覚悟
さて、どう攻めようか。あの馬鹿みたいに多い魔力を一気に集め、まず味方の安全を確保する。そのあと封印を再度施すため、あの斎藤実桜という人物がどう動いてくれるかだ。
あいつは聖女の肉体から剥がれた際に、強烈な負の感情を受けたことからそれを力に変えるスキルを手に入れた。その負の感情がどれほど彼女に影響を及ぼすかはわからない。だが、相当強いのはわかる。勝てはするだろうが、邪魔にはなるだろう。出来れば邪魔しないでいてほしいな。
(小僧。お前に一つ話しておきたいことがある)
(なんだ?ベル)
(いや、今回は俺だぜ。俺が話さしてもらう。この話については俺の方が詳しいからな)
(なんでもいいがさっさとしてくんないかな)
(あーはいはい、悪かったよ。じゃまぁ手短に説明するぜ。今日戦ったあのラルクっちゅう少年だが、アイツは感情を力に変える術、「気術」を使っている。主に喜怒哀楽の4つの感情を使い分け、その強さにより技の威力が増す。
さっきお前に放ったのがどれかはわからんが、まぁそういうことだ。感情の操作はどーのこーのって、前にも誰かが言っていたのを思い出してな。それに、レウッドという名前を聞いて思い出した。ありゃ俺の弟子が使ってた技だな)
(弟子の技だったのに覚えてなかったの?!)
(しょうがないだろもう何千年も前の話なんだから。そんなことより、あのレウッドの技使うやつを心配してやれ。あの技は感情をコントロールしなきゃならん。もし何か一つでも感情のリミットが外れてみろ、とんでもないことになるぞ?)
とんでもない事か……。厄介ごとはごめんだし、ここはひとつ真面目に受け取っておこう。俺の部下になったわけだし、しっかり面倒も見なきゃいけないからな。
(わかった、ありがとうルキ。それと、もう一つ聞きたいんだけど)
(なんだ?)
(その感情を使った技っていうのは、俺にはできないの?)
この技がもし物になるのであれば、刀の技と合わせてバカげた威力が出せるかもしれない。完璧でなくてもいい。少しだってできる可能性があるなら、あの封印の対象を再封印じゃなく消滅させることができるかもしれない。
(何考えてるのかわからんが、やるだけなら可能だ。あれだったら俺でもできるしな)
(本当か?なら、俺にそれを教えてくれ!)
(いいぞ、と言いたいところだがこればかりは才能と長時間の鍛錬でしかない。教えることなど何もないんだ。すまんな)
長時間の鍛錬と才能か。……まぁ、それだけわかれば十分か。今までほぼ親の遺伝のおかげで生き抜いてきたようなものだ。これからはしっかり努力しろってことだろう?任せろよ。
才能の無い部分は努力で補ってやる。封印なんてクソくらえだ、やれるとこまでやってやる。それでだめなら再封印に移す。これで行こう。
「りーん、ちょっといい?」
「あぁ、どうした?」
「みんなメンバー決めたから、早速作戦会議をと思って」
「わかった。先に会議室行っててくれ。すぐ行く」
さて、後はみんなにそれを伝えに行こう。懸念点は全部対処して、安全第一だ。
(なぁ二人とも。これだけ聞いておきたいんだが、いいか?)
(どうした小僧)
(なんだ、好きな子でもいんのか?)
(そうじゃない。ただ、聞いておきたいんだ。今の俺があの封印された過去の怪物と戦って、勝てると思うか?)
(……正直な話、勝率は3割だ。祖霊魂転を使って俺やルキをうまい事動かしたとしても、勝率は五分五分。むしろそれ以下だ。いくら片割れとはいえ、今の俺たちでは太刀打ちできないと思うのが普通だろうな)
(俺もそれには同意だ。だがな小僧。やってみなきゃわからないことってもんがあるだろう?俺はな、この勝負にかけてみたっていい気がするぜ。封印の片割れ、4つの分身のうちの一つ。分身であるにもかかわらず強大な力を持つ。勝てる可能性も五分がいい所の相手に挑まないなんて選択し、俺にはないな。
最初は封印しろっていうつもりだったが、ここにきて意見が変わった。小僧、お前の全力を見せてみろ)
(……そうか、わかった。全力でやってやるよ)
まさかルキに背中を押されるとはな。さすがはご先祖様ってわけか。……よし、覚悟はした。作戦を練ろう。
そうして俺はもう一度、大会議室へと向かった。




