも、その心のどこかに、ほんの少しでも“誰かを救いたい”という気持ちがあったはず……!」


 だがその声は、もう届かない。


 ミュリエルの中の“人間”は、すでに神性の濁流に呑まれていた。


 次の瞬間、暴走した神格体が腕を振るい、神殿の柱がまとめて吹き飛んだ。


 エリシアが咄嗟に防壁を展開するが、それもひび割れる。


「くっ……!」


 再度、鈴を鳴らす。


 だが――祈りだけでは、暴力は止められない。


 それでも、彼女は前に出る。


「私は……あなたを、神にするために来たんじゃない。

 あなたを――人に戻すために来たんです!!」


 その声に、七柱の神性が呼応する。


 エリシアの背後に、七つの光輪が出現する。

 それぞれの属性と、記憶と、想いと、祈りを宿した、七柱の神の“化身”。


 その瞬間、世界の空気が変わる。


「七柱よ――私に力を貸して。

 これは、戦いじゃない。

 ……これは、“帰還の祈り”――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ