人が多すぎる
「……どうなった?手ごたえはあったか?」
「うん、確かに直撃したはず……。なのに、この威圧感はなんなんだろうね。さっきとは全く空気が違うよ」
どうやらアルスは勘が鋭いらしい。血力解放を使って能力を多少底上げはしたけど、この能力は自身の魔力にかなり依存するから魔力覇気と相性がいいだけ。おかげで少し上乗せするだけで魔力覇気の威力がバカみたいに上がるんだ。
「中々いい戦術だ。氷を使えるのはアデリーナだけだと思ってからフロスト・コアが来たときとグレンの技が来たときは正直焦ったよ。特にグレンのアイス・ブレイク。あれは魔力覇気を氷との衝突で破って氷の付与が外れたマグナム・ブレイクが俺に当たるようになってた。……めっちゃ面白いことするな、お前ら。
だけど、ちょっと惜しい。頭使いまくるのもいいが、3人同時攻撃的なのもあるといいかもな。例えば、今のフロスト・コアの時にアデリーナはアイスフィールドをもっかい発動させて身動きを取れなくするとかさ」
「ご指導感謝するわ。けど、そんな余裕ぶってて大丈夫?私たちはまだ3人だから余力を残しているけれど、あなたは全ての攻撃を一人で捌いている。もう体力ないんじゃない?」
舐められたもんだなぁ……。戦いを挑んできたのはそっちなのに、俺の事をどんだけ甘く見てんだか。
まぁ、こういう作戦かもしれないけどさ。
「気にしなくていいよ。こっからは俺もちょっとためしたいことがあるから」
まぁ試したいことって言っても、単純な肉体強度で俺がどこまで戦えるかってだけなんだけどね。魔法やら身体強化やらを一切使わず、さっきのグレンたちをねじ伏せることができるかどうか。
まずはグレンか。硬い奴から潰していった方が後が楽だろうな。俺の中に流れる白狼族の血が、どこまで目覚めるかの実験だ。あんまガチでやるつもりはなかったけど、一回切り替えよう。
「今から俺は、魔法や身体強化、吸血鬼の力を一切使用せずに肉弾戦で戦う。覚悟しておけよ」
さて、こっちのモードで本気出すか。
「移行・モードフェンリル」
さっきまでは魔力などの扱いをメインに動いていたが、それは全部捨てる。まずは速攻、グレンから潰す!
「白狼之一撃」
瞬時にグレンの目の前まで移動し、腹部にめり込むように掌底を打ち込む。
「……は?」
グレンは何が起きたのかわかる様子もなく、打ち込まれた掌底の勢いで壁に吹っ飛んだ。
「グレン!くそ、聖級 水魔法 水牙轟刃!!」
俺はアルスの攻撃をそのまま弾き飛ばし、直ぐにアルスの裏に回り首に一撃入れようとした。その時だった。何かに足を取られた。
「かかったね、アルフレッド君!」
アルスは事前に俺が裏を取ると考え、真後ろに沼を作っていた。これを魔法無しで抜け出すのは難しいな。足首まで飲み込んできているし。一旦抜け出すか。
「逃がさない!氷砕細剣!」
「あっぶな!」
間一髪のところで沼から抜け出し、アデリーナのレイピアを躱す。もうめんどくさくなってきたな。このまま一撃で仕留めるか。
「二人とも、構えろよ」
大体半分くらいの力で踏み込み、アルスの目の前に移り回し蹴りを当てる。勢いで吹っ飛んだアルスはグレンに重なるようにして倒れていた。
「くっ、アイスフィールド!」
高く飛び上がり、そのままアデリーナの体を持ち上げてフィールドの範囲外に出た。
「そこまで!勝者 凜」
「ふぅ、お疲れ様。アデリーナ」
「な、ななな、なんなのだこれは!は、速く降ろせ!」
「あれ、お姫様抱っこ知らない?」
アデリーナがかなり動揺している。これはこれで面白いな、また今度いじってやろう。
「コーラー、凜~?ほかの女の子に手出すつもり?」
「はい、ごめんなさい亮さん。朝くすぐり攻撃で窒息させたのはほんとに謝ります」
「そういう話をしてんじゃない!まぁいいや」
にしても、グレンとアルスは一体いつまで伸びてんだ。
「おーい二人とも、そろそろ目覚ませー」
「……ぁ、俺は負けたのか?」
「あぁ。盛大に吹っ飛んでな」
「……そうか、やっぱ敵わないか」
最初から勝てると思ってなかっただろって言いそうになったが、野暮なことを言うのはよそう。それよりも、早くギルドの事を進めないと。
「じゃあ全員、体が回復したら自分の仕事を済ませること!16時以降は体験やら見学の子がいっぱい来るぁも知れないからそのつもりで!3人ともいい戦いぶりだったよ。またやろう」
「……私はもうこりごりだわ。まさか…………お姫様抱っこされるなんてっ!屈辱でしかない!」
「はいはい、悪かったよ。じゃあまた夕方な」
俺はそのまま部屋に戻り、兄さんに会いに行った。
「お疲れ、アル。3人はどうだった?」
「まぁ強かった。華と亮が全力でやったら勝てるくらいだと思うよ。聖女の力と勇者の力をしっかり合わせることができれば余裕だろうけど、今はまだ無理だろうから」
「そうか。あ、忘れてた。これを渡したかったんだ」
そういうと兄さんはマジックボックスからポスターのようなものを一枚取り出し、俺に渡した。
「これ、チラシな。学園の寮にも貼らせてもらって、朝からいろんな人が目を通してたよ。かなりの人気が出そうだな」
デザインもかっこよく、現代で見る映画のポスターのように見える。いったい誰に書いてもらったのか……。そうとう凝ったイラストだな。
「ありがたく使わせてもらうよ。それじゃ、俺は一旦夕方まで休もうかな。多分忙しくなるだろうし」
「あぁそうしろ。そのためにクロハをここに連れてきたんだから」
「主、マッサージさせていただきます」
……いやな予感はしない。何だろう、前よりおとなしくなったな。
「じゃ、お願い」
俺はクロハのマッサージを受けながら、もう一度眠りについた。
そして、ギルド開始の16時。
「……なんっじゃこりゃぁぁぁ!!」
外にひとごみができていた。うん、マジで人がごみのようだ。
「これは、少しまずいことになって来たぞ……」




