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そんな適当な理由で俺を召喚しないでほしい

目が覚めると、そこは巨大な石造りの広間だった。天井には美しいステンドグラスがはめ込まれ、外から射し込む光が虹色の模様を床に描いている。周囲にはローブを纏った人々が神妙な面持ちで俺を見つめていた。


「ここは…?夢とちゃうよな?いや、夢なら今のうちに戻りたいんやけど。」


頭を掻きながらぼやいてると、ローブの中心に立つ初老の男が一歩前に出てきた。


「ようこそ、異世界の勇者様。我々はあなたをこの世界を救うために召喚しました。」


「えっ、勇者?俺が?いやいや、俺なんて絶対向いてへんやろ。ていうか寝起きやぞ。」


状況がまるで掴めない。ついさっきまで昼寝してたはずなのに、気づけばこんな場所にいる。夢かとも思ったけど、周囲の人々の真剣な表情がそれを否定していた。


「待ってくれ。俺なんかやなくて、もっとやる気ある人呼んでくれへん?」


そう尋ねると、初老の男はバツが悪そうに視線を逸らした。


「実は…本来召喚されるはずだった勇者が急病で動けなくなりまして。その代わりとして、つまり代打であなたを召喚したのです。」


「代打…やと?え、俺ってそんなに便利な人材扱いなん?」


なんやその適当な理由は。呆れながらも、自分の体に異変がないか確認する。

特に外見に変化はないが、手の甲に不思議な紋章が浮かび上がっていた。


「これは…?」


「それはあなたに授けられたスキルの証です。名を『代打』といい、他者のスキルを一時的に借り受ける能力です。代打で召喚された勇者様専用のスキルでございます。」


「代打専用スキル…いや、俺、他人のスキル借りてやるとか、なんかズルない?」


そんな不安を抱いていると、ローブの集団の中から一人の若い女性が歩み寄ってきた。彼女は青い髪を揺らしながら、きらびやかな甲冑を身に纏っているが、その表情にはどこか刺々しい気配が漂っている。


「初めまして、勇者様。私はエリスと申します。この国の王直属の騎士ですが…えーっと、本当にこの方で大丈夫なのでしょうか?」


「俺に聞かんといて…てか、初対面でそんな失礼なこと言う?」


「申し訳ありません。ただ、あまりにもやる気がなさそうに見えましたので…。」


「まあ、実際やる気ないけど。」


「開き直らないでください!…はあ、ともかくよろしくお願いいたします。」


エリスは軽くため息をつきながら手を差し出した。


「俺は大和大翔(やまとひろと)。よろしく。」


「それじゃあヒロト、早速仕事ですよ。」


初仕事は、広場を荒らす巨大な魔獣の討伐だった。エリスと数名の兵士に引き摺られ、俺は現場に向かう。広場に到着すると、そこには全身を黒い毛で覆われた巨大な狼が待ち構えていた。


「うわ…こんなん無理やろ…。ってか、なんで俺が行かなあかんねん。」


「勇者様ですから当然です。それにしても、落ち着いてるのか怖がってるのかよくわからないテンションですね…」


エリスは剣を肩に担ぎながら、呆れたように俺を見た。


「いや、普通に怖いよ?怖いしダルい。」


「結構肝が据わってるじゃないですか…。いいから立ち向かう姿勢くらい見せてください。」


「えぇ…じゃあまぁ…やるか…」


右手の紋章に集中すると、頭の中に兵士たちのスキルが一覧のように浮かび上がった。


「剣技『滅閃煌刃(めっせんこうじん)』?これでええか…」


スキルを選ぶと、体が勝手に動き出す。手にした剣が眩い光を放ち、次の瞬間、俺は狼の懐に飛び込んでいた。


滅閃煌刃(めっせんこうじん)!」


鋭い一閃が狼の前脚を切り裂く。予想以上の威力に俺自身が驚いたが、狼も怯むことなく反撃してくる。


「…スキル名が中二病すぎて恥ずかしいんやけど。もうちょっと普通の名前にできひん?」


「文句を言う暇があるなら、次の行動を考えてください!」


エリスの冷静な声に我に返り、次のスキルを選ぶ。


「次は…防御スキル『魔壁絶盾(まへきぜっじゅん)』!」


再びスキルを借り受け、狼の猛攻をかわしながら防御を固める。戦闘が続く中、徐々にスキルの使い方がわかってきた。最終的に、エリスとの連携で狼を倒すことに成功した。


「お疲れ様でした。まあ、思ったよりはやるじゃないですか。」


エリスの気の抜けた声に、俺は深く息を吐いた。


「こんなん、いつまでも続けられる気せえへんけどな。」


「それはヒロトのやる気次第です。」


「俺のやる気っていうか、元から代打なんやし、責任そんな重くないやろ?」


「その発想がまずいのです!代打だとしても、しっかりと役割を果たさなければ意味がありません。」


「あー、俺説教されると眠くなんねん。」


「話をちゃんと聞いてください!」


エリスは全力でツッコミを入れつつも、どこか呆れた様子で俺を見ていた。

そんな彼女に助けられながら、俺はこの異世界での新しい生活をなんとか始めることになった。

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