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閑話 華の過去

今回は「華視点」でお楽しみください。


 凜が寝てから数分が立った。使った食器を片付け、テーブルにはまだみんな残っていた。


「ダンジョンとか色々あったけど、全部何とかなりそうだね。でもなんか、よくよく考えると全部凜のおかげな気がしてきちゃった……」


「そう思うのもわかるわ。彼は強いだけでなく、ギルドの事もほとんど一人でこなしているし、料理だって今日作ってもらっちゃったし……」


「アデリーナ、もしかして彼に惚れてる?」


「バッ、バカ言わないで!私は決して誰かを好きになるとか、そういうのないから!もうっ!私寝るから!」


あんなに焦ってるアデリーナ初めて見たな……。やっぱり凜ってモテるのかなぁ……。もう気が気じゃない。好きで仕方ないし、告白だってOKされたのに。二人お嫁さんを持つのは、亮だから許しただけだし……。


もしこれから先でほかの女の人にとられちゃったらどうしよう……。


「華、なんか悩んでるの?」


「うーん、いつかほかの人に凜とられちゃったらどうしようって思って」


「大丈夫でしょ、凜だよ?というか凜も同じこと思ってるんじゃないかな」


「そーかなぁ……。そうだといいなぁ」


凜が同じこと考えてくれてると嬉しいんだけどな。まぁそうじゃなくても、私が追い続けるのは凜だけだし、他の人なんて一切興味ない。と言うか凜が完璧すぎるんだもんね。凜が悪い。うん、凜が悪いんだ。


「華、ちょっと顔キモイよ」


「ヘ?あぁいや、ごめんごめん」


「にしても、凜も物好きだよね。僕たちみたいなのを助けるなんてさ」


「そうだよね~、懐かしいねそれ。私はもう忘れかけてたよ」


そう、私たちは凜に救われたんだ。凜がそれに気づいてるかどうかはよくわかんないけど。小学生の時、私たちはまだお互いの事をよく知らなかった。まぁ近所にいる男の子、女の子って感じだったと思う。


印象がガラッと変わったのは、小学校3年生のころだった。そのころ私は無口で、一人で本や漫画を読んでいるタイプだった。好きな漫画のキャラクターを書いたり、図書室でいろんな本を探したりして、あまり友達も作っていなかった。それが原因だったのかもしれない。クラスの端っこで絵を描いている地味子は、カースト上位のDQNに目をつけられてしまった。


その日から、陰湿ないじめが始まった。登校中石をぶつけられたり、キャラクターを書いていた自由帳をびりびりにされたり。物心つく前から両親を亡くしていた私はおばあちゃんに相談しようとしたが、ただでさえいっぱい迷惑をかけてしまっているのにこれ以上心配させたくないと思い、ずーと一人で抱え込んでいた。


 それからの日々は地獄のようで、DQNのいじめにただ耐えるだけの日々だった。泣きながら

「ごめんなさい、ごめんなさい……」ってずっと言ってた。そしてある日、私は校舎裏に呼び出された。

今日死んじゃうのかななんて思ったりもした。むしろ死んだ方が楽なんじゃないかと思うほど、私の心は廃れ、壊れかかっていた。その心を治してくれたのが、彼、最上 凜だった。


 

 雪の降る中、校舎裏に呼び出された私は怯えるようにしながら外へ出て言った。寒い冬の水曜日、着てきた上着を奪われた私の手は凍え、頬は焼けるように痛かった。


 「あ、あの、上着、返してほしいんだけど……」


「はぁ?何言ってんの?これ私の何ですけどー?」


本当におんなじ小学生なのか疑った。それほど、私からしたらうざったい存在だった。


「で、でもそれおばあちゃんがくれた大事なものだから……」


「知らないし、そんな大事な物学校に持ってくる方が悪いでしょ!」


DQNは上着を思い切り地面に投げつけ雪と土にまみれた靴でぐちゃぐちゃに踏んづけた。取り巻きもそれをまねて、私の服を踏みにじった。


「やめてよ……それ、大事な奴なんだってば……」


「へー、大事なんだー、じゃあこんだけ汚れててもその服着れるよね?大事な物なんだもんね?」


私は黙って服を着ていた。寒かったからじゃない。邪魔だからでもない。それは、ただただ無力な私にとって最大限の抵抗だった。でも当然、その姿に腹を立てたDQNは私の胸ぐらをつかみ、思いっきり殴ろうとした。その時だった。


カキィィィィィン!!と、ボールが撃たれる音が聞こえると同時に、


「危なーい!」


と言う声がが聞こえたが。その直後だった。


バコン!!と、DQNの頭に軟式球が直撃した。


「ぷっ……」


あまりのすがすがしさに思わず笑いだしてしまった。でも、これで良い。もう私にできる抵抗はした。これで死んだって、私は気にしない。


「お前ぇぇぇ!なに笑ってんだよブサイク!!」


DQNは助走をつけて私を殴り、またもう一発、殴ろうとした。その時だった。


「何してんの?それいじめだよね?」


誰かの声がした。凜の声だった。


「は?いじめじゃないし、てかあんた誰?気持ち悪いからさっさとどっか行ってよ」


DQNはいじめじゃないと言い張り、凜を追い返そうとした。でも凜は一歩も引かず、こう言い放った。


「それがいじめじゃないなら、これもいじめじゃないよね」


直後、DQNの体が吹っ飛んだ。凜が全力で殴り飛ばしたのだ。男が女を殴る、絶対あってはならない状況を私は見てしまったと思った。


「俺の友達をいじめたんだ。絶対に許さないからな」


そう言い放ち、凜は私の手を引いて「行くよ、華」と言って私を家まで連れて帰った。


この瞬間、私をいじめから救ってくれた瞬間から、私は一生この人のために生きていくって誓ったんだ。

だから私は凜がどうしようと気にしない。まだ迷惑をかけてしまっているし、また助けてもらっちゃったから、ゆっくり恩返ししていこうと思う。


いつか、私たちが結ばれることを願って。

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