表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/26

第19話:加護兵計画と、奪われた神性

――“加護はもう、祝福ではない。戦争の道具だ”


 その事実が、王国の中枢に突きつけられたのは、北方からの急報によってだった。


「……施設内の神性保管装置はすべて破壊、研究員・神官含めて三十八名が行方不明。生存者なし」


 クロウが読み上げた報告は、決して戦場の話ではない。

 あくまで、“神に仕える者たち”の集まる平和な研究機関だった――はずだった。


「そして……これをご覧ください」


 クロウが差し出したのは、敵が現場に残した“映像術式記録”。


 そこには、信じがたい光景が映っていた。


 ――人間の体に、“加護の印”を無理やり埋め込み、

 ――苦悶と絶叫の中で、“光を放つ兵士”が生み出されていく。


「……これが、“加護兵”……!」


 アイレーンが歯を噛みしめる。


「ええ。術式構成から判断して、“神の権能を疑似的に再現”している……でも、これは、魂を削る術よ。

 加護を持つ者から神性を抜き出し、別の肉体に強制付与している――まさに“神の解体”」


 エリシアの胸が、怒りとも悲しみともつかぬもので押し潰されそうになる。


「……こんなこと、誰が……」


 すると、クロウが静かに追加報告を口にした。


「実は、神なき教団の背後に、“聖法連盟の一部派閥”が接触していたことが判明しました。

 公式には否定していますが、ミュリエル補佐官の身辺調査で“秘匿ルート”が見つかっています」


「つまり――ミュリエルは、加護兵開発に協力していた可能性があると?」


「それどころか、主導していた可能性すらあります」


◇ ◇ ◇


 「ならば、私は……彼らに奪われた“神性”を取り戻すべきです」


 その言葉を発したのは、エリシアだった。


 王宮作戦室にて、諜報・軍・神官団の幹部が揃う中、彼女はまっすぐ立っていた。


「エリシア、危険すぎる。あの施設を掌握した者たちは、加護を封じる術も、暴走させる術も持っている」


 レオンが反対を示すのは当然だった。

 しかし彼女は、首を振る。


「……彼らが奪ったのは“神の力”じゃない。“人が祈りと共に築いてきた信仰の形”です。

 私はその意味を、この手で取り戻したい」


 その目に迷いはなかった。


 彼女が“聖和の座”として立つ以上、逃げるわけにはいかなかった。



 翌朝――


 エリシアは、初めて**“自らの意志で加護を起動”する訓練**を開始していた。


 「あなたの加護は調和の象徴。けれど、同時に“極めて不安定な多層構造”でもあるの」


 アイレーンは神紋装置を展開し、エリシアの背に浮かぶ神印を解析していた。


「七柱の加護が交錯するあなたは、本来であれば加護を制御できる存在じゃない。

 でも、逆に言えば、誰にも模倣できない“固有の神性”を持っている」


「……つまり、私だけの祈り方を作らなければならない、ということですね」


「そう。誰かに教わるんじゃなく、“エリシア=リュクスという人間がどう世界と向き合うか”を、祈りにするのよ」


 エリシアは静かに目を閉じる。


 祈りとは、他者のための言葉だった。


 だけど今、自分自身に向ける必要がある――“私はどう生きたいのか”という問いに。


 「私は、奪われるために生まれたんじゃない。

  ……誰かを救うために、私は祈りを使いたい。例えそれが、神の力と呼ばれても」


 その瞬間、彼女の背に広がった光は、七柱の神印を越えて、**ひとつの“新しい神紋”**を形作っていた。


「……これは……まさか、“固有神性”の兆し……!?」


 アイレーンが驚愕する。


 “調和された七柱の力”を再統合することで、

 **エリシアだけの“独立した神性”**が芽生え始めていたのだった。



 そして同日――


 諜報部が突き止めた、“神なき教団”の前線基地が、王国国境の孤島に存在することが判明する。


 そこには、奪われた神性を埋め込まれた“初期型加護兵”が多数存在するとの報告があった。


 王と聖和の座は、重大な決断を下す。


「――神性奪還作戦、発動」


 これは、ただの戦闘ではない。

 信仰を、祈りを、力ではなく“意味”として取り戻すための戦い。


 エリシアにとって初めての、“自ら選んだ戦場”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ