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第16話:使節団の影、加護をめぐる国際の罠

“聖和の座”創設の報せは、わずか三日で諸国へと伝わった。


 王妃でありながら神の代行者として立つ――その前例なき在り方は、他国の関心を一気に集めた。


 なぜならそれは、単なる“王室の話”ではない。

 神々の加護を得る国の誕生という意味を持つからだ。


「――来るか」


 王宮の政庁室にて、地図を見下ろしていたレオンの口元が、わずかに引き締まる。


「東方の聖法連盟、北方の商業都市連合、西方の旧帝国……どこもただの祝賀では済まさぬだろう」


 彼の予想通り、その翌日には三国から祝賀使節団が同時に到着した。


 そしてその中心に立っていたのは――


「ごきげんよう、“聖和の座”殿」


 微笑みながら膝を折る、謎めいた美貌の女性。


「私、聖法連盟より参りました、“聖女補佐官”のミュリエルと申します」


◇ ◇ ◇


 エリシアは、王宮の謁見の間でその女性を迎えていた。


 対面した瞬間、彼女の肌をかすめるように違和感が走った。


 言葉遣いも、立ち居振る舞いも完璧――

 しかしその笑みに、何か“空虚な薄膜”のようなものを感じた。


「補佐官……つまり、正規の聖女ではないのですね」


「ええ、残念ながら。ただ、当方の“聖女殿”が近年は病床にあり……代行として外交を預かっておりますの」


「それで……私に、何か?」


 ミュリエルは微笑を深めた。


「ええ。“あなたの加護の構造”に、深い関心を抱いております。

 もしよろしければ、聖法連盟にて――共に祈りを交わしていただけませんか?」


「……それはつまり、“私をそちらに連れていきたい”という意味ですか?」


 エリシアが静かに問うと、ミュリエルはあくまでやわらかく――


「いえ、“神々の意思”に従って、自然に導かれるのであれば、というだけですわ」


 その瞬間、エリシアの背後に控えていたレオンが一歩、前に出る。


「残念ながら、“聖和の座”はこの国に属する。神の導きがいかにあろうとも、貴女方の意志で動かすことは許さぬ」


 ミュリエルは、その王の眼差しに一瞬だけ表情を曇らせた。

 だがすぐに作り笑いを浮かべる。


「これは失礼を……。では、改めて“祈りの祝宴”にてお会いしましょう」


◇ ◇ ◇


 その夜、王城の隠し部屋で。


 「……あの女、“神官”ではない。祈りに特有の“波動”が感じられなかった」


 そう告げたのは、王直属の影番・クロウだった。


「むしろ、“術者”だな。神の声を語るふりをして、何かを封じ込めていた気配がある」


「つまり……」


「“加護を封じる術”を携えて来た可能性がある」


 レオンとエリシアは視線を交わす。


 ミュリエルの狙いは、エリシアの加護の“構造”を盗み取るか、封じること――それが現実味を帯びてきた。


「明日の“祈りの祝宴”が鍵になるでしょう。何か仕掛けてくるはずです」


 クロウの言葉に、エリシアは小さくうなずいた。


「分かりました。……私も、“備えます”。神の加護がどう動くか、見極める覚悟はできています」


 その夜、彼女の枕元に置かれたのは――

 かつて村で使っていた、古びた祈りの鈴。


 “癒す”ための祈りではなく、自らの意志を示す祈りが、今試されようとしていた。

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