イーリア国立学園に行きたいけど
「ふぅ、やっと着いたね……」
「あぁ。やっぱ馬車も車もそうだけど座りっぱなしだと体動かなくなるよな。にしても体が痛い……」
「振動もすごかったし、何より椅子が木でできてるからね。長距離の移動は馬を休めなきゃいけないし、
まぁ色々仕方ないよ。それより、速くいかないと制服とかもらい損ねちゃうよ。いそごう?」
「あぁ、そうだな。速くいこう」
馬車旅も中々だった。魔石の技術によってかなり快適になっていて、スピードは現代の車とそう変わらなかったが、やはり振動や機能については現代に劣るようだ。
そうして俺と亮、華は人間界最大の学校、イーリア国立魔法・剣術学園に向かった。
学園の制度とか諸々話しておこう。この学園は3学年制で、俺たちが通っていた日本の高校と同じ。少し違うのは、授業時間やないようだろう。多くのSランク冒険者を出していたり、こっちの歴史に残る偉人を
輩出していたりする、本当の名門校なのだ。施設も多分日本の私立高校顔負けって感じの施設だ。
魔導式の機械が大量にあるトレーニングルームや寮。広大な土地に建てられたこの学園は約1000人の
生徒数を持つ。一学年あたり300人を超える。学校自体がそんなに多くないから何とも言えないがな。
「で、学園の場所ってどこだっけ」
「え、知らない?」
「うん」
「亮は?」
「僕も知らない」
「えこれまずくね?」
「大丈夫だ。学園ならこっちにあるぞ。遅刻するなよ、アル」
「え、この声、まさか……」
「よ、アル。何日ぶりかな」
「兄さん!って、何その服。もしかして学校の制服?」
「その通り。なんか面白そうなことになってたんでな。俺も入ろうと思って。
年齢的に厳しいかと思ったが、いろんな人がいて面白そうだったぞ。ほら、速くいこう。」
「あ、あぁ……え、ほんとに兄さん?」
「ん?疑うことはないだろう?それとも、なんか違和感があったか?」
「いや、別に……」
あれは兄貴じゃない。転生してからとはいえ、15年過ごしてきた兄貴だ。魔力を見ていなくてもわかる。それに、兄貴だったらめんどくさいから行かないっていうだろうし。俺がお願いしたらついてきてくれるかもしれないけど。そもそも兄さんはこんなお喋りじゃないし、まずクロハはどこにいんだ?
って話だ。
……一旦攻撃仕掛けてみるか。兄さんなら反応できるはずだし。
「そういえばアル。その二人は誰なんだ?」
「答える義理はないよ、ニセモン!」
俺は相手の後ろに回り軽めの蹴りを入れた。まったく力を込めていなかったはずだが、思いのほか
ダメージを負っていたらしい。すごく痛そうにしている。
「おい!何をするんだ!実の兄に向かって!」
「実の兄だったらよけられてるもんだから。それに、なんで俺の名前知ってたの?こっちに来るのは初なんだけど」
「……チッ、クソガキめ、覚えておけよ!」
そう言い放つと、兄貴に扮した男は逃げ去っていった。本当になんだったんだろうか。
「凜、あれ何?」
「ん-、わかんない。俺の兄貴みたいなかっこしてたけどまったく違ったしね」
「凜。多分そうじゃなくて……あの上の竜の事なんじゃないかな……」
「え?龍?」
亮が指さした方向には見覚えのある黒色のうろこを持った龍が空を旋回していた。その龍の背中には、
深い赤と黒の服を着た白髪の男が立っていた。白く長い髪をなびかせながら、魔力を抑えずにこちらを見ている。……兄貴やんけ。クロハも何してんだあいつ。
「あぁ、あれ……俺の家族とペットだね……」
「あぁ、お兄さんとペットね……ペットですって?!あの龍が?!」
「うん。ペットってことにしておこう」
空を旋回していたクロハと兄貴は、ゆっくり下に降りてきた。クロハは町を壊さないように龍状態を解いてから、すごい勢いで降りてきた。もはや落ちてきたという方が正しいまである。
「アル。連絡もなしに突然国外に行くとは、何かあったのか?」
「色々ね。なんか、こっちの学園に招待されちゃってさ。いい経験になると思うから、行ってみようと思って。連絡はほんとに忘れてた。ごめん」
「それならいい。それより、クロハの方が言いたいことがあるそうだ」
「えぇ、アルフレッド様。これは一体、どういうおつもりでしょうか?目の前に美少女二人。
美男子一人。……この浮気者め。女たらしめ!」
「え、えぇ?」
「え、凜この人とそういう関係だったの?」
「いやいや、違うし。そもそもお前そんなキャラだっけ?」
「はい!私は貴方様にお仕えした時からこのような態度ですが?」
「兄さん、なにしたのか素直に」
「特に何もしてないんだけどな。アルがいない間、暇してたから少し遊んだんだよ。こいつは龍状態だったから、少し本気でな。それで、弱点を探しまくってたらこいつがいきなり「お”っ///」って」
「うっわぁ……。兄さんやったなぁ……」
「ん?なにもおかしくないだろ?それで、強くやるとよかったみたいだからアルにやってもらえよって言ったらこうなった」
「なんで俺がやるんだよ!いやだよ!」
「別にマッサージするだけだしいいんじゃないか?」
「亮、華。耳ふさいどいてくれる?」
そう言おうと後ろを振り返る。目の前には、顔を真っ赤にしている亮と嬉々としつつも若干引いている
華がいた。
「え、何想像してんの?」
「うん、まぁ、私たち高校生だしねぇ……凜?」
「……兄さん、恨むからな?」
「恨むならクロハにしてくれ。最初に言い出したのはこいつだから」
「クソ……と、とりあえず学園の方に行こう?間に合わないかもしれないし」
「そ、そそそ、そうだよ!急がなきゃ!」
「ちょっと待て。学園の場所は?」
「あっ……」
「だと思った。ほら、行くぞ」
それから俺たちは兄貴に案内されながら学園へとたどり着いた。それまでの間、クロハに嫌というほど迫られ、死ぬほど気まずかったのは言うまでもない。




