乱桜の剣士
「えーっと、凜さ。これは予想してた?」
「……ごめんなさい。ここまでだとは思ってませんでした」
包み隠さず正直に言おう。本当にここまでとは思ってなかった人数が来た。多分、渋谷のスクランブル交差点とかでしか見ない人込みといっても過言ではないと思う。。にしてもこの量、今日中に終わらせられるか……?
「とりあえず、やるしかないな。華と亮以外は大体100人ずつギルド内ツアーをしてくれ。その二人は待ちで並んでる人の整理と見学の列と体験の列に分けてほしい。じゃあ、各自で開始!もし体験で喧嘩吹っ掛けてきたら、もう人多いし時間無いからぶっ飛ばしても良しとします!」
「「「「「おう!」」」」」
さて、まずはギルド内ツアーだ。ゆっくり歩きまわってギルドを一周するのに約10分ほど。ここまで人数が多いと倍は見ておかないとな。じゃあやっていくか。
それから俺たちは、とにかくハイペースで回すために全身フル稼働で働きまくった。華と亮は下で列を整え、百人ごとに区切りをつける。見学の中から訓練室でタイマン張りたいってやつが2組に3人くらいは現れたが、大衆の目の前で容赦なくギルドメンバーにボコされていたのを目撃した。……まぁ、許可出しちゃったし。しょうがないよね。
稼働し始めてから約3時間、もう空も暗くなりはじめ、人数もだいぶ減った。残るはあと一組と言うところまで行き、最後の担当は俺になった。
「では、ただいまから最終組のギルド内ツアーを始めさせていただきます。長らく待っていただき、誠にありがとうございます。まず入ってすぐ一回が……」
まぁこっから先は前やった説明とほぼ同じだ。それを繰り返し、部屋説明を終えて体験がしたい奴がいるかどうか確認した。その時だった。
「はい、俺ちょっと体験してみたいんですけど」
手を上げたのは一人の少年だった。見た目は黒髪黒目、いわゆる、純日本人と呼ばれるような子だ。
「ああ、この組が今日で最後だし、あとも詰まってないから自由にするといい。じゃあ、訓練室に移動しようか」
「はい、お願いします。それで、一つだけお願いがあるんですけど」
「ん?なにかな」
「俺、あなたと手合わせしたいんですけど、いいですか?」
……まさか最後に回ってくるとは。この疲労困憊な肉体の中、やり合えってのか?死んでも知らんぞお前。とか言いそうになったが、とりあえずやらないと終わらなそうなので承諾することにした。
「あぁ。別に構わないが、なんで俺を指名したのか理由を聞かせてもらえるかな」
「それは、俺と戦ってみればわかると思います」
「……なるほどな。いいよ、やろう」
不思議な子だ。おそらくあの子は俺が転生者だということに気づいている。なぜ、どうやったかはわからないけど、なんとなくわかる。それに、あの子には魔力が感じ取れなかった。魔力が全くないように見せることは不可能じゃない。と言うかできる。俺や兄さん、父さんだって常日頃魔力を垂れ流して生きているわけじゃない。
ちゃんと0に見えるようにしている。それでも微かに揺らいでいるのがばれることはある。だが、あの子にはそれを感じない。魔力吸収で吸い取ってみてもいいが、不審な行為で違和感を持たれたくないし辞めておこう。
まぁそんなこと言いながらついたけど、結局戦えばわかるってことらしいし、戦うしかないんだろう。
「じゃあ、いつでもどうぞ」
「わかりました。……行きますよ」
刹那、空気が変わる。その子が構えたのは、かなりサイズも大きく、身の丈に合っていない太刀だった。だが、問題は武器ではない。その子の構えだった。
「乱桜流 一の型 零桜」
その太刀筋は、想像を絶するほどの速さで俺の首を落としに来ていた。まさに初見殺しと言うべきだろう。この一撃は、俺以外が相手をしていたらほぼ確実に死んでいた。……そう、俺以外だったら。
俺は以前、この技を見たことがあった。話すと長くなるから、一旦パス。まずはこの子を倒すことが優先だな。
「……なんで、受けれたんですか?」
「いや、なんでって言われてもなぁ。受けれるから受けた。ただそれだけだよ」
当然だろう。構えからして一撃で首を落としに来てるし、殺気が駄々洩れてる。そんなんじゃ、いくら
初撃が速くたって簡単に防げてしまう。もっとも、亮がギリ反応できるかどうかだろうけど。
「……そう、ですか。結構です。次で決めましょう」
「そうだな、そろそろ時間だし。どうせなら俺も刀使おうかな」
久々にこの刀使うな。錆びてないだろうか。まぁ魔剣だし問題ないだろうけどさ。
「じゃあ、行きますよ」
「いつでも来い」
久々に刀をしっかり構えた気がする。昔父さんから教えてもらった技じゃ、この子の相手にはならないだろうな。……使うなら、同じ乱桜流だ。
刀を構え、数秒間の沈黙が流れる。周りの観客も息をのみ、完全に見入ってしまっている。
やるしかない、行くぞ。
「乱桜流 六の型」
「乱桜流 四の型」
「夜桜狂咲」
「桜影」
相手の動きをみて一瞬で出す方を変えたが、ギリ間に合ったみたいだ。今あの少年が出した型は連撃で、初手の振り下ろしからすぐに斬り上げ、そこで間合いを詰めて腹をバッサリ行くという技だ。それを返すには、この四の型を使うしかない。
四の型 桜影。敵の技を見切り、完全なカウンターで返す技。刀で受けた勢いをそのまま利用し、すべての斬撃を敵に反射させる。特に六の型との相性がよく、連撃すべてを受ける前に初手の振り下ろし動作で敵に大ダメージを与えれる。
「俺の勝ちだ」
綺麗に入ったカウンターは、少年の首を斬る寸前で止まっていた。
「いやー危ない、一歩間違えれば死んでたな。何はともあれ、無事でよかった。お疲れ様、少年」
周りから歓声と拍手が鳴り響き、オーディエンスの興奮が収まるまで少し時間がかかった。
にしても、この少年いったい何者だ?あとで詳しく話をする必要がありそうだな。




