始祖の吸血鬼との会話
「まぁ座れ。私はあの馬鹿みたく力づくでやるつもりはない。何なら、主導権の話だってそこまで興味がないくらいだ。だが、どうしてもやらなければならないことがあるんだ。そこで、交渉だ。私とそこの馬鹿の魂を君の体の中に宿らせてはくれないか?」
……。終始何言ってんのかさっぱりだった。いや、言いたいことはわかるんだけどね。まず第一に、あの馬鹿を止めてくれよって話じゃん。そしたらこんな無駄な時間過ごさなくてよかったのに。それにどうやって宿らせるんだよ!こっちの負担考えてくれてんのかな⁉って思ったわ。まぁでも、悠長なことを言っていられるような雰囲気じゃないのは確かだ。さて、どうしたものか……。
「正直に話そう。別に、私やそこの馬鹿が主導権を奪い取らなくても勝てる方法はまだあるのだ。だが、勝てる確率があまりない。あって30%、少ないと0,5%にも満たないのだ。そのような絶望的な案を踏まえたうえで、問おう。君はこの世界を救うために、君の周りの人間を救うために。自らの命を投げ出す覚悟はあるか?」
俺は迷うそぶりも見せず言い放った。
「ある」
「ほう、即答か。よほど自信があるようだが、それは一体どこからくるのだ?君は今、フェンリルに勝ったつもりでいるだろう。だが、それは君がこの空間の条件に気づいたからだ。ならば、外の世界で戦った場合どうなる?」
まぁ、普通にぶっ飛ばされて終わりだろうな。今回はたまたまうまくいっただけ。これが本当の戦いとなった時、始祖の二人が戦っても勝てるかどうか危うい強敵に、俺は勝てるのだろうか。
……俺は何を恐れている?何に迷っている?勝てるかわからない?ふざけるな。最悪のケースはあるかもしれない。でも、それを考えたからと言って何になる。俺には、亮と華という仲間がいるじゃないか。あの二入のおかげで今の俺はある。その二人のために、こっちでお世話になった人のために戦うだけだ。それ以上でも以下でもない。
「なるほど。恩返しのようなものか。力を人を守るために使いたいと。素晴らしいな。さすがは我が子孫だ。だが、このままでは君は負ける。確実に。そこで解決策だ。もう一度言う、私たち始祖の魂を君の体に宿らせてはくれないだろうか。方法や実行は全て私が行う。だから頼む」
気持ちだけじゃどうにもならないこともある。それを今痛感させられた気がした。いくら口で語ろうとも、実力は変わらない。でも、やるしかないんだ。
「わかった。こればかりは俺が意地を張っても仕方がない事だ。宿れせるということで手を打とう」
「あぁ、ありがとう。ではすぐに行わせてもらうぞ。おい馬鹿、さっさと起きろ。そしてわが子孫よ。こっちにこい。今から魂の合成を行う」
俺とフェンリルがヴァンパイアの真横に立った瞬間、俺を中心に二人が俺の中へと吸い込まれていった。直後、俺の体が光り輝き、力に満ち溢れているような感覚になった。おそらくこれでよいのだろう。
「よし、成功だ。では今日はもう戻るとよい。また起きたら驚くことになるだろうが、大丈夫だ。では、またあとでな」
吸血鬼はそう言い放つと、白い霧の中へとフェンリルを連れて消えていった。