ダンジョン
「というわけで、先生。明日の朝8時に正門前に集合でお願いします」
「了解しました。C級とは言え、ダンジョンです。今日はしっかり休んで、明日に備えてください。では、また明日」
俺は先生に明日の予定を伝え、部屋に戻った。
(さて、小僧。少し話があるんだが、いいか?)
唐突に吸血鬼とフェンリルの始祖の声が脳内に響いた。
(あぁ、なんだよ。体に異変でも見つかったか?)
(いいや、それはないから安心していい。問題はそこではなく、あの教師だ。あいつはただもんじゃねぇぜ?)
俺も薄々感じてはいた。先生から感じる魔力は、普通じゃない。聖女や勇者と同じような、少し変わった性質がある。それが何なのかは俺もわからないが、何か違うことは確かだ。
(お前も感じてたか。あれは多分、探索者だ)
(なんだそれ。探索者?)
(エクスプローラー。その本質はダンジョンに潜ることで発動する特異体質のようなもので、とても強大な力を秘めている。簡単に言うと、ダンジョン内にいるときだけ覚醒する能力だ)
なんでダンジョンだけ?って思ったが、なんとなく納得がいく。ダンジョンはまだ謎が多く、解明されていない点がほとんどだ。その中で、聖女や勇者と同じようにダンジョン内の魔物は魔力の質が変わる。
勇者は特筆して変わっていることがあるわけではないが、聖女は神聖力という物がある。それと同じように、ダンジョンの中には特殊な魔力が流れているらしい。俺はまだ行ったことがないからわからないので正直わくわくが収まらない。
(おいおい、興奮するのはいいがしっかりしてくれよ?明日行くのはお前なんだからさ)
(はいはい、わかったよ)
正直何に気をつければいいのかわからないが、まぁ。頑張るとしよう。
「皆さん、おはようございます。今日はⅭ級ダンジョンの攻略、支援兼監視のために私もついて郁子ことになりましたので、どうかよろしく」
朝になり、全員が遅刻せずに集合した。朝一にいたのは先生で、荷物も万全を期しているようだった。
Ⅽ級ダンジョンだからと言って甘く見てやらないほうがいいと、現状で語っている感じがする。
俺たちはそのままⅭ級ダンジョンのある山、カプティナ山へと向かった。到着するとそこは、かなり濃い魔力で覆われていた。魔力の濃度は俺もあまりよくわからないが、ダンジョンはそのほとんどが特殊な魔力で形成されているため、実態はよくわからない。……そう思っていたのだが、今、何が違うのかわかった。
特殊な魔力の正体は、ダンジョン特有の高濃度の魔力だ。ダンジョン内で圧縮された、魔力は、探索者と呼ばれる人たちにとある影響を及ぼす。それは恐らくドーピングと同様で、その高濃度の魔力に耐えうる肉体や魔力耐性、さらには魔力操作や出力の上昇など、様々なバフを掛けられるのだ。
(多分、そういう事だろ?始祖様たち)
(小僧、化け物か?なぜわかった。いや、魔力強奪か。やれやれ、小僧だけは敵に回してはいけないようだな)
吸血鬼の始祖様の言う通り、俺は魔力強奪を発動し自身の中にある魔力と何が違うのか比べていたが、よくよく分解していくと魔力とさほど変わりはない事が分かった。ダンジョン内の高濃度魔力は通常の魔力の約6倍。つまり、探索者の人たちの能力はここ、ダンジョンにおいては通常の6倍になるのだろう。
「いやはや、久しぶりに来ましたが、かなりわくわくしてまいりました。ではさっそく、カプティナダンジョンへ潜りましょう」
そういうと先生は、少し速足で受付まで行ってしまった。
「さぁ、俺たちも行こう」
「「「「「「応!」」」」」
全員が俺の声に呼応し、活気がみなぎる
さて、人生初ダンジョンの攻略スタートだ。




