ギルド設立②
とりあえず、考えたギルド名をみんなに聞いてみないとな。全員名前に興味ないし、どうしようもないというか多分流れで決まりそうだけど……。まぁいいか
「てなわけで、名前は境超の英雄にしようと思うんだけど、どう?」
「私としては全然いいわよ。名付けた理由も納得がいくわね。この前みたいな差別発言をしてくる人間を見返すことができそうだし」
アデリーナがそういうと、ほかの皆も口々に頷いた。そうして名前は境超の英雄に決定し、俺は先生にギルドの設立を伝えるため職員室へと向かった。
……どうしよう。道に迷った。職員室は2階で、Sクラスの教室の真下だったはず。職員室の大きさはそこそこでかいため、迷うのはまじでほんとレアケースだろう。にしても、この感じ。入学式の時のような、違和感。直後、視界が悪くなる。前回と同様、アルバートならいいのだが。
魔力感知には微かに反応がある。本当に微かだが、気配を隠して俺をつけていたようだ。
「そこに誰かいるんだろ?出て来いよ。まさか不審者じゃないよな?」
「いやぁ、やっぱりばれちゃったか。驚かせてごめんね?アルフレッド君。今回は少し君に用事があってね。会わせたい人がいるんだ」
そういうと、アルバートの真後ろから一人の女の子が現れた。それは、前回アルバートが化けていた子だった。薄々感づいてはいたが、その予想は的中したようだ。彼女は、聖女のうちの一人だ。
聖なる女神の寵愛を受けし人物。大陸に3人しかいないといわれ、その一人は華、もう一人はコルジオの姫ノエルだった。その二人からは、同様の魔力が感じられる。いいや、魔力ではないか。神聖力とでも言うべきだろうか。魔力と似たような性質を持ちながら、その効力は魔力の数倍、数十倍になることもあるのだとか。そして、その力は聖女にしか操れない。
神聖力は、全体のバフやヒールに特化していることが多い。魔力で強化するよりもかなり効率がよく、
過去に大きな戦争があった時、大活躍したそうだ。そして聖女は、大陸で一番栄えている国に誕生するようだ。そのため、ここルーシアに二人いるのだろう。
まぁまだこの子が聖女だと確定したわけではないけど、それと似た力を持っていることは確実だ。
「それで、何の用だ?そこの女の子に合わせたいって、お見合いなら遠慮しておくよ?」
「お見合いなんかじゃない。それよりも、もっと大事なことだ。少し長くなるからね、僕の力を使って
僕ら以外の時間の動きを止めているのさ」
まさか、そんなことが可能だとは思はなかった。だが、思い当たる節がないわけじゃない。この間の
ギルド体験で戦った時、アルバートだけ音を立てず俺の背後に回っていた。あの時、この技を使っていたんだろう。中々使うのに苦労するの力何だろうが、使いこなしたら勝てる人間は居ないだろう。
「それで、用件は?」
「この子のもう一つの存在を知っているかい?というか、知っているだろう?」
「心当たる節はないけど。そんな美人で力抑えてない人が目の前に現れたら、忘れようにも忘れられないと思うし。その子が聖女なんだとして、もう一つの存在っていうのが聖女に当たるのであれば、すでにあったことはあるけど」
「いいや、ほかの聖女じゃない。まぎれもなくこの子だ。君はコルジオを救った時、何か変わったことはなかったかい?」
「変わったことって言ったってなぁ……」
ぶっちゃけこっちの世界のほとんどが変わってるっていう認識だから、何とも言えん。一つ挙げるとすれば、不思議な女に会ったことだ。
「そういえば、魔力量はそこそこの女に出会ったな。そいつは魔導皇国側っぽくて、最後灰みたいになって消え去っていったよ。おんなじ感じの魔力がかなり遠いところで感じられたから、死んではいない」
「その人の魔力って、こんな感じだったかい?」
そういうと、アルバートは手元に魔力覇気を発動した。その魔力はまさしく、その時であった女とまったく同じ物だった。いったいどういう事だろうか
「……少し、詳しく説明願えるか?」
「えぇ。そのつもりよ。少し長くなるけれど、許して。時はさかのぼって、3年前。ローズ・レイン東区領主の家で聖女として生まれ育った私は、その聖女という立場のプレッシャーや重労働に耐えきれず、家を脱走したの。
でも、私はまだ聖女押しての力を使いこなせていない、未熟な肉体。だから、家出しても一人で暮らせるほどの力はなかった。
思い切りで家出してしまった私は、そのまま外の森に迷い込んでしまった。そこで待っていたのは、
ミノタウロス。私はその巨体から振るわれる斧になすすべなく殺されると思っていたの。でも、その瞬間
私の中から黒い心があふれ出した。
なんで私が死ななきゃいけないの、なんで私が聖女なんかやらなきゃいけないのっていう感情。
その黒い感情が私の中で増殖し続け、それはもう一人の私の人格を作り上げた。その人格は私よりもはるかに強く、ミノタウロスを一撃で葬り去ってしまった。そして彼女は即座に私の目の前から消え去ってしまった。私の聖女の力を奪ったまま……ね。」
「なるほど。大体つかめてきたぞ。黒い感情から生まれたもう一人の人格があの女で、聖女の力を取り返したいから手伝ってほしいってこと?」
「その通りだ。これは、君にしかできないものだと考えての願いだ。頼むアルフレッド君。彼女を救ってくれ」
「……いやだ」
俺は、この子に聖女の力を返してしまうのは危険だと思った。だって、周りからの圧や仕事の重責に耐えれず逃げだした結果こうなってしまったのに、そのつらさを知っている人にもう一度聖女になれというのは鬼畜にもほどがあるんじゃないだろうか。
「理由は……聞かなくてもわかる。そう答えるのはわかっていたからね」
「あぁ。聖女の力を奪い返すのは簡単だが、その子にリスクがありすぎる。この件はいったん保留んしておいてくれるか?」
「あぁ、わかったよ。でも、決断するならあるべく早めにお願いしたい。この子の力も、そう長くはもたないだろうからね。持ってせいぜい2年だろう。頼んだよ」
「あぁ。じゃあ、またな」
そういうと聖女とアルバートは霧の中に消えていった。そして俺はそのまま職員室に向かい、レン先生にギルド設立について説明しに行った。