もっと強く、もっと側に。
二人に話さないといけないこと。それは、この間兄さんに言われた怪しい組織の話だ。トスノフ教団とかいう名前で活動しているらしいが、兄さん曰くこっちに危害が及ぶ可能性が高いらしい。これでもし二人に何かあったら俺は耐えきれないだろからな。
「さて、二人に話しておきたいことがあります」
「なに、結婚の話?」
「最近俺たちのギルドが巷で有名になったんだけど、それのせいで他勢力に目をつけられるかもしれない。特に、トスノフ教団と言うところが危ないんだってさ。まだなんもされてないからわからないけど、自営だけは怠らないように。
それからもう一つ、この世界に俺たち以外にも転生者、転移者がいるらしいから見つけたら教えてほしい。今のところわかってるのは今日見学に来てた篠川くんって子と、先生だけだから、それ以外にいたら教えて。それじゃ、話はおしまい。明日に向けてしっかり休んでください!それじゃおやすみ!」
とりあえず重要な話はしたし、これくらいでいいだろう。明日やることは、新しく入ってくる人たちにルールを説明する、出来上がったデザインを先生に渡して制服を作ってもらう、あとはずっとやろうと思ってた指輪だな。あれの使い道がいまだにわかってない。刀の方は大体つかめてきたし、前世のおかげでかなり扱えるようになっている。だけど指輪に関してはまだまだ分からん。
母さんに似た魔力が宿ってはいるが、白狼の戦い方は主に接近だし魔力の使い道は身体強化くらいだ。魔法のランプみたいに願いをかなえてくれたりするのだろうか……。まぁそんなわけないか。
……ずっと指輪について考えていたが、懸念点が一つある。亮が真横でわなわなしている。今にも叫びそうな表情でこちらを見ている。……逃げるか?いや、さすがにそうはいかない。今までずっと一緒にいた幼馴染だ。何か理由があるはずだ。
その時、俺の頭に一つの言葉が浮かんだ。
「結婚の話?」
……………………俺の人生終わったかな。完璧に聞き逃していた。というか話す内容について集中しすぎて気にも留めていなかった。なんか言ってるがこっちの方が大事だと思っていた……。
「……り、りん?ねぇ、返事してよ」
「……はい……」
俺はかすれた声で返事をし、亮の目を見た。涙目だった。華を見ると、笑いを堪えながらそっぽm抜いてた。助けるつもりはねぇってか。
「りんさ、君の気持ちはすごくわかるんだよ。僕たちに怪我をして欲しくないっていうすんごい優しい気持ちも伝わってくる。でも……でも、さ?僕が恥を忍んで発した言葉を、さもなかったかのように扱うのは……さすがの僕も傷つくよ?」
目がうるうるしている。もう、今にも泣きだしそうな目をしている。
「す、すいませんでしたぁっ!他勢力の話に夢中になってまったく耳に届いていませんでした!」
「っ!凜のばかぁ!」
感情を抑えきれ亮が俺をぽかぽか殴りだした。うん、全く痛くない。むしろ優しい。
「ほんとごめん。んで、いつまで笑ってるんですか華さんは」
「いやっ、だって……プッ、アハハ!亮がずーっとぷるぷるわなわなしてるんだよ?いつもはあんなこと言わない亮が凜をからかうために言ったのに。もう、可笑しくて可笑しくて」
華が腹抱えて笑っている。雰囲気が一気に明るくなったから良しとしてくんないかなぁ……。
「あの、亮さん?いつまで殴るんです?」
「ずっと」
だめだこれ。もう壊れちゃってる。もう力づくで止めるしかないか。
「ごめんね亮。でも、今日はもう夜遅いからさ。……会話全く聞いてなかったのはほんと申し訳ないけど。また明日話聞くからさ、今日はねよう?」
「……じゃあここで寝るから」
……困ったな。前みたいに起きるのを邪魔されると面倒だ。とりあえず部屋まで運ぶか。
「じゃあ俺が運ぶよ。ほら、行くよ」
俺は亮をお姫様抱っこで持ち上げた。
「きゃっ!」
もう夜も遅い。早く寝ないと明日やることがなんもできなくなってしまう。
「今日はごめんな亮。でも、華もいるし亮もいるしでちょっと困惑してるんだ。だから、またひと段落したら考えるよ」
「……わかった。今日は寝るよ」
「ありがとう。じゃあまた明日ね。おやすみ」
亮を部屋まで連れて行き、ベッドに寝かせて俺は部屋に戻った。さて、とりあえず落ち着いたか。
「凜、ちょっと聞きたいことあるんだけどさ」
部屋に戻ると、座ったままの華がいた。
「どうした?なんかあった?」
「そのさ、他の勢力?ってどれくらい危険なの?」
「どれくらいか……実は俺もよくわかってなくてさ。兄さんに聞いた内容だけしか知らないけど、注意しといたほうがいいよなと思って」
正直、聞いた話だとあの教団がやってることが結構犯罪まがいの事だから気をつけてほしいと思っていっただけだし、何とも言えないからな。
「また、死んじゃうとかないよね?」
「っ!」
そういう事だったのか。華は、前世で死んだことがまだ心の奥底でトラウマとして残っているんだ。まぁそりゃ当然だろう。華と亮を助けるために飛ばしたはずなのに、華を中途半端に飛ばしてしまったせいで、長い時間苦痛を感じてしまったんだから。それに加え誘拐されたんだ、周りから人がいなくなるのがどれだけ怖い事だか、今は華が一番わかってるんだ。
「大丈夫だよ、死にはしない。戦うことにはなるかもしれないけどね。でも、死なないから大丈夫だよ。
転生して、今俺は吸血鬼なんだよ?大丈夫。死なないよ」
「……そっか。凜がそれだけ言うなら、大丈夫だよね。信じるからね」
「おう。もうソロ一緒にいてから20年たつ幼馴染を信じろ。絶対大丈夫だ」
「わかった。私もう部屋に戻るね、おやすみ」
「うん、おやすみ」
華が部屋を出るとき、さっきの暗い表情は少しだけ明るくなっていた。普段あんな顔を見せないからこそ、さらに心配になるんだよな。こればっかりは気にしたってしょうがないとは行かない。
華が心配しなくてもいいように、もっと二人のそばにいて、もっと強くならないといけないな。




