スキル『代打』の副作用…これ大丈夫なやつ?
初めての戦闘を終えた翌日、俺は全身に異変を感じていた。だるさとか疲労感とか、そういう普通のやつじゃなくて…なんというか、妙にテンションが高い。
「うおおお!めっちゃ元気や!これがスキル『代打』の力か!」
俺は部屋の中で意味もなくスクワットを繰り返しながら叫んでいた。エリスがその様子を見て、驚きながらも冷静にツッコミを入れる。
「ヒロト…どうされたのですか?まるで別人のようですが…。」
「なんやろな、急に体が軽くてたまらん!それに…うわっ!口から勝手に歌が出てくる!俺は勇者―代打の勇者―♪」
「やめてください!近所迷惑になります!」
エリスは慌てて俺の口を押さえたが、俺のハイテンションは止まらない。どうやら、スキル『代打』には副作用として“異常なハイテンション”が発生するらしい。
「いやー、これ、めっちゃ楽しいやん!もっと動きたい!エリス、外行こうや!」
「ちょっと待ってください!落ち着いて話を…ヒロト!どこへ行くのですか!」
俺はエリスの制止を振り切って、城の廊下を全力で駆け回った。途中、掃除をしていたメイドさんにぶつかりそうになったり、王様の執務室に飛び込んでしまったりして大騒ぎだ。
「おいおい、勇者とはいえ限度があるぞ!」
王様が苦笑いを浮かべる中、エリスがようやく俺を捕まえた。
「ヒロト!本当に何をやっているのですか!このままだと城から追い出されますよ!」
「すまんすまん…でも、体が勝手に動いてまうんや…。」
エリスが何とか俺を部屋に戻した後、真剣な顔で話し始めた。
「どうやらスキル『代打』の副作用には、肉体や精神の興奮状態を引き起こす効果があるようです。」
「いや、なんでそんな大事なことを召喚のときに言わへんの!?」
「おそらく…召喚時の説明が抜けていたのでしょう。」
「おそらく、ちゃうやろ!責任問題やで、これ!」
エリスはため息をつきながら、さらに説明を続けた。
「興奮状態を抑えるには、特定の薬草を使った回復薬を作る必要があります。私が調合しますので、ヒロトはおとなしくしていてください。」
「わかった…でも、これ以上騒ぎたくないから早う頼むわ。」
エリスに連れられて中庭の薬草園に向かう途中、俺はまだ妙な衝動に駆られていた。つい手近な木に登ろうとしてエリスに怒られる。
「ヒロト、そんなことをしている場合ではありません!」
「でも、登りたいねん!木の上から世界を見てみたい…!」
「回復薬を作ってからにしてください!」
なんとかエリスの説得で薬草園に到着し、薬草を摘む作業を始めた。しかし、俺のテンションはまだ下がらず、摘んだ薬草を鼻歌交じりで振り回してしまう。
「ヒロト、それは薬草を傷めるだけです!もっと慎重に扱ってください!」
「はいはい…あ、でもこの草、めっちゃええ匂い!」
「嗅いで楽しむものではありません!」
ようやく薬草を揃え、エリスが調合を始めた。俺はその間もそわそわと落ち着かず、部屋の中をウロウロする。
「少し大人しくしていただけますか?集中できません。」
「ごめん…けど、体が勝手に動いてまうんや!」
エリスが必死で薬を完成させ、俺に差し出した。
「これを飲めば落ち着くはずです。少し苦いですが、我慢してください。」
俺は薬を一気に飲み干した。たしかに苦かったが、数分後には体が徐々に落ち着きを取り戻していった。
「おお…これ、効くな。さっきまでの俺が嘘みたいや。」
「ようやくまともになりましたね。これで次の戦闘にも支障は出ないでしょう。」
「けど、次からスキル使うの怖いな…。またハイテンションになったらどうすんねん。」
「そのために、この薬を常備しておく必要がありますね。」
エリスの冷静な対応に感謝しつつ、俺は次の戦いに向けて心の準備を始めた。
「でも、スキルの副作用がこれって…。やっぱり俺、代打向いてへん気がするわ。」
「その発言、何度目ですか?いい加減覚悟を決めてください!」
エリスの鋭いツッコミを受けながら、俺は改めてこの世界での役割を考えることにした。