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第14話:王妃の座と、神殿の裏切り

エリシアが王妃として正式に迎えられるまでには、数週間の猶予が設けられていた。

 それは国政上の調整期間であり、各国との外交的配慮――そして何より、“国内の反発”を抑えるためでもあった。


「……祝福と同時に、見えざる火種も撒かれる。それが“王妃の座”というものだ」


 レオンの言葉は、皮肉ではなく警告だった。



 その兆候は、すぐに現れた。


「王の妃が“神の寵愛を笠に着る”とは、前代未聞ですな」


「神に選ばれし者ならばこそ、人の世の枠に収まるべきではないのでは?」


「王政に信仰を持ち込むなど――まるで神権政治ではありませんか」


 そう口にするのは、王国の旧貴族派。

 代々、神殿や学院、法務局などを抑えてきた保守系貴族たちだ。


 彼らはあくまで王権を“人の理”と見なしており、“神の加護を受けた存在”が玉座に近づくことを快く思わなかった。


「――我らの許しなく、“神の器”などと名乗るは、異端の証左だ」


 そして、その声に応える者が、もうひとつの組織にいた。


 ――神殿上層部の一角である。



 神殿の奥、秘儀の間。


 法衣をまとった老神官が、厳かに語る。


「王が“神々の寵愛”を手に入れようとしている。もしこのまま結婚すれば、我ら神殿の立場は完全に損なわれる」


 彼の前には、かつて地下で暗躍していた秘密結社《均衡の灯》の残党が膝をついていた。


「……御意。いかなる手段を用いても、“器”を封じる所存」


「もはや彼女は、“人”ではない。神に選ばれし異物だ。……排除せねばならぬ」


 彼らは、静かに動き始めた。

 今度こそ、完全に、跡形もなく――



 その夜、エリシアは神殿に招かれていた。


 表向きは“王妃として神前の祝福を受ける儀式”。

 だが、そこにはレオンも近衛も同席していなかった。


「……違和感、ありますね……」


 ただ一人、信頼できる侍女・リリィだけが、小声で囁く。


 だがその言葉を口にしたときには、すでに遅かった。


「エリシア=リュクス。ここにて、神殿上訴により拘束する」


 目の前に現れたのは、正規の神官ではなく、黒法衣をまとった異端審問官たち。

 かつての《均衡の灯》――その残党が、神殿上層部の“黙認”のもと動き出していたのだ。


「っ……何をするつもりですか!」


「貴女の存在は、“神性の均衡”を乱す。王妃としての資格以前に、この国にとっての脅威と見なす」


「勝手な……!」


 エリシアは抗議するが、数人の男たちが無言で取り囲む。


 腕をつかまれたそのとき――


 「――そこまでだ」


 扉を叩き破って現れたのは、レオンだった。


 剣を抜き、目を光らせて叫ぶ。


「神殿内で王妃を拘束? 貴様ら、自分の立場を理解しているのか!」


「王といえど、神意には従っていただかねば……」


「その神意とやらが、私の妃を“処理”しようとするなら――神とて敵だ」


 その言葉は、アスヴェルト王国始まって以来の“王による神権への対決宣言”だった。


 その瞬間、空間がざわめく。


 そして――

 再びエリシアの身体から、まばゆい光が溢れ出す。


「……! 神の加護が、また……!」


 それは攻撃でも暴走でもなかった。


 ただ静かに、エリシアの周囲の空気を“浄化”するように広がっていく。


 神殿の天蓋に刻まれた神紋が、一斉に淡く輝いた。


「……この光……これは……」


 老神官のひとりが、恐る恐るひざまずいた。


「これは、“七柱調和”の兆し……。そんな、記録にしか存在しないはずの神性が……!」


 神官たちは、次々に膝をつき、沈黙した。


 エリシアは、ただ立ち尽くしていた。


 震える手を、レオンがそっと包み込む。


「……大丈夫だ。私は君を、どんな相手からでも守る」


 その言葉に、エリシアの胸の奥で、恐怖がゆっくりと消えていった。


 ――この手は、もう誰にも離させない。



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