理由
「手合わせありがとうございました」
ギルド内ツアーも終わり最後の組を解散にさせた後、さっきの少年が声をかけてきた。
「おー、さっきの子じゃん。そうそう、ちょっと聞きたいことがあったんだけどいいかな?」
もちろん、聞くのはさっきの乱桜流の話だ。まぁこの子もわかってるだろうな。
「まず名前とクラスは?」
「篠川 瑠衣と言います。1年Aクラスの出席番号16番です」
同い年か。まぁ俺らより年下の人たちはいないからそりゃそうなんだけどさ。あとは、どこで剣術を知ったかだな。
「篠川君はどこであの剣術を知ったの?」
「元居た国で、道場の師範に教わりました。独り立ちしてもやっていけるようにと」
……おそらく、と言うかほぼ確定で元居た国と言うのは日本だろう。そして、その剣術を教えたのは俺の祖父だろう。俺が前世で生まれた家は武家の家系らしく、代々続く武術の伝承のため道場を開いていた。門下生もそこそこいたし、俺も一緒に鍛えられてたからそこで友達を作ることも多かった。
「……今日、なんで俺に対戦を挑んできたの?」
「それはなんとなく、あなたが一番強そうだったからです。自分は魔力探知が得意なんですけど、その中でも一番魔力を感じませんでした。もはや無いかのように見えてましたし」
なるほどな。確かに最近、魔力量がアホ程増えてきて隠す必要が出てきたからめちゃ抑え込んでるけど。
抑え込みすぎも逆に問題かな。
まぁ一旦置いといて、もう聞いた方が速いな。面倒だし。
「君の元居た国っていうのは、日本で会ってる?」
「日本を知ってるんですか?」
「知ってるも何も、俺もそこ出身だし。何なら、うちのギルドメンバーの中にもいるよ。あ、これ内緒ね?」
あんま気軽に言わないほうがいいのかもしれないが、もう言っちゃったしな。それにこれくらいなら大丈夫だろう。
「日本出身なのにめちゃめちゃ犬みたいな尻尾生えてますけど、それはいつからなんですか?」
「あぁ、これは転生したからだよ。篠川くんは違うの?」
「はい。自分は日本で学校の校外学習の時に山登りに行って。その時に雷に打たれたんですけど、それが神様の手違いだったらしくて。それで、同じ世界で生き返らせるのはなんか無理だから肉体と魂一緒にこっちに転移させることになって、その時に身体能力をすんごい底上げしてくれたり結構バフをもらったおかげで何とか生きてます」
「そういう事だったのね。まぁ大体わかったよ。それで、篠川君はうちに入るの?」
「はい。問題がなければすぐに入ろうかと」
「そうか。こっちとしても、優秀な人間が増えるのはうれしいから、歓迎するよ。じゃあ、また今度」
「はい、失礼します」
そういうと篠川君はそのまま寮の方へ戻っていった。さて、皆気になっているだろうから詳しく話そう。
なんで俺が乱桜流の剣技を使えるのかについて。
さっきも言った通り、俺の家は武家の家系だった。そこそこ強い人だったらしい。まぁそうじゃないと剣術の伝承なんてしないだろうしな。それで、伝承によって伝えられていたのがさっき言ってた乱桜流ってやつだ。型は全部で十個くらいだったかな。大体それくらいあって、すべてを習得するのに10年はかかるらしい。
小さい時からずっと家に帰ってほぼ毎日おじいちゃんに型と動きを叩き込まれていた俺は、高校2年生の時にはもうすべての型を網羅していた。だから、篠川君の剣術にも余裕で対応できた。まぁ六の型を出されたときは少し焦ったけどね。
まとめると、前世の道場で俺が習っていた技をあの子が知っていて、俺と近いレベルまで鍛えられていたってわけだ。
「神様は何がしたいんだろうな……」
神は気まぐれと言うが、本当に何を考えているのかわからないな。
「凜、あの子と何話してたの?」
「あぁ亮。あの子転移者らしくてさ。それも、あの道場にいたらしい」
「あの道場て、乱桜流の?!」
「な。俺もびっくりだよ。でも、あそこまで刀の扱いが上手な子見た記憶ないんだけどな」
いくら前の話とは言え、さすがにあのレベルだったら覚えてると思うんだけどな。まぁ気にしたってしょうがないか。
「亮、今日はもう部屋に戻って寝ようか。あの子と話してる間に結構時間たっちゃったし、もう9時を回る。ちょっと話したいこともあるし、先に俺の部屋に行っててくれないか?」
「えーっと、凜。それはお誘いだと思っていいのかな?」
「お誘い?なんの」
「……もういい!部屋にいるからね!」
「わかったわかった!悪かったって!でも今日は二人に話そうと思ってることがあるから、今日は勘弁してくれ。な?」
「……わかった。約束だからね!」
そういうと亮は鼻歌を響かせながら部屋へ戻っていった。……勘弁してくれ。俺にはまだ二人と、そういうことをしようとする度量がない。だから、二人とも。もう少しだけ待っててくれ。




